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壱
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しおりを挟む義仲には四人の側近がいる。彼らは義仲四天王と呼ばれる名高き戦士であり、義仲にとって心許せる大切な仲間でもある。
今井四郎兼平。
樋口次郎兼光。
根井小弥太行親。
楯六郎親忠。
木曾次郎源義仲が、平家討伐に名乗りをあげ挙兵した当時から、彼らはずっと傍にいた。
兼平と兼光は義仲の乳兄弟であり、巴にとっての兄にあたる。行親は義仲よりも年長で、三十路半ばの豪胆な男だ。そして親忠はその行親の息子で、小子と同じ十七歳の少年だった。
「へぇ~、これが義仲サマが攫ってきたっつう噂のお姫サマですかぁ。さっすが藤原北家の姫君だけあって愛らしい容姿だなぁ」
じろじろ見られることに慣れていない小子は、遠慮なく話しかけてくる親忠の前で、人形のように口を閉ざしている。
「まぁまぁ六郎、そんなに不躾に見るもんじゃなくてよ。姫様が怯えているわ」
巴はくすくす笑いながら親忠を窘める。けれど黙り込んでしまった小子の反応が面白いからか口調は柔らかい。
「ごめんごめん、だけど俺こんなに愛らしい姫君なんか間近で見たことなかったからさ、つい興奮しちゃって! 同い年なんだろ?」
たしかに親忠の顔は紅潮し、瞳が輝いている。小子は親忠が十七歳だと知りこくりと首を縦に振る。その反応に歓喜したのか、親忠は嬉しそうに顔をにやけさせる。
「だったら仲良くなれるんじゃないかな、義仲サマの傍にいるもの同士」
また小子がこくりと首肯すると、親忠はにこりと笑う。十七歳の少年相応の眩しい笑顔が、小子だけに向けられる。そして。
「……許されるのでしたらぜひ、貴女の名を俺に呼ばせてください」
さっきまでの口調をがらりと変えて、義仲がつけてくれた小子という名を自分も呼びたいのだと親忠は大胆にも頼み込む。
その勢いに飲み込まれそうになった小子が首を動かす前に、冷たい声に遮られる。
「それは駄目だ」
むっつりとした顔の義仲が親忠と小子の間に割り込んでくる。
「小子は俺だけのものだからな」
すぐさまちいさな姫君の身体をひょいと抱き上げると、安心したのか表情を穏やかにして、親忠に勝ち誇ったように告げる。
「たとえお前たち四天王に護ってもらおうが、誰にも彼女の名は呼ばせないぞ」
その、子どもじみた主の行為がおかしくて、呆気にとられている親忠の隣で、巴は笑い転げる。
「くくっ、義仲ったらそこまでしなくてもいいじゃない……っ」
「じゃ、じゃあ俺たちは姫様のことなんてお呼びしたらいいんですか?」
「知るかそんなこと。なんで俺がそこまで考えなきゃいけないんだ。小子の二つ名など必要ない。お前たちが呼びたいのなら本人に聞け。ただ、冬姫とは呼ぶなよ絶対に」
畳みかけるように義仲は返して小子の身体をそっと下ろす。自分も座り込み、あらためて小子を膝の上に乗せ、呆れた表情の親忠やまだ笑いつづけている巴の前で小子の長い髪を優しく撫ではじめる。小子は恥ずかしそうに顔を赤らめ、義仲から逃げようとじたばたしている。
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