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Ⅲ 隠蔽されし神話に生きる斎たち * 6 *
しおりを挟む星音が蘇った当時の『夜』の斎。彼女は逆井氏の傍流にあたる鎮目の家に嫁いだ女から生まれた娘で、膨大なちからを秘めていた。
うつくしい容貌の少女で、海のように澄んだ青い瞳を持っていた。彼女は『夜』の斎として『月』の斎とともに亀梨神社へ仕えていた。
とはいえ、当時は戦乱の時代。椎斎もまた戦火が絶えなかった。椎斎を治めていた逆井氏の要望もありふたりの斎巫女は戦女神として戦場で祈りを捧げる日々を続けていた。
神社が焼けた際もふたりは不在で、それゆえ簡単に星音を蘇らせてしまったのだ。
そのとき星音を足止めしていたのが退魔の能力を持つ鎮目一族である。彼らは退魔師と名乗り、村人に『鬼姫』とおそれられている星音を『悪魔』と認識し、容赦なく攻撃を与えた。だが、外国流儀の手法は神の子である星音には通用しない。
星音が蘇ったことを聞きつけ神社へ戻った『夜』と『月』の斎は鎮目一族に合流し、星音を再び椎の木の植わっていた場所へ封じようと戦いに臨む。
だが、戦いに慣れていない『月』と『夜』の斎は苦戦する。星音は虫けらを殺すように殺戮を繰り返し血に染まっていく。影で仕えていた『夜』の騎士や逆井の人間も巻き込む中、『月』の斎が星音へ眠りの呪いをかけたところで、星音の動きをちからで抑え込んでいた『夜』の斎が精力尽きて倒れてしまう。
命を失いかねない『夜』の斎を救ったのは鎮目一族の女魔術師だった。
彼女は『夜』の斎に生気を与え、身代わりとして自ら死ぬことを選んだのだ。
だが、『夜』の斎は自分の代わりに彼女が死ぬのを許せず、彼女を生かすために邪悪な星音のちからを浄化してその身へ宿そうと試みる。
結果、女魔術師は生き延びた。
だが、『月』の斎にかけられた眠りの呪いを発症し、一日の大半を眠って過ごすようになる。身体に封じられた星音は完全に眠りについていたが、いつ覚醒してもおかしくはない。鎮目の人間はコトワリヤブリを批判し、逆井氏に反旗を翻し、逆井氏の天下だった椎斎を奪うという暴挙に出た。
後に逆井氏は降伏し、双方は和解したが、これを機に椎斎は鎮目氏によって表沙汰統治されることとなる。
星音を宿したまま生きていた女魔術師は自分の肉体が滅びる前に転移の魔術を試み、星音の霊体を切り離し、己の娘に負の遺産として相続させている。
けして封印を解かず、眠りの呪いと付き合いながら生を貫き死の間際にちからある血縁に継がせるのだ、そうすることで椎斎の街は守られまた鎮目の一族は繁栄しつづけるのだと言い残して。
+ + + + +
「それ以来、コトワリヤブリ……まぁ要するに『月』と『夜』の人間たちは鎮目の人間を『星』と呼び、星音の封印が解けないよう椎斎の地で見守るようになったんだ」
転移の術は西欧のもので、コトワリヤブリに使えるものではない。それゆえ、鎮目の人間だけが星音の封印を持続することが今日まで可能だった。
「彼らは『星』の斎を媒介に星音を眠らせたまま、現代まで封じつづけてきた。そのこともあって、鎮目一族は椎斎での地位を確かなものにしている」
「だけど、封印は解けてしまった……?」
不安そうに声をあげる由為の横で、景臣が念を押すように口をひらく。
「すべてが解けたわけじゃない。現に『星』の斎はいまも眠りの呪いと戦いながら鬼姫として覚醒することを拒んで肉体を死守している……いつまでもつかはわからないけど」
鎮目の人間のなかにいる『星』の斎である少女が自らに封じられた鬼姫と戦っている。自分の身体を奪われないよう、眠りの呪いと戦いながら。
「もしかして、その子が『星』から肉体を守っているから、ふつうの人間には見えない姿で現われているってこと?」
入学式の日に見た光景を思い出しながら、由為が口にすると、景臣はそのとおりと頷き、嬉しそうに微笑む。
「よくわかったね。ユイちゃんが見たあの女の子は『星』がつくりだした霊体……まぁ幽霊みたいなもので、ふつうの人間は見ることも触れることもできないんだ」
でも自分は見えたよ? と首を傾げると優夜が無愛想に告げる。
「お前はふつうじゃないんだ」
「なんですかそれ先生! いくらなんでもその言い方って……」
食ってかかる由為を見てますます嬉しそうに笑う景臣。言った本人はどこ吹く風だ。それにしてもどうして景臣に笑われなくてはならないのだろう。
「別にあたし霊感があるわけでもないですよ、いきなりあんな光景に出くわして幻覚でも見たんじゃないかと慌てたふつうの、ふつうの! 女の子ですよ?」
「ふつうを強調しなくていい。どうせもう元には戻れないから」
優夜にさらりと言いのけられて由為は唖然とする。
元には戻れない?
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