身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,1

01. 身代わり聖女の憂鬱《1》

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 花と緑と精霊に祝福された魔法の王国、かつてはそう呼ばれていた旧大陸アルヴスの西に位置するハーヴィックにも、戦争の余波は押し寄せてきていた。
 現在のアルヴスは戦乱の世を迎えている。きっかけは科学技術の発達による精霊の消失だった。魔法を司る精霊たちが次々と姿を消していった影響で世界各地で封じられていた“冥界の穴”――通称冥穴めいけつの七つの結界に綻びが生じ、魔物が地上に出現し、人間を襲うようになったのだ。
 アルヴスの国々は魔物を封じるためという大義名分を掲げ、消えゆく魔法と結界の効力が残る土地を求めて愚かな領土争いに身を投じている。
 戦を嫌った多くの貴族が魔物の影響が出ていない精霊魔法の色濃く残る新大陸ラーウスへと亡命を図ったことも、不毛な戦争が長引いている原因のひとつだと噂されていた。精霊たちとともに生活を送っていたアルヴスの民の多くは魔物から逃れるため、また、大陸の小国同士が起こす領土争いに巻き込まれるのを厭い、身軽な者ほど大陸からの脱出を試みている状況が続いている。
 だが、ハーヴィック王国はそんな混迷期のなかにいてもなお、精霊たちを味方につけている稀有な国家であった。これは建国時に妖精王の娘を聖女と冠して王が妃に迎えたからだとか、王族の血の契約によって精霊を縛り付けているからだとか、さまざまな言い伝えがある。
 現に国王ロブレヒトやその息子で第一王子のリシャルト、第二王子のシュールトには王家代々の守護を担う大精霊の加護が与えられており、一部では王家に仕える大魔女タマーラに匹敵する魔力を保持しているのではないかとも囁かれていた。

「それにしたって、想像以上だわ……」

 もし、聖女ジゼルフィアが生きていたら――結婚初夜の閨であのリシャルトが放った魔力をすべて受け止めるのだろうか。
 直接子種を注がれたわけでもないのに、ヒセラの身体はリシャルトによって何度も絶頂を来していた。彼が『君を孕ますつもりはない』と言い出したのには驚いたが、彼自身も自分の魔力が性交渉によって外部へ影響を及ぼすと理解しているから、子作りに関して慎重になっているのかもしれない。
 魔女として生きてきたヒセラも現在の大陸では珍しい精霊魔法を使える魔力持ちだが、生まれながらの聖女であったジゼルフィアと比べれば月とすっぽんである。それでも大魔女タマーラはヒセラならリシャルトの子を為せると信じているようだった。当の本人からは孕ますつもりはないと言われてしまったけれど。

 ――王国存続のためにも魔力持ちのあたしがジゼの身代わりになって王子とのあいだに強大な魔力を持つ後継者をもうける必要があるのに、これじゃあ最初から前途多難じゃない。
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