身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,3

04. 聖女ジゼルフィアの分裂(前編)《1》

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   * * *


 魔女の森の中央におおきな樹があり、その根に絡まる形で老婆が微睡んでいる。
 この森の世界樹と呼ばれる樹から生命力を間借りしている大魔女タマーラは、とっくのとうに己が持つ寿命を越えていた。それでも彼女はまだ死ねないのだと自ら根に身体を絡ませ、身動きのとれない状態になっても魔法の王国ハーヴィックを守るため王家に仕えている。
 この事実を知るのは魔女の森に暮らす魔女と、王城で王家に使える数人の魔術師、そして国王くらいだ。聖女ジゼルフィアと第一王子リシャールの結婚式に出席したのは彼女の守護精霊であるリスのリルが変身したものにすぎない。
 それゆえ大魔女タマーラは高齢のため魔女の森から外へ出ることができないと周知されていた。けれど、王城での出来事は守護精霊であるリルや自らが持つ水晶玉による霊視によって現状を把握していたため、彼女に隙はなかった。
 先読みのちからでこの森が敵国の魔法使いに狙われ、第二王子シュールトを利用して燃やしにくることも、聖女ジゼルフィアを奪い、腹に宿ったばかりの第一王子リシャルトの子どもごと殺すのも、それに激昂したリシャルトが己の加護精霊――霊獣を召喚し、すべてを滅ぼそうとしたところで正気に戻ったシュールトに封殺されたことも、大魔女タマーラは識っていた。
 そしてそれに対抗するため、王家の加護精霊は“死に戻り”の魔術をリシャルトに向ける。その先のことは、平行世界と呼ばれる別次元へとすり替わるため、いまのタマーラにはわからない。だが、自分のことだから変わらずリシャルトに聖女ジゼルフィアを娶らせているのだろうということだけはぼんやりと理解していた。

「大魔女さま。魔女の森の南が燃えています」
「……ついにはじまったか」

 魔女の森がすべて焼き尽くされることはなかったが、これがきっかけとなり隣国花鳥はハーヴィックへ攻め込んでくることになる。王城魔術師と正気に戻ったシュールトによって騒ぎは鎮圧され、この世界に一通りの平穏は戻る。それゆえタマーラは何も指示しない。
 けれど、聖女ジゼルフィアと第一王子リシャルトが喪われたハーヴィック王国の未来は、花鳥公国が辿った“魔法との決別”へ舵を取ることとなる。そのときが、この世界の大魔女タマーラが死を迎えるときとなる。
 無責任と責められようが、世界の理を変えることは難しい。だが、大精霊の祝福を持つ聖女ジゼルフィアなら、“死に戻り”が発動した後の世界で、やり直すことができるだろうと思っていた。

「ジゼは、わしを恨むかねぇ」
「彼女は誰かを恨むようなひとではありませんわ」

 短命であることを受け入れながらも第一王子リシャルトの器となって子を宿した聖女ジゼルフィア。けれども彼女の生命の灯火はこの世界ではあっけなく消えてしまう運命にあり、そのことをジゼルフィア自身も悟っていた。意識を失ったうちに敵国の男に犯され、死んでしまうという悲しい現実さえも。

「コリー・マヒ・デ・ブレーケレ」
「わたしはただのコリーです。大魔女さま」
「ヘリーにも伝えているのだろう?」
「とっくに」
「ならば問題ない」

 大魔女タマーラの予言が王城魔術師たちの元に届いているのなら、もはや自分がすべきことは何もない。
 タマーラは騒がしい周囲をよそに、ゆっくりと瞳を閉じる。
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