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chapter,3
04. 聖女ジゼルフィアの分裂(前編)《2》
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* * *
聖女ジゼルフィアは隣国の魔法使いにあっけなく奪われ、悲惨な状況で死に至った。そして、彼女と腹の子を救えなかった第一王子リシャルトは発狂し、第二王子シュールトの手によって殺された。
その瞬間、“時”の精霊たちがざわめきだす。
妖精王ハーヴィックの加護を引き継いだリシャルトは“死に戻り”の魔法をかけられ、悲しい記憶を残したまま、半年前の結婚式に翔ぶ。
その一方で、ホーグによって殺されたジゼルフィアは霊体となって死後の審判を受けるため七つの冥穴のうちのひとつに飛ばされていた。
冥界に繋がる穴――冥穴から邪悪な気配とともに、魔物が死んだジゼルフィアの霊体を取り込もうとヒトガタの形をとる。
だが、ジゼルフィアはつまらなそうに人間の形になった魔物の身体を奪い取り、天へ声を張り上げる。
『わたくしはハーヴィック王国第一王子リシャルトさまの妻で聖女、ジゼルフィア・マヒ・デ・フロート! いまこそ大精霊の祝福を使わせていただきます』
その言葉が空気を揺らし、薄暗い世界に光を与える。ジゼルフィアの周囲に菊を思わせる小降りな八重咲きの黄色い花首が浮かび上がり、眩いほどの黄金色の花が雨のように一帯へ降り注がれていく。魔物が跋扈する冥穴を天界へ塗り替えるように、彼女の魔力は膨張し、綻んでいた結界が完全に繕われていた。
大精霊の祝福と呼ばれるそれは未来視の一種とされているが、聖女が命がけで発動させるとなると話は異なる。
自分の死が引き金となる大精霊の祝福。それは本質的な未来を視るだけにとどまらず、物理的に世界そのものをねじ曲げる威力を持つのである。
「待て、ジゼルフィア。危険だ」
リシャルトの“死に戻り”が発動したらこの記憶を持つジゼルフィアは消滅する。そして何事もなかったかのようにやり直すのだ。けれどやり直すだけでは、何度もホーグに犯され殺されてしまう。
そんなのはとてもじゃないが耐えられない。ジゼルフィアは別次元の自分が苦痛に苛まれて生命を絶たぬようできる限りのことをしようと、姿の見えぬ妖精王へ“取引”を持ちかけた。
たとえ生まれた頃から生家を加護してきた精霊に反対されようが、彼女の決意は揺るがない。
聖女ジゼルフィアは隣国の魔法使いにあっけなく奪われ、悲惨な状況で死に至った。そして、彼女と腹の子を救えなかった第一王子リシャルトは発狂し、第二王子シュールトの手によって殺された。
その瞬間、“時”の精霊たちがざわめきだす。
妖精王ハーヴィックの加護を引き継いだリシャルトは“死に戻り”の魔法をかけられ、悲しい記憶を残したまま、半年前の結婚式に翔ぶ。
その一方で、ホーグによって殺されたジゼルフィアは霊体となって死後の審判を受けるため七つの冥穴のうちのひとつに飛ばされていた。
冥界に繋がる穴――冥穴から邪悪な気配とともに、魔物が死んだジゼルフィアの霊体を取り込もうとヒトガタの形をとる。
だが、ジゼルフィアはつまらなそうに人間の形になった魔物の身体を奪い取り、天へ声を張り上げる。
『わたくしはハーヴィック王国第一王子リシャルトさまの妻で聖女、ジゼルフィア・マヒ・デ・フロート! いまこそ大精霊の祝福を使わせていただきます』
その言葉が空気を揺らし、薄暗い世界に光を与える。ジゼルフィアの周囲に菊を思わせる小降りな八重咲きの黄色い花首が浮かび上がり、眩いほどの黄金色の花が雨のように一帯へ降り注がれていく。魔物が跋扈する冥穴を天界へ塗り替えるように、彼女の魔力は膨張し、綻んでいた結界が完全に繕われていた。
大精霊の祝福と呼ばれるそれは未来視の一種とされているが、聖女が命がけで発動させるとなると話は異なる。
自分の死が引き金となる大精霊の祝福。それは本質的な未来を視るだけにとどまらず、物理的に世界そのものをねじ曲げる威力を持つのである。
「待て、ジゼルフィア。危険だ」
リシャルトの“死に戻り”が発動したらこの記憶を持つジゼルフィアは消滅する。そして何事もなかったかのようにやり直すのだ。けれどやり直すだけでは、何度もホーグに犯され殺されてしまう。
そんなのはとてもじゃないが耐えられない。ジゼルフィアは別次元の自分が苦痛に苛まれて生命を絶たぬようできる限りのことをしようと、姿の見えぬ妖精王へ“取引”を持ちかけた。
たとえ生まれた頃から生家を加護してきた精霊に反対されようが、彼女の決意は揺るがない。
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