身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,3

04. 聖女ジゼルフィアの分裂(前編)《3》

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「危険? どうせこの世界で既に消えてしまったわたくしに怖いものなどありませんわ。わたくしは決めました。聖女としての役割をまっとうできない運命だというのなら、その運命から外れればいいのです。“時”の精霊を統べる我が加護精霊ミヒャエルよ、わたくしの“枷”を外しなさい」
「ならぬ。お前の寿命は俺のものだ。貴様、妖精王と何を取引するつもりだ!?」

 マヒ・デ・フロート家の加護精霊――それは精霊というよりも魔物――旧大陸アルヴスと新大陸ラーウスの間に位置するかの国と呼ばれる島国で妖怪猫又として認識されている異形――であることは知られていない。
 長い“時”を生きる精霊を統べ、妖精王に代わり魔女の森の世界樹を見守っていたミヒャエルは、いままで素直に運命を受け入れていたジゼルフィアの反撃に動揺する。か弱い人間ふぜいが、何を言い出すのだと呆れたようにふたつに割れた長い尻尾を振っている。
 そんなミヒャエルの尾を撫でて、ジゼルフィアはくすりと笑う。

「安心なさって。たとえリシャルト王子の死に戻りですべての記憶を失っても、ミヒャエルには引き続きわたくしの寿命を、妖精王にはわたくしの“心の臓”を捧げますから」
「は?」
「そして、もうひとりのわたくしにすべてを押しつけます。彼女はわたくしと同じ顔と髪色をしている魔女になるでしょう。ミヒャエルの尾から生まれた精霊と契約し、寿命を削られる心配もせず魔女の森で元気いっぱいに暮らすのです。もちろんほかの精霊たちとも仲良しで、聖女と同等のちからも持っているわ。そしてわたくしがリシャルトさまの花嫁に選ばれるとき――わたくしは死んで、彼女が聖女になるの」

 歌うように告げるジゼルフィアを信じられないとミヒャエルが見つめている。ハーヴィック王家を存続させるため、マヒの一族が中心になって築き上げた聖女のシステムを破壊するような言葉である。アルヴス自体が戦争の混乱で先が見えないなか、今更聖女が云々というのは古臭いと、それならば新しい聖女伝説を生み出せばいいとジゼルフィアは口にする。

「――そ、そんなこと、許されるわけが」
「ミヒャエルが許さなくても関係なくてよ。わたくし、聖女の魂を分裂させますから。ミヒャエルへの代償として寿命を削り心臓に爆弾を持つ本来の聖女ジゼルフィアと、何も知らないけれど聖女としての役割を果たすことができる魔女のジゼルフィアへ。でも、同じ名前だと混乱しちゃうわね……そうだ! 妖精王の娘から“ヒセラ”なんてどうかしら!」
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