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chapter,3
05. 聖女ジゼルフィアの分裂(後編)《1》
しおりを挟む初代国王はハーヴィック建国の際に妖精王の娘ヒセラルフィアを娶り、妖精王の加護を手にいれることに成功した。
その代償は人間ひとりが担うには巨大すぎる魔力。そのなかには王位を継承できる者だけが駆使できる妖精王の僕、霊獣リクノロスの封じられた魔力も含まれている。
ふだんは加護を引き継ぐ権利を持つ者の体内で封印されている霊獣は、複数の尾を持っており、それぞれ尻尾の数が決められる。初代国王が飼い慣らしたリクノロスには尾が九つあったといわれている。かの国では九尾――九つの尾を持つ狐、などと呼ばれることもある霊獣が本性を顕したという記録は現時点では存在していなかった。
「リシャルトさまは七つの尾を封じられていたわ。そして残り二つの尾をシュールトさまが引き継いだ」
だが、ジゼルフィアがホーグに殺されたことで、リシャルトは封印を解いて霊獣を憑依させてしまった。七尾の不完全なリクノロスは凶暴化し、ホーグだけでなく世界そのものを滅ぼそうと王城へ牙を向ける。それを寸でのところで止めたのが二尾を律していたシュールトだ。リシャルトを殺めたことで彼は完全体となった九尾のリクノロスを己の身体へ封じ、ひとまずハーヴィックに安寧をもたらした。
けれど、リシャルトには“死に戻り”の魔法がかけられている。死に戻った世界ではふたたびリシャルトは七尾の、シュールトが二尾の霊獣リクノロスの魔力を保持したままとなる。ふたりの力関係を変えずに、ふたりを殺し合わせないためにも、ジゼルフィアは妖精王と“取引”をしなければならないのだ。
「霊獣と言われてはいるが、リクノロスは精霊というより魔物に近いものだ。冥穴の番人たる“闇”の精霊よりたちが悪いぞ」
「それを言ったらミヒャエルだって魔物じゃない」
「ジゼルフィア。デ・フロート家を代々守護しているわしを魔物呼ばわりするとはいい度胸じゃないか」
「寿命を削って時間を操るくらいしか能がないくせによく言うわ」
「その寿命を惜しげもなく渡して今度は妖精王に心臓を捧げるというのか? 聖女を分裂させるだけなら大精霊の祝福だけで事足りるだろうに」
「花鳥公国のレティーシャは妖精王と“取引”をしたうえでこの世界から消えたのよ。同じようにわたくしも“取引”を持ちかけるだけじゃない」
なんせ相手はハーヴィックの建国に携わったヒセラルフィアの父、妖精王である。不老不死といわれる妖精王は天界から下界に至るまで神出鬼没とされているが、ここ数年は顕現していない。精霊の数が減ったのは妖精王の影響が及ばなくなったからだとも一部では囁かれていたが、隣国の“取引”にはいまも応じているという。それならばジゼルフィアも“取引”を行うことで大精霊の祝福を確固たるものにすればいい。たとえ心臓を捧げることになろうとも。
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