身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,4

04. 聖女ジゼルフィアと大精霊の祝福(前編)《1》

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   * * *


 建国当時からハーヴィック王家を影から支えていたマヒの一族のひとつで“魔女の森”を管理する立場にあるデ・フロート家には“魔女の森”を統べる大魔女タマーラと彼女の契約精霊であるリルが持つおおきな魔力とは別の枠組みに“時”を司る精霊ミヒャエルが存在している。
 デ・フロート家の一族に連なる若い女性の寿命を削りながら“時”を導く加護精霊はその日生まれた赤ん坊を見て戦慄した。
 赤子はジゼルフィアと名付けられ、晴れてマヒの一族の仲間入りをすることとなった。
 老猫の姿をした精霊ミヒャエルはふたつに割れた白い尻尾を膨らませながら赤ん坊が眠るベッドの周囲をぐるぐると回り、確信する。

「……これまた、難儀な星の下に生まれたもんだ」

 生まれてきたミルクティ色の髪の赤子は女児だった。
 彼女も加護精霊の掟に漏れることなく、ミヒャエルのもとへ寿命を削るべく、生後三か月で当主である父親によって“枷”の魔術をかけられた。
 だが、彼女が持つことになった“枷”はそれだけではなかった。なぜなら生まれたばかりの彼女の心臓にはすでにミヒャエルでは解呪することのできない“祝福”という名の爆弾が仕掛けられていたのだ。
 妖精王が気まぐれに捧げる加護のひとつである“大精霊の祝福”、それは隣国花鳥公国で魔法使いたちが使う“取引”と似た特殊な能力である。このことから、彼女はの生まれ変わりで、転生する前に“取引”を行ったものと考えられる。それも“己の心臓”を差し出すなんて……
 この娘は二十歳まで生きることはないだろうと、ミヒャエルは嘆息する。
 だが、それだけではない何かを感じる。
 物足りないのだ。あまりにも生命力が薄すぎて。
 そのぶん魔力はとんでもないが。

「世が世なら次期聖女に選ばれてもおかしくないほどだな……それまで生き延びるか。どうだろうなあ」

 ハーヴィック王家でもほんの数年前に待望の男児がふたり生まれていた。正妃とのあいだに生まれた赤子は妖精王が持っていた銀髪と碧眼を引き継いでおり、そのうえ霊獣リクノロスの尾を七つも封じられていた。愛妾とのあいだに生まれた赤子も二つの尾を持っていた。霊獣の加護が不自然に分裂した事態に王城魔術師は困惑したが、大魔女タマーラが「問題ない」と一蹴したことで事態は落ち着いている。現に霊獣の加護は王家の継承者が持つ魔法量によって変わるものであり、一生涯固定されるものではないからだ。いまは七つと二つと尻尾を分裂させている霊獣だが、時が来れば完全体となり、そのちからを憑依させられる者が次代の国王になるだろう。いまは第一王子の方が優勢だが確定したと判断するには時期尚早である。
 ミヒャエルは目の前の赤ん坊が王子の花嫁に選ばれる可能性を考えるが、そこまで先の未来は生まれたばかりの無垢な状態の彼女から視通すことはできずにいた。
 パチリ、とバスケットのなかで眠っていた赤ん坊の瞳が開く。透き通った琥珀色の、理知的な双眸を見て、ミヒャエルは驚きの声をあげる。

「ヒセラルフィア様……?」
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