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chapter,5
03. 身代わり聖女と世界樹の道程《3》
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「――そうかもしれない。だけど、あたしが知ってるこの世界で生きていたジゼは、もういないよ」
だってあたしはただのヒセラ。生まれたときから“魔女の森”で精霊たちと暮らしていた魔女の娘だもの。
妖精王の娘ヒセラルフィアの生まれ変わりだとか、聖女ジゼルフィアの魂が分裂したものだなんて言われたところで素直にうなずけるわけがない。
そんなヒセラの言葉に、コリーもにやりと笑う。
「いいんじゃない、それで」
同じになろうとする必要はないというコリーを見て、ヒセラも首肯する。
そういえばヘリーとコリーも似たような境遇だったはずだ。王城魔魔術師として王城に入ることが決められていたマヒの一族の姉妹。姉はその運命に抗い“魔女の森”で生きることを選び、妹は姉の代わりに王城魔術師として王家に仕えることを選んだ。ジゼルフィアは聖女になる運命をヒセラに託しただけ。
「ねえコリー。リシャールさまはあたしがジゼじゃないって知ったら絶望するよね?」
死に戻ってもう一度やりなおそうとしているリシャルトは、ジゼルフィアとお腹の子を救うために動いているのだ。ジゼじゃありませんと思わず口にしてしまったが、いま思えば悪手だったかもとヒセラはうなだれる。
「うーん。王子が何を考えているかはわからないけれど、ヒセラを悲しませるようなことをするひとじゃないんでしょう?」
「それは……うん」
「この数ヵ月でヒセラ、ずいぶんきれいになったと思うよ。聖女さまとして傅かされているから、ってだけじゃなくて王子さまに大切にされているんだな、って」
「そ、それはあたしのことをジゼだと思っているから……」
「ヒセラ!」
森の奥から甲高い声が響く。懐かしい声にヒセラが振り返れば、おおきな尻尾をくるりと巻いたシマリスが顔を見せる。
「リル! 元気だった?」
「まぁね。王子との結婚式以来だね。そっちも元気そうでよかったよ」
「森育ちの頑丈な身体を舐めないでよね。ジゼとは違うんだから」
「そのジゼルフィアのおかげでいまのそなたは生きているのだから、違いはしないさ」
「リルも知ってたってこと?」
「そりゃあ、タマーラさまの精霊であるおいらは世界樹とも繋がりを持ってるからね。別の世界線で生きた聖女ジゼルフィアが死の間際に“取引”した結果この世界ではリシャルト王子が記憶を持ったまま死に戻っているし、そなたがジゼルフィアから分裂している。いつか知らせなければと思ったが、デ・フロート家のミヒャエルに先を越されてしまったの」
「リル。ひどいわ」
「ごめんよ」
ポン! と木の上からジャンプして老婆の形になったリルは大魔女タマーラのかわりにヒセラを抱き寄せ、よしよしとあたまを撫でる。
世界樹に取り込まれて身動きが取れなくなった主の代わりにリルは人間の姿を模してヒセラとリシャルトの結婚式に来てくれたのだ。久方ぶりの邂逅にヒセラも瞳を潤ませる。
「けど、ヒセラが聖女ジゼルフィアから分裂したひとりであることに違いはない。ジゼの遺志を引き継いでいるのも事実さ」
「それはどの世界のジゼ?」
ヒセラとともに生きた世界のジゼルフィアなのか、それともヒセラが分裂する前の世界線で生きたジゼルフィアのことなのか。
ヒセラに問われたリルは、にやりと笑う。
「どの世界でもないかな……おいで、ヒセラ。世界樹と対話して決めるがよい。この世界にいま生きる聖女ジゼルフィアとして、そなたが選べ、この先の世界を」
だってあたしはただのヒセラ。生まれたときから“魔女の森”で精霊たちと暮らしていた魔女の娘だもの。
妖精王の娘ヒセラルフィアの生まれ変わりだとか、聖女ジゼルフィアの魂が分裂したものだなんて言われたところで素直にうなずけるわけがない。
そんなヒセラの言葉に、コリーもにやりと笑う。
「いいんじゃない、それで」
同じになろうとする必要はないというコリーを見て、ヒセラも首肯する。
そういえばヘリーとコリーも似たような境遇だったはずだ。王城魔魔術師として王城に入ることが決められていたマヒの一族の姉妹。姉はその運命に抗い“魔女の森”で生きることを選び、妹は姉の代わりに王城魔術師として王家に仕えることを選んだ。ジゼルフィアは聖女になる運命をヒセラに託しただけ。
「ねえコリー。リシャールさまはあたしがジゼじゃないって知ったら絶望するよね?」
死に戻ってもう一度やりなおそうとしているリシャルトは、ジゼルフィアとお腹の子を救うために動いているのだ。ジゼじゃありませんと思わず口にしてしまったが、いま思えば悪手だったかもとヒセラはうなだれる。
「うーん。王子が何を考えているかはわからないけれど、ヒセラを悲しませるようなことをするひとじゃないんでしょう?」
「それは……うん」
「この数ヵ月でヒセラ、ずいぶんきれいになったと思うよ。聖女さまとして傅かされているから、ってだけじゃなくて王子さまに大切にされているんだな、って」
「そ、それはあたしのことをジゼだと思っているから……」
「ヒセラ!」
森の奥から甲高い声が響く。懐かしい声にヒセラが振り返れば、おおきな尻尾をくるりと巻いたシマリスが顔を見せる。
「リル! 元気だった?」
「まぁね。王子との結婚式以来だね。そっちも元気そうでよかったよ」
「森育ちの頑丈な身体を舐めないでよね。ジゼとは違うんだから」
「そのジゼルフィアのおかげでいまのそなたは生きているのだから、違いはしないさ」
「リルも知ってたってこと?」
「そりゃあ、タマーラさまの精霊であるおいらは世界樹とも繋がりを持ってるからね。別の世界線で生きた聖女ジゼルフィアが死の間際に“取引”した結果この世界ではリシャルト王子が記憶を持ったまま死に戻っているし、そなたがジゼルフィアから分裂している。いつか知らせなければと思ったが、デ・フロート家のミヒャエルに先を越されてしまったの」
「リル。ひどいわ」
「ごめんよ」
ポン! と木の上からジャンプして老婆の形になったリルは大魔女タマーラのかわりにヒセラを抱き寄せ、よしよしとあたまを撫でる。
世界樹に取り込まれて身動きが取れなくなった主の代わりにリルは人間の姿を模してヒセラとリシャルトの結婚式に来てくれたのだ。久方ぶりの邂逅にヒセラも瞳を潤ませる。
「けど、ヒセラが聖女ジゼルフィアから分裂したひとりであることに違いはない。ジゼの遺志を引き継いでいるのも事実さ」
「それはどの世界のジゼ?」
ヒセラとともに生きた世界のジゼルフィアなのか、それともヒセラが分裂する前の世界線で生きたジゼルフィアのことなのか。
ヒセラに問われたリルは、にやりと笑う。
「どの世界でもないかな……おいで、ヒセラ。世界樹と対話して決めるがよい。この世界にいま生きる聖女ジゼルフィアとして、そなたが選べ、この先の世界を」
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