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chapter,6
01. 身代わり聖女と世界樹の記憶《1》
しおりを挟む「――久しぶりだな、我が弟子よ」
ヒセラが“魔女の森”の中心部に位置する世界樹まで到達したとき、懐かしい声が彼女の耳を掠めていった。
今もなおぐんぐんと枝葉を延ばしつづける大木の中心部で、根と同化して身動きのできない彼女が瞳を閉じた状態で待っている。
五年前――ジゼルフィアがリシャルトと婚約する前までは、こんな風に身体を戒めていることもなく、“魔女の森”を自由に動き回っていたハーヴィックの大魔女、タマーラ。
「タマーラさま……お変わりはなさそうですね」
「はっ。すでに寿命が尽きとるわしにそれを言うのか」
「それもそうでした」
「ヒセラ」
世界樹の根と同化し、視力を奪われいつ朽ち果ててもおかしくないみすぼらしい襤褸を着た老婆がハーヴィック王国を支えている大魔女タマーラだと知る人間は“魔女の森”の外ではほとんど存在しないだろう。ここ数年は彼女と長きに契約している精霊リルが彼女の姿になって王家とやりとりしているからだ。
ヒセラはすでにこの世界の理から外れているタマーラに魔力を繋いでいる大木を改めて見上げる。
ハーヴィック王国建国時に植えられたとされるこの樹は、何千年も何百年もこの場所で深く深く根を張って、魔力を包括しながら次元同士を紐付ける枝葉を延ばしていった。世界に渦巻く過去、現在、未来を俯瞰するだけの樹は、“魔女の森”に暮らす魔女たちによって育まれ、気まぐれに花を咲かせて別次元を魔女に披露する。
「この世界はリシャルト王子が“死に戻り”のちからでやり直しておる。先の世界ではおぬしは存在していない」
「あたしが、聖女ジゼルフィアの分裂した片割れだから?」
「ミヒャエルあたりに聞いたのかえ。あの“時”の猫たちはジゼルフィアに甘すぎて困る」
「答えてください。大魔女タマーラ。あたしは“死に戻り”をする前のリシャールさまを知りません。先の世界のことも詳しいことはわからないまま」
「聖女ジゼルフィアは病弱な状態で身ごもり、その身を別の男に犯されて母子共に死んだ。男は聖女が死んだあとも犯しつづけた。その姿を見て気がふれた王子は不完全な状態で霊獣を召喚憑依して暴れ、その結果、弟王子に討たれた」
「……そこまでは知ってます。あたしが知りたいのは、ふたりが死んだ後のこと」
「聖女ジゼルフィアは冥界で審判を受ける前に“取引”を持ちかけ、大精霊の祝福を使ってその魂を分裂させた。妖精王はその際にジゼルフィアの腹に宿っていた魂をもうひとりのジゼルフィアの器にし、己が持つ最期のちからを振り絞り、“死に戻り”の魔法を発動させたリシャルトのもとへ転送した」
「――え」
「妖精王は娘のヒセラルフィアの生まれ変わりが聖女ジゼルフィアの分身となったのを見届けて消滅している」
「消滅? うそ、だって……そんな」
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