74 / 123
chapter,5
05. 聖女ジゼルフィアの誤算(後編)《2》
しおりを挟む
デ・フロート家の加護精霊であるミヒャエルもジゼルフィアに「俺は公爵家の利益になる方向へ“時”を操る」と当然のように宣言され、自分の訴えを耳に入れてくれない。そのうえ……
「ミヒャエルが、言ったの。妖精王と“取引”した心臓もいつ時を止めるかわからないって。この数年でアルヴスの精霊たちが姿を消して、妖精王の所在もわからなくなってしまったし……」
「妖精王、行方不明なの?」
「わたしの心臓が動いている限りは問題ないと思うけど、このままの状態が続いたら、この世界の均衡はどんどん崩れていく」
「そういえばタマーラさまもおっしゃってた。世界樹の予言っていうの? このまま精霊が姿を消していくと世界の均衡が崩れて、今以上に冥穴から魔物たちが大陸に放たれるって……」
「現に隣国の花鳥ではクーデターが起こり、魔法との訣別を訴えはじめてるわ。ハーヴィックからすると、この状況は受け入れがたい現実よ」
「う、うん」
そこで第一王子リシャルトの花嫁を早く決めようと、王家が動き出したのだ。それは病弱なジゼルフィアにとって誤算だった。王家が聖女を選ぶのは王位継承者が成人する三年前からはじまるため、そのときまでジゼルフィアが生きていることはないと思っていたのだ。
ジゼルフィアが寿命をまっとうしてから始まるはずだった聖女選びが早まったことで、割りを食う形になったのはほかのマヒの一族の女性たちだ。だが、意外にも彼女たちはジゼルフィアを非難しなかった。むしろ第一王子の花嫁にジゼルフィアが選ばれたことを喜んでいる風だった。彼女たちもこの世界が壊れはじめていることに気づいているのだ、妖精王の所在がわからなくなり精霊たちが姿を消し大陸に魔物が蔓延り人間たちが魔法を排除し武力で抵抗している異常事態に。
「花鳥公国の公女レティーシャは妖精王と“取引”した後、この世界から姿を消している。花鳥の魔法使いは迫害され、ハーヴィックに流れ着いた者も多い。だけどホーグは妖精王と“取引”することで魔法使いとして独立し、公国の内乱を治めようと奮闘している。わたしも彼も国のために道を違えた。その結果がこれよ」
自分が聖女候補に選ばれてしまったのは仕方がない、だが、ほんらいならジゼルフィアよりもふさわしい人間がいる。
「第一王子と第二王子が成人の儀を迎えるまであと五年弱。わたしは五年後、生きていられるかわからない――」
「そんな悲しいこと言わないでよジゼ」
「だけど、もし聖女に選ばれることがあったら――ヒセラ、協力してくれる?」
王家は、王城魔術師たちは気づいていない。
だって彼女は王家が管理をデ・フロート家に任せた“魔女の森”で生まれた頃から隠れて暮らしている魔女だから。
「あ、あたしにできることならなんでも!」
「良かった……じゃあ」
王家が認識していない、それでいてジゼルフィアと同じ顔と体質と魔力を持つ魔女――ヒセラ。
ジゼルフィアは懇願する。聖女候補に選ばれた自分がもし、万が一王子との婚姻を前に死んでしまったら、自分の身代わりとしてリシャルト王子に嫁いでほしいと。
唯一無二の友人に頼むには酷なことだと理解しているけれど、こんなことを頼めるのはヒセラだから、できるのだ。
「わたしが死んだら――聖女ジゼルフィアの身代わりとなって、ハーヴィック王国第一王子リシャルトさまに嫁いで、王家のために跡継ぎを産んで欲しいの――!」
「ミヒャエルが、言ったの。妖精王と“取引”した心臓もいつ時を止めるかわからないって。この数年でアルヴスの精霊たちが姿を消して、妖精王の所在もわからなくなってしまったし……」
「妖精王、行方不明なの?」
「わたしの心臓が動いている限りは問題ないと思うけど、このままの状態が続いたら、この世界の均衡はどんどん崩れていく」
「そういえばタマーラさまもおっしゃってた。世界樹の予言っていうの? このまま精霊が姿を消していくと世界の均衡が崩れて、今以上に冥穴から魔物たちが大陸に放たれるって……」
「現に隣国の花鳥ではクーデターが起こり、魔法との訣別を訴えはじめてるわ。ハーヴィックからすると、この状況は受け入れがたい現実よ」
「う、うん」
そこで第一王子リシャルトの花嫁を早く決めようと、王家が動き出したのだ。それは病弱なジゼルフィアにとって誤算だった。王家が聖女を選ぶのは王位継承者が成人する三年前からはじまるため、そのときまでジゼルフィアが生きていることはないと思っていたのだ。
ジゼルフィアが寿命をまっとうしてから始まるはずだった聖女選びが早まったことで、割りを食う形になったのはほかのマヒの一族の女性たちだ。だが、意外にも彼女たちはジゼルフィアを非難しなかった。むしろ第一王子の花嫁にジゼルフィアが選ばれたことを喜んでいる風だった。彼女たちもこの世界が壊れはじめていることに気づいているのだ、妖精王の所在がわからなくなり精霊たちが姿を消し大陸に魔物が蔓延り人間たちが魔法を排除し武力で抵抗している異常事態に。
「花鳥公国の公女レティーシャは妖精王と“取引”した後、この世界から姿を消している。花鳥の魔法使いは迫害され、ハーヴィックに流れ着いた者も多い。だけどホーグは妖精王と“取引”することで魔法使いとして独立し、公国の内乱を治めようと奮闘している。わたしも彼も国のために道を違えた。その結果がこれよ」
自分が聖女候補に選ばれてしまったのは仕方がない、だが、ほんらいならジゼルフィアよりもふさわしい人間がいる。
「第一王子と第二王子が成人の儀を迎えるまであと五年弱。わたしは五年後、生きていられるかわからない――」
「そんな悲しいこと言わないでよジゼ」
「だけど、もし聖女に選ばれることがあったら――ヒセラ、協力してくれる?」
王家は、王城魔術師たちは気づいていない。
だって彼女は王家が管理をデ・フロート家に任せた“魔女の森”で生まれた頃から隠れて暮らしている魔女だから。
「あ、あたしにできることならなんでも!」
「良かった……じゃあ」
王家が認識していない、それでいてジゼルフィアと同じ顔と体質と魔力を持つ魔女――ヒセラ。
ジゼルフィアは懇願する。聖女候補に選ばれた自分がもし、万が一王子との婚姻を前に死んでしまったら、自分の身代わりとしてリシャルト王子に嫁いでほしいと。
唯一無二の友人に頼むには酷なことだと理解しているけれど、こんなことを頼めるのはヒセラだから、できるのだ。
「わたしが死んだら――聖女ジゼルフィアの身代わりとなって、ハーヴィック王国第一王子リシャルトさまに嫁いで、王家のために跡継ぎを産んで欲しいの――!」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる