身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,6

01. 身代わり聖女と世界樹の記憶《3》

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「分裂するだけで満足しなかった聖女ジゼルフィアはさらなる目的のため心臓を捧げるという暴挙に出た。その”取引”は自己犠牲。大精霊の祝福で力尽きた妖精王を出し抜くように悪魔は闇から姿を顕現した」
「……まさか、”取引”に応じていたのは魔物だとでもいうの?」

 ヒセラの問いかけに世界樹は答えない。代わりに口をひらいたのは大魔女タマーラだった。

「ヒセラ。花鳥公国の魔法使いたちは魔性のものをすべて精霊と呼んでおる。ゆえに彼らは妖精王と"取引"したと信じ、今に至るのじゃ。なぜなら冥界にも妖精王と縁の深い魔性がおるからの」
「縁」
「ああ。妖精王唯一の汚点ゆえハーヴィックではされている。世界樹すらその名を覚えてはいないということさ」
「世界樹すら覚えてない?」
「けれど記憶を辿ることはできるだろう。かつて何が起こっていたか。それゆえ花鳥だけが尖った理由も」

 隣国、花鳥がクーデターを起こし、軍事政権が精霊との訣別を訴えながら肥沃な魔力を持ちつづけるハーヴィックを狙っていたのはなぜか。
 花鳥の政変とほぼ同時期に冥穴から地上へ魔物たちが姿を見せ、大陸に混乱を起こしたのも関係しているのだろうか。
 だとしたら、精霊や魔法と訣別したと宣言している花鳥公国をいま支配しているモノは何なのか。



「妖精王の妻で、ヒセラルフィアの母でありながら奔放ゆえに冥界へ幽閉された悪しき魔妃マヒ――それが花鳥で”取引”に応じていた妖精王の正体さ」



 ザザザザザザ……、と葉が重なりあう音が奏でられ、ヒセラは見たこともないのにまるで海の波音みたいだと思いながら瞳を閉じる。
 妖精王の娘、ヒセラルフィアとして生きた記憶を掘り起こされながら。
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