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chapter,6
02. 妖精王の娘と悪魔の妃《3》
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妖精王はハーヴィックを建国させる際に初代国王に娘のヒセラルフィアを娶らせた。彼女が主とする精霊のちからは”光”。彼女とともに”火・水・風・土”の四大精霊が天界より舞い降り、ハーヴィックの初代国王に忠誠を誓ったとされる。四大精霊は後にハーヴィックの王城魔術師を輩出する”魔法”の一族を加護するようになった。シュールトの母で現王妃のマリアも”水”の加護を持つマヒ・デ・ヴェルディ家の出身である。また、王城魔術師でジゼルフィアの傍に置いたへリー・マヒ・デ・ブレーケレ家には”火”の加護がある。”魔女の森”に引きこもった姉コリーも同じ性質を持つため、ふたりが揃うと”光炎の魔法使い”と呼ばれ、将来を期されていた。そもそもリシャルトの聖女候補にと王城魔術師たちが当初考えていたのは”光炎”の”光”の性質が強い姉のコリーだったという。だが、彼女は「大魔女に呼ばれている」と家を飛び出してしまったため、けっきょく候補になることはなかった。王城魔術師として王家に仕えることになったへリーは「先祖帰りの魔力が強いリシャルト殿下の”闇”を受け止めるだけの”光”は持ってない」と王家に説明し、リシャルトもそれに納得してジゼルフィアを第一聖女候補に選んだのである。四大精霊よりも偉大な”時”の精霊の加護を持つ一族の娘だ、王の子を産む器になるにはなんの問題もない。が。
建国史をぱらぱらめくっていたシュールトは、ふいに目に留まったページを読んでハッとする。
「ハーヴィックの“時”を司るマヒの一族、デ・フロート公爵家」
「ジゼの生家がどうかしたか」
「デ・フロート家はほかの”マヒ”の一族と違って、精霊の加護を得るためにいまも若い娘の寿命を削らせてますよね……それも、自分たちの一族の繁栄を王家にも隠すことなく世に知らしめてる。”時”という不確定要素を司る家ゆえに独特の因習を持っているのはハーヴィック王家と変わりませんが、それにしては異質な気がして」
「……俺たちが封じている霊獣のように、か」
「そうです。俺たちは妖精王が初代国王へ娘のヒセラルフィアを捧げた際に分割された霊獣リクノロスの尾を生まれた頃から封じられていますが、父王も立太子する以前はそうだったと聞きます。代々継承される霊獣リクノロスと異なり、デ・フロート家に君臨しているのは”時”の精霊ミヒャエル――それこそ妖精王さながらの不老不死を謳う大精霊です」
シュールトの鋭い指摘に、リシャルトの書籍を捲る手が止まる。
ほかのマヒの一族を加護している四大精霊は一族の長が死ぬと同時に生まれ変わる。そして新たな長が加護を受けることになるが、代償と呼ばれるものは生まれ変わる分には存在しないとされる。なぜならすでに先代が代償を支払っているから。
――だが、”時”を司るミヒャエルは例外だ。
「そう、か。大精霊……」
その言葉はイヤというほど耳にしている。聖女ジゼルフィアが生まれつき与えられていた祝福の名前、それこそが”大精霊の祝福”だったからだ。
建国史をぱらぱらめくっていたシュールトは、ふいに目に留まったページを読んでハッとする。
「ハーヴィックの“時”を司るマヒの一族、デ・フロート公爵家」
「ジゼの生家がどうかしたか」
「デ・フロート家はほかの”マヒ”の一族と違って、精霊の加護を得るためにいまも若い娘の寿命を削らせてますよね……それも、自分たちの一族の繁栄を王家にも隠すことなく世に知らしめてる。”時”という不確定要素を司る家ゆえに独特の因習を持っているのはハーヴィック王家と変わりませんが、それにしては異質な気がして」
「……俺たちが封じている霊獣のように、か」
「そうです。俺たちは妖精王が初代国王へ娘のヒセラルフィアを捧げた際に分割された霊獣リクノロスの尾を生まれた頃から封じられていますが、父王も立太子する以前はそうだったと聞きます。代々継承される霊獣リクノロスと異なり、デ・フロート家に君臨しているのは”時”の精霊ミヒャエル――それこそ妖精王さながらの不老不死を謳う大精霊です」
シュールトの鋭い指摘に、リシャルトの書籍を捲る手が止まる。
ほかのマヒの一族を加護している四大精霊は一族の長が死ぬと同時に生まれ変わる。そして新たな長が加護を受けることになるが、代償と呼ばれるものは生まれ変わる分には存在しないとされる。なぜならすでに先代が代償を支払っているから。
――だが、”時”を司るミヒャエルは例外だ。
「そう、か。大精霊……」
その言葉はイヤというほど耳にしている。聖女ジゼルフィアが生まれつき与えられていた祝福の名前、それこそが”大精霊の祝福”だったからだ。
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