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chapter,6
02. 妖精王の娘と悪魔の妃《4》
しおりを挟む「ミヒャエルはデ・フロート家の繁栄のため若い女性の寿命を削りながら加護を与え、その一方で気まぐれに祝福を与えていたというわけか」
「まるで隣国の”取引”のようですね」
「だが、俺と結婚したことでジゼの寿命はこれ以上削られることはないはずだ」
「はい。聖女ジゼルフィアは兄上と結婚したことでデ・フロート家の枷から外れました。ですが、彼女自身への祝福は続いているのでは?」
「その祝福とはなんだ?」
王家に忠誠を誓わず、ハーヴィックの”時”を見守る大精霊ミヒャエル。
不老不死の妖精王のように気まぐれに王城へ顔を見せることもなく、デ・フロート家の加護にひたすら撤しているのはなぜか。その彼がいまになってジゼルフィアのもとへ姿を見せ、世界樹へ行くよう促したのは……?
「俺の仮定ですが、ミヒャエルが与えた大精霊の祝福を、いまの彼女は持っていないのではないかと思います」
だとすればジゼルフィアが自分はジゼではないとリシャルトに伝えたのも理解できる。大精霊の祝福がなにかはわからないが。
「それよりも俺はデ・フロート家の”マヒ”にまつわる記載が気になります」
「マヒ?」
それはハーヴィックでは”魔法”を意味する単語でしかない。
だが、書物には”魔妃”と記されている。
「”時”を司る偉大なる魔法の一族――の間違いではないのか」
「この一節だけ”魔妃の一族”となってます」
ほかの”マヒ”の一族とは違うのだと、シュールトは確信を持って兄へ告げる。
「ホーグから聞いたことがあります。冥界へ封じられた妖精王の汚点、ハーヴィックで忘れ去られた悪魔の妃のことを」
「悪魔の妃……?」
リシャルトはその言葉に悪寒を感じる。
ホーグは隣国で”取引”を通じて特別な魔法使いになった。その”取引”で聖女ジゼルフィアを手に入れようといまも影で蠢いているのも知っている。
その彼がシュールトに教えたという逸話など不愉快でしかない。だが、弟王子は目を輝かせて説明をつづける。
「妖精王の妻で、悪魔の妃、ってまるで”闇”の精霊ですよね。俺たちの霊獣を建国時に譲ったのも彼女なんじゃないかと彼は言ってました」
「”闇”だと」
「妖精王だって建国時に”光あるところに闇来る、風とともに時を動かせ”と初代へおっしゃっていたじゃないですか」
霊獣リクノロスが持つ”闇”と”時”の加護。リシャルトとシュールトを悩ませる異質な魔力。その正体は”悪魔の妃”――魔妃が与えたもの?
「やはりデ・フロート家はほかのマヒとは違うんですよ」
「シュールト。だが、彼女は」
「もしいまの聖女ジゼルフィアが偽物なのだとしたら……兄上、なぜ彼女がいまになってそのことを告白されたのか考えました?」
「……いや」
「朴念……っと、”死に戻り”でこの世界に戻ってきた兄上同様、聖女ジゼルフィアにも事情があるのでしょう。”時”の精霊は次元を俯瞰するといいます。”魔女の森”の魔女たちがいる世界樹へ聖女が呼ばれたということは、それだけの事態が……俺たちには到底理解できない何かが起こっているんです……たぶん」
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