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chapter,6
03. 逆行する魔術師の恋情《1》
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ホーグ・イセニアが初めて出逢ったジゼルフィアは病弱で、部屋の外に出ることなどほとんどない、いつ死んでもおかしくない肌の青白い美少女だった。「儚い」という言葉を地で行くような彼女の姿から目が離せなかった。彼女に「恥ずかしいから見ないで」と言われても。
ホーグの父親はハーヴィックの王城騎士団に所属していたが、遠征先の花鳥公国で魔法使いの母親と結婚したため、いまはフリーの傭兵として大陸各地を渡り歩いている。とはいえハーヴィック国王と幼馴染みゆえ、しょっちゅう呼び出しを食らっており、ホーグも母とともに何度もハーヴィックを訪れていた。
アルヴスにいた精霊の数が減りはじめ、魔物が冥穴から出現した頃のことである。
大陸各国がきな臭い動きを見せ、この混乱に乗じて内乱や戦争が勃発した結果、さらに精霊たちは姿を消していった。それと比例するかのように魔物が人間を喰らい、少しずつ大陸侵略を進めていく。だが、魔法のちからによって守護されていたハーヴィック王国だけは平然としていた。
それを快く思わなかったのが隣国、花鳥公国だ。
「――亡命を」
「いえ、……がありますのでそれはできかねます」
魔法との共存――妖精王との”取引”――を受け入れていたイセニア一家は変わりゆく花鳥公国に危機感を抱いていた。ホーグの両親はハーヴィックで当然のように亡命を勧められたが、極秘任務に携わることの多かった母が隣国に迷惑はかけられないとやんわり拒否したため、あくまで国王の客人という扱いで今回は長期滞在することになる。
息子のホーグに魔法を学ばせたいという両親の希望から、国王はマヒの一族のなかで”土”の加護を持つ年配の王城魔術師、フィンリーに彼を託した。
フィンリー・マヒ・デ・ブラウン。長身短髪ゆえ見た目は男性のように思われがちだが、ハーヴィックのれっきとした魔女として王家に仕えている彼女は、十歳になったばかりのホーグに加護精霊と契約精霊、四大精霊の加護とそれ以外の精霊、妖精王の伝承とマヒと呼ばれる一族についてひとつひとつ丁寧に教えていった。
ある日、花鳥公国の魔法使いとの違いについてホーグが問いかけると、フィンリーは考え込むような顔をしてからこう伝えた。
「加護を持つマヒのなかで終わらない”代償”をつづけている一族がひとつだけあります。花鳥でいう”取引”に近いかもしれません。実際に見ていただくのがよろしいでしょう」
そしてホーグはジゼルフィアと出逢った。一度目も、二度目も。
マヒの一族のなかでも最上位である”時”の精霊を従え、恒久的に加護を得ているというデ・フロート家の一人娘。
おそろしいことに彼女は一族の繁栄のために加護精霊ミヒャエルに寿命を奪われていた。か弱い少女の寿命を削ることで一族を栄えさせるという”代償”がなぜ建国当時から続いているのか、ホーグはフィンリーに詰め寄った。だが、大陸髄一と呼ばれる世界樹が植えられた国有地”魔女の森”を管理しているデ・フロート家はハーヴィックだけでなく世界の”時”を動かすだけの、それこそ王家にも等しい魔力を秘しているため、彼らを敵にまわすことはできないのだと彼女は諭すだけであった。
王家は異質であることを知りながら、デ・フロート家も四大精霊の加護を得ているほかのマヒの一族と同じように扱っている。王家に忠誠を誓っている四大精霊の加護を持つマヒの一族と異なり王城魔術師として王家に仕えることは滅多にないが、”魔女の森”で暮らす魔女たちのなかにはデ・フロート家の末裔も混じっており、そこで国を越え大陸のためしいては世界のために魔力を扱っているのだという。
「天界から冥界まで俯瞰できる世界樹が魔女の森にはあります。タマーラさまは世界樹に選ばれ、デ・フロート家の加護を抜けたと言われています」
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