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chapter,6
04. 聖女ジゼルフィアの終焉(前編)《1》
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ジゼルフィアのもとに第一王子リシャルトの婚約者――聖女となるよう王命に近い要請が届いたことで、デ・フロート公爵家は加護精霊ミヒャエルが要求する代償であった娘の寿命の”枷”を外し、三歳になったばかりの従妹アズールが引き続き代償となる寿命を削るということで契約を更新した。両親の勝手な決定にジゼルフィアは憤ったが、これ以上寿命を削って第一王子の子どもを産めなくなっては困るというミヒャエルの言い分も理解できるため、渋々ジゼルフィアはデ・フロート家の”時”の加護という名の”枷”を外し、付け焼き刃な花嫁修行をはじめることになる。
「ミヒャエルの加護はデ・フロート家を出るまではわたくしも受けられるけど、リシャルトさまと結婚すると加護のちからは失われるわ。そうなると大精霊の祝福を持っているだけのどこにでもいるマヒの娘になる……けれど、前世で自分は”取引”をしていたみたいなの。その結果が」
「虚弱体質? 寿命を削られていたから弱っているんだとばかり思った」
「生まれつき身体が弱い理由が”代償”によるものか”取引”によるものかはよくわからない。けれどミヒャエルは”取引”があったからわたくしの心臓に欠陥があるのだと言っていたわ」
「ミヒャエルって人間の寿命も読めるんだっけ」
「いちおう”時”を司る精霊のなかでは上位精霊だから……その彼がいうにはわたくしは二十歳までは生きられないみたいよ」
「だからあたしに聖女の身代わりになれって言ったの?」
魔女の森のツリーハウスでハーブティーを飲みながらジゼルフィアはヒセラのもとで事情を説明する。
ジゼルフィアと瓜二つの魔女ヒセラは友人に「もうすぐ死ぬから王子の花嫁になれ」と頼まれてひどく困惑しているようだった。
「婚約期間は三年。ミヒャエルがわたくしの寿命を削ることをやめたことを考えると、あと三年くらいなら生きれると思う……けれど、魔力の高い王子の子どもを妊娠して産むだけの体力はいまのわたくしにはないわ。でも、リシャルトさまの魔力は妖精王の先祖帰りとも言われてるからマヒの一族のなかでもちからの強い娘じゃないと聖女になれない」
「ジゼが正直に話せばいいんじゃないの? 体力に自信がないので無理ですごめんなさいって」
「両親が許してくれないわ。それにミヒャエルは一族の繁栄を優先する加護精霊だからわたくしの意見は受け入れてくれないの」
「なにそれひどい! 精霊魔法ってお互いに信頼関係がないとうまく使えないのに」
「ふふ。契約精霊の場合はそうよね。ヒセラのミヒャエイールはあなただからちからを貸してくれるんですもの……おかわりいただけるかしら」
「もちろん、階下でハーブ摘んでくるからちょっと待ってて」
「にゃお」
「こういうときだけ猫かぶらないでよミヒャエイール! ジゼは言葉わかるんだから」
まったくもう、とぷりぷり怒りながらヒセラがハーブを摘みに立ち上がる。ドライのものよりも自生している摘みたての生葉を煎じるのがヒセラのお気に入りで、そこにシュガーをはじめ、シナモンやクローブ、ナツメグなどのスパイスを調合していくのである。”魔女の森”に自生しているナイトミントやブルーローズマリーは茶葉だけでなく薬草としても優秀なので、王城魔術師たちもときどき摘みに訪れるほどだ。
彼女の姿がツリーハウスから見えなくなったのを確認して、白い猫の精霊が先っぽの割れた尻尾を振る。
「わしはヒセラを守護するために産み出された精霊ゆえ、ミヒャエルが何考えてるかはわからぬぞ」
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