身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,6

04. 聖女ジゼルフィアの終焉(前編)《3》

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 ジゼルフィアが”魔女の森”で魔女たちと親しくしているのをデ・フロート家の人間は黙認している。生まれつき身体の弱い、精霊に寿命を削られているかわいそうな娘が”魔女の森”で同年代の魔女と過ごしているときくらいは穏やかでいてほしいと願っているからだ。それに”魔女の森”には大魔女タマーラがいる。

「タマーラさまが親代わりとなってわたくしとそっくりな魔女の子を育ててるって知ったときは驚きました。きっとヒセラもわたくしを見てそう思ったでしょうね」
「……ああ」

 ミヒャエルはヒセラの存在を受け入れたくないとけして彼女に逢おうとしない。別の世界でなにかしら因縁があったのだろうとミヒャエイールは想像するが、この世界ではたいして意味を持たない。ジゼルフィアがヒセラを聖女の身代わりにと考えていることも想定しているのかもしれない。だが、ミヒャエイールは彼女たちの行く末を見届けることしかできない。ジゼルフィアが前世で”取引”したことで心臓に欠陥を持っている事情も、”祝福”でヒセラと分裂したことも、この世界で赤子のジゼルフィアによって生まれたミヒャエイールには知らされていないのだから。

「分裂するのも面妖なことだ。前世の記憶も引き継げればよかったものの」
「そうね」
「ヒセラも……」

 前世の記憶があれば、ジゼルフィアはもうすこし器用に生きていけただろう。おとなしく死を受け入れて残りの人生をもうひとりの聖女、ヒセラに押し付けることに罪悪感を抱くこともなく。だが、先の世界の記憶が悲劇的な未来しか映していないから、ミヒャエルはあえてなにも伝えていないのかもしれない。
 ミヒャエイールが両耳をぴょこんと震わせて、言葉を止める。

「あたしがどうかした? ミヒャエイール」
「いや。ジゼの身代わりなどできるのかねぇと」
「えー、そんなこと言ってませんってば」
「ミヒャエイールもジゼもひどいなぁ、あたしだってやればできるわよ。聖女サマの身代わりだって、きっと……」

 あえて明るく言い返すヒセラに、ジゼルフィアの胸が痛む。
 そう、この心臓が止まるとき。彼女は聖女ジゼルフィアになるのだ。
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