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chapter,7
02. 身代わり聖女の懐妊《2》
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ぽつりとこぼすヒセラの言葉に、ミヒャエルがぱたん、と尻尾を倒す。
ジゼルフィアがハーヴィックの聖女に選ばれなければ、彼女はほんとうに好きなひとと幸せなまま、一生を送れたはずなのに。
そんなヒセラの切ない想いを断ち切るように、白い老猫はつまらなそうに声をあげる。
「殺してまで手に入れようと考えた男だぞ」
「うん。ちょっと常軌は逸しているけれど、ジゼはそれでも嬉しかったんじゃないかな」
「ちょっとどころじゃねぇよ!」
二匹の白猫につっこまれながらヒセラはうーん、と伸びをする。魔導書をひろげていてもなかなか内容が身に入ってこない。それに最近は妙に気だるい日が続いている。気持ち悪い以前に、お腹がすいて眠くなる。
「ヒセラ?」
「ごめん、ぼーっとしてた」
「毎晩王子と過ごしてるんだもんな、眠いよな」
ミヒャエイールの身体を気遣う声が心地よい。けれどこのまま眠ってしまったら、目覚めた先で戦争が始まってしまう……そんな気がしてならない。
ヒセラの葛藤をよそに、睡魔は彼女を優しく包み込んでいく。
「……ヒセラ」
「ん」
「お前はそのまま王子に愛されて、国とデ・フロート家を救う聖女になるんだ」
ミヒャエルの声が遠い。
――知ってるわよそんなことあなたに言われたところで……
「だが魔妃はお前の魔力を狙ってくるだろう。”心臓”を動かすための動力として、リシャルトの子を身籠ったお前の……」
ミヒャエルの声が途切れる。ホーグが聖女を狙っているように魔妃も狙っているのだという警告が、ヒセラの脳裡に刻まれる。
その瞬間、ぶわっ、とヒセラの視界は極彩色の溢れだしたひかりによって遮られる。
膨大な魔力の塊が、ぴとっとヒセラの子宮へくっつき、萌芽する。
それは着床の合図。
そして”魔女の森”にある世界樹に、ぽつんとひとつ、おおきな花の蕾がついた。
ジゼルフィアがハーヴィックの聖女に選ばれなければ、彼女はほんとうに好きなひとと幸せなまま、一生を送れたはずなのに。
そんなヒセラの切ない想いを断ち切るように、白い老猫はつまらなそうに声をあげる。
「殺してまで手に入れようと考えた男だぞ」
「うん。ちょっと常軌は逸しているけれど、ジゼはそれでも嬉しかったんじゃないかな」
「ちょっとどころじゃねぇよ!」
二匹の白猫につっこまれながらヒセラはうーん、と伸びをする。魔導書をひろげていてもなかなか内容が身に入ってこない。それに最近は妙に気だるい日が続いている。気持ち悪い以前に、お腹がすいて眠くなる。
「ヒセラ?」
「ごめん、ぼーっとしてた」
「毎晩王子と過ごしてるんだもんな、眠いよな」
ミヒャエイールの身体を気遣う声が心地よい。けれどこのまま眠ってしまったら、目覚めた先で戦争が始まってしまう……そんな気がしてならない。
ヒセラの葛藤をよそに、睡魔は彼女を優しく包み込んでいく。
「……ヒセラ」
「ん」
「お前はそのまま王子に愛されて、国とデ・フロート家を救う聖女になるんだ」
ミヒャエルの声が遠い。
――知ってるわよそんなことあなたに言われたところで……
「だが魔妃はお前の魔力を狙ってくるだろう。”心臓”を動かすための動力として、リシャルトの子を身籠ったお前の……」
ミヒャエルの声が途切れる。ホーグが聖女を狙っているように魔妃も狙っているのだという警告が、ヒセラの脳裡に刻まれる。
その瞬間、ぶわっ、とヒセラの視界は極彩色の溢れだしたひかりによって遮られる。
膨大な魔力の塊が、ぴとっとヒセラの子宮へくっつき、萌芽する。
それは着床の合図。
そして”魔女の森”にある世界樹に、ぽつんとひとつ、おおきな花の蕾がついた。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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