身代わり聖女は「君を孕ますつもりはない」と言われたのに死に戻り王子に溺愛されています

ささゆき細雪

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chapter,7

04. 妖精王の再来と復活の聖女(前編)《1》

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   * * *


 心臓が抜き取られたジゼルフィアの遺体はデ・フロート家が管理している”魔女の森”の南部に位置する地下霊廟に葬られた。
 ハーヴィックでは、朽ち果てた脱け殻は魂を冥界に移し、死神による審判の時を経て、天界、下界、冥界を総じて三界と呼ばれる場所の何処かにて次の生を受けるまで無垢な状態で永い眠りにつくとされている。”魔女の森”の中央に位置する世界樹が統べる平行世界には編み物のように三つの世界が組み込まれており、その糸を握っているのが”時”を操る大魔女と呼ばれる存在であった。

「ジゼルフィアは自ら冥界行きを選んだのじゃ。あとのことをヒセラに押し付けて」

 この世界での大魔女タマーラはつまらなそうに呟き、膨らみはじめた花の蕾を見上げて目を細める。ヒセラと第一王子リシャルトとのあいだに子どもができたのだと、世界樹が報せてくれたのだ。

「先の世界の記憶がなくとも、魂は引き寄せられてしまうのかねえ」

 ”死に戻り”によって聖女ジゼルフィアとやり直そうとしたリシャルトの思惑をよそに、ジゼルフィアは先の世界で分裂を願い、もうひとりの自分にリシャルトを押し付けてしまった。ジゼルフィアは先の世界で殺された男に恋情を秘しており、彼を救うため大精霊ミヒャエルを騙して冥界で”取引”も行っていた。よりによって悪魔の妃、マヒエラと――ここまではタマーラにも視えていた。

「ヒセラは聖女ジゼルフィアとなってリシャルト王子と結婚した。身代わりであることを隠し通すつもりでいたが、恋に堕ちた彼女は罪悪感から彼に告白してしまったのう……だが、その行動が新たな未来の可能性の枝葉となった」

 一方でジゼルフィアはデ・フロート家の始祖と呼ばれる妖精王の妻マヒエラと”取引”を行った結果、死後に心臓を彼女へ明け渡している。
 ヒセラは心臓の抜かれたジゼルフィアの遺体を見ていないが、生まれつき心臓に欠陥があった彼女が下界での”時”を止めて別の世界へ旅立つことは以前から覚悟していたらしく、タマーラが驚くほど素直に聖女ジゼルフィアの身代わりを受け入れていた。

「ヒセラは妖精王の娘、ヒセラルフィアの転生者でもある。強力な”光”はハーヴィック王家の”闇”を表へ引きずり出そうとして、別のモノを炙り出してしまったが……デ・フロート家は知らぬ存ぜぬでいまもやり過ごしておる。ミヒャエルも難儀なものよの」

 冥界に封じられているマヒエラは夫である妖精王が消滅したことから花鳥の魔法使いたちとの”取引”で得た魔力を自在に扱えるようになり、その結果、冥界から地上へ復活しようと企てている。ジゼルフィアの心臓を利用して。
 世界樹がタマーラに伝えたのは過去、別の世界線で何が起こっていたか。そしてそこでの結果はいまと全く異なるものであるという、あまりにも頼りないものであった。
 けれど、タマーラは朽ちた身体を世界樹に委ねて笑っている。契約精霊のリルはそんな大魔女を怪訝そうに見つめている。

「いくら魔力と肉体を取り戻したところで、マヒエラに完全体の霊獣リクノロスを制するだけのちからはない。……あれは妖精王の再来となる男。相手が悪すぎるのだよ」
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