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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
祝言と監禁 03
しおりを挟む果たして自分の花嫁となった彼女は何者なのだろう。はなればなれにされた双子の妹。素朴な茶摘み着物を着た姿は愛らしく、されどどこか懐かしさをも感じさせた桂木家のとね――音寧。
綾音に似た容貌でありながら、男を知らない初々しい乙女。
自分はもしかしたら最低なことをするのかもしれない。何も知らないであろう彼女をいいことに、傑が綾音を淫らに調教していたときのように……有弦なしではいられない身体へと躾けていくのだから。
「薬酒はこちらでよろしかったでしょうか。グラスは主寝室のサイドテーブルに配置しております」
「ああ、問題ない」
祝言に使われた酒とは異なり、西洋風の葡萄酒に似た濃紫色の液体が、透明な硝子瓶のなかで揺れている。震災前の日本橋本町は薬種問屋がひしめき合うことでも有名だったため、このような特殊な薬を手に入れることも容易かった。
西欧から渡ってきた違法な媚薬が法外な値段で取引されていたのを思い出し、有弦は苦笑する。綾音が傑と資を間違えて襲ったほどのあの薬はいろいろとひどかったものだ。けれどそのおかげで有弦は筆おろしができて、今日の日を迎えることができたのだ。童貞のまま花嫁を迎えていたら、きっとわからないもの同士右往左往してしまったことだろう。
恥ずかしがるであろう彼女を快楽で染め上げるために、自分の身に残っているほんの少しの罪悪感を消すために……有弦は用意した薬酒を使うのだ。
双子の姉のように、妹も啼くのだろうか。
未だ見ぬ花嫁の痴態に期待する愚かな自分を蔑みつつ、有弦は祝言の黒振袖から初夜のための夜着へと着替えさせられるであろう可憐な新妻を迎えられるよう、控え室に戻り、自身が着ていた袴を脱ぎ洋装へ姿を変えて、荒々しく階段をのぼっていくのだった。
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