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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
破魔のちからと形見の鏡 01
しおりを挟む時宮家の蔵には明治時代の初頭に西洋から渡ってきたとされるさまざまな装飾品や武具、美術品などが蒐集されている。和風の蔵には場違いな甲冑や洋弓、宝石のあしらわれた首飾りや指輪などが家宝として仕舞われており、ふだんはしっかりと鍵がかけられていた。
表面上は綾音と音寧の祖父が外交官として海外の要人と深くつきあっていたため、となっているが、旧公家華族で日本神道の流れを汲む時宮家の本質を知る人間たちからすると、あれらの宝物はどれもこれも「呪い」や「不思議なちから」を持ついわくのある品々ばかりで、悪しきものを封じるちから――破魔を持つ時宮の一族にすがる形で海外のお偉いさん方が手放したというのが真相だったりする。
蔵に封じられた宝物の多くは浄化されていたものの、危険性が完全になくなったわけではないからと彼らはそれらを封印し、長い間そのままにしていた。
明治から大正へとときが移り、綾音と音寧の祖父が亡くなったことで、蔵の持ち主が双子の父親に代わった。彼もまた破魔の持ち主で、音寧の存在を無視していたのも、その異能を失うのを恐れていたからとも、彼女だけが異能を受け継がなかったからだともされている。
現に綾音は破魔のちからを持って生まれてきたが、音寧は時宮の血を持っていながら破魔のちからを持っていない。持っているのは青みがかった気味の悪い黒い瞳だけだ。母親はこれも時宮の不思議なちからの顕現だと音寧を慰めてくれたが、常人と同じ見た目の綾音が破魔の能力を持っているのを見れば、父親が役に立たない自分をなかったものとして扱うのも仕方がないと半ば諦めもついた。
それでも母親が生きていた頃は綾音と音寧はともに行動することを許されていたため、時宮家の双子令嬢として周囲から羨望の眼差しを向けられていた。ふだん使うことのない破魔の能力だが、悪いことを回避させるという意味合いで「時を味方につける」と囁かれていたためだ。音寧にそのちからがないことを彼らは知らない。知っているのは両親と綾音と音寧だけ。
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