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Ⅷ 月下美人と悪魔な賢者
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しおりを挟む「ならば、彼女を丁重にもてなすしかなかろうよ」
「でも」
「髪の色など、染粉でどうにでもなる。ムラトではなくお前が白銀の姫君を手に入れていると世間に知られれば、皇帝の座をひっくり返すことも容易だ」
「……それほどまでに弟が憎いのですか」
「そりゃ、な。儂を社会的に殺した男だからな……お前とともに」
「老い先短いんだから黙っていればいいのに」
「最期に一花咲かせるのも一興じゃあないかね、アフメト・イデア・ハトゥン? 隠されし典雅王の子よ」
夢見る老人を窘めたところで、彼は聞く耳を持たない。
既に権力など無用の長物と思っているイデアを彼は謙遜しているだけだと解釈し、ほんとうは大国の皇帝に返り咲きたいのだろう? と甘い言葉で誘惑する。
それはイデアがマイヤに叶うはずのないルクリエンテ再興を唆しているのと同じ、単なる暇つぶしだと思っていた。
けれどもそれは今になって違うのだと、痛感してしまった。
目の前で両親に毒杯を飲まれたマイヤは本気で逃げ出したルクリエンテの白銀の姫君を目の敵にし、オスマンのスルタンに捧げて国を再興させるのだと騒いでいた。
イデアは彼女に近づき、その願いが枯れぬよう、水と肥料を与えた。ただ、植えた願いの種が別の品種であることは黙ったまま。彼女の夫グーリーにも、それは伝えてある。いつか憎しみが昇華されれば、新たな美しい花が開くだろうと。
だというのにザイードはスルタンに捧げる、という点を除いてマイヤを利用していた。あろうことかザイードは白銀の姫君をイデアに娶らせ、オスマン帝国の現スルタン、ムラト二世からスルタン位を奪いとることを計画していたのだ。
――自分こそが典雅王、メフメト一世の第一子、アフメト・イデア・ハトゥンだと、名乗りをあげさせて。
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