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しおりを挟む地学室で、声をかけられた。
「大伊さんって、星が好きなの?」
掃除を終えて、帰っていいよと先生に言われ、みんなはとっくに帰っていった。だけど香子はほうきを片手に、呆然と黒板の横に掛けられている巨大星座盤を眺めつづけていた。
通称星座早見表、もしくは星座早見盤。手のひらサイズのかわいらしいものならよく見かけるが、こんなに大きな星座盤は今まで見たことなかった香子、思わず魅入ってしまう。
白枠に囲まれた円い紙面の内側に見えるのは青い紙面に散らばる黄色と白の斑点。まるで点結びのように実在しない直線が星座を描いている。
夜空に輝く満天の星。さいきんは空を見上げることもなくなっていた香子、星座なんて興味ないけど、それでも毎日のように空を見ていたなぁと、そんなことを思い出している矢先に、彼の声がしたのだ。
「あ、クラスの人……だよね?」
香子は振り向いて、不安そうに確認する。クラスの人と呼ばれた少年は、傷ついた表情で、自分の名前を告げる。
「日雀。名前くらい覚えてくれよ」
「……ヒガラ、くん」
変な苗字の人だ、と香子は心の中でこっそり呟く。クラスの男子に自分の名前を呼ばれることに慣れていない香子、真正面から自分を見つめる日雀と名乗った少年の前で、思わず手にしていたほうきを落としてしまう。
床に落ちたほうきを、日雀が拾いあげ、無言で掃除用具入れに突っ込む。
「あ、ありがとう」
日雀の背中に向けて、弱々しく礼を言う。少しばかり他人行儀な香子の言葉に、彼は苦笑を浮かべながら言い返す。
「かしこまらなくてもいいのに。なんか大伊さんといると調子狂うなぁ」
「そう? あたしは別になんともないけど」
それはきっと、まだ自分がここに溶け込んでいないからだと、香子は思う。
困惑している日雀を見て、香子は慌てて話題を戻す。
「好きだよ、星。そういうヒガラくんは?」
首を左右に振って、日雀はやんわりと否定する。そして。
「俺? 嫌いだよ」
にかっと、不可解な笑顔を見せた。
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