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しおりを挟む「雨上がりの澄んだ空なら、きっと綺麗に見えるはず。だから、見に行こうよ!」
電車に揺られて一時間半。学校を出たときはまだ黄金色だった風景も、今では漆黒に染まっている午後八時。
「大伊さんって行動派……」
同じ県内だというのに、すこし移動しただけで、空の色が違うと、香子は確信する。
……本当の星を見たことないから、怖いなんて言うんだ。
「ここなら、きっと見えるよ」
半ば強引に日雀を連れてきた香子、山の方なら空気も綺麗だろうと判断して、制服姿のまま山岳公園まで来てしまった。
雨上がりの青臭さ。むせ返るような新緑の香り。公園の中に街灯は一つだけ。
香子は街灯の影響がない場所まで歩き、方角を見極める。
……ムリして足掻く必要はないってヒガラくんはあたしに教えてくれた。だからあたしも彼に教えてあげなくちゃ……星はあたしたちを監視しているわけじゃないよ、だから怖くないよ、って。
肉眼でもくっきり、星たちの姿は見える。空を見上げて、うわっと声をあげる日雀。
「……すげ」
星が、降っているかのよう。
田舎の星空には及ばないけど、足を伸ばせば忘れていた風景を取り戻せる。香子は右手を天に掲げる。南の空。
「あれは、このあいだ屋上で見た北斗七星だね。ひしゃくの一番先っぽと、アルクトゥールス……うしかい座の中で一番輝いてる星、それからおとめ座のスピカ。この三つを点で結ぶと、春の大曲線になるんだよ」
「詳しいじゃないか」
「昔見た風景と、被ったから……」
東の空には満ちていく半月。淡い黄色が、香子を郷愁に誘う。でも、帰りたいなんて思っていない。ただ、懐かしいなと感慨に耽っただけ。
だって、隣には、日雀がいるから。
「星は優しいの。監視なんかしてないよ。怖くなんかないよ……だから、嫌いだなんて言わないで」
星が嫌いだと口にしていた日雀。まるで自分のことを嫌いだと言われたみたいだった香子。地学室で声をかけられたときから気になっていた、太陽の黒点に夢中だった男の子。
……あんなにも、楽しそうに空を見つめているのに。
星が嫌いな天文部の男の子。日雀がそう豪語した時点で、香子は彼に星を好きになってもらおうと思った。どうして嫌いなのか知ろうとして、近づいてそして。
「好きって、言って」
なんだこれは。告白みたいじゃないか。
香子は自分で何を言ってるんだと心の奥底で焦りつつ、思いっきり声をあげる。
「だってあたし、ヒガラくんが……!」
彼が星を好きになってくれたら嬉しいと。
そう言おうとしたけどそれは建前で。
本当は、本当は違うことを口に。
口にしようとした言葉。
先に言われた。
「好きになったよ、俺」
天の羊の群れの下、日雀は香子の言葉を遮って、淡々と告げる。満天の星空と。それから。
「大伊さんの、こと」
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