最終バスで、初恋のお兄ちゃんに求婚したら

ささゆき細雪

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 とっくに大人なのだから門限もないはずなのに、幼い頃に「早く帰らないとお化けに食べられちゃうぞ」と亡き祖父にさんざん刷り込まれてしまったせいか、夜遅くに主不在の実家に帰るのは怖いものがあった。けれど金曜日の夕方、同棲していた彼氏がほかの女をアパートに連れ込んでしっぽりいたしている場面を目撃した身としてはあそこに戻るくらいなら実家であたまを冷やした方がましだと身体が勝手に動いていた。
 愚痴を聞いてくれる友人たちの多くは就職で上京してしまったし、地元の友人も新しく家庭を持ったりして二十五歳のあたしを受け入れてくれる余裕はなさそうだったから、半ば自棄になっていた。ひとりで地元の映画館に入り浸り、人目をはばかることなく泣きじゃくり、駅前の牛丼屋で特盛牛丼を食べたら男のことなどどうでもよくなった。

 時刻は午後八時半。駅前はまだ栄えていたけどひとりでオールするような場所はこの中途半端な地方都市には存在しない。着の身着のまま財布とスマホだけという心もとない状況だったが、財布につけておいた実家の鍵に呼ばれた気がしたあたしは駅前ロータリーのバス乗り場の時刻表を調べていた。あと五分もすれば車庫行きの最終バスが来る。ふとスマホを見れば男からの謝罪だか言い訳だかよくわからないメッセージが入っていた、けど既読無視。明日にでも荷物を取りに行ってそれでサヨナラだ。同棲はじめて三ヶ月、なんとも短い春でした。


『モネちゃんは簡単にオトコに騙されそうで心配だなぁ』


 かつて実家の隣に住んでいたお兄ちゃんの言葉を思い出す。そうですね、高校卒業してから何度痛い目を見てきたことか。それもこれもお兄ちゃんのせいですよ。高校卒業とともに上京してからこっちにぜんぜん帰ってこないって隣のおばさん言ってたけど、いまどこで何をしているんだろう。大地主の息子だからすこしくらい遊び歩いていても痛くも痒くもないらしいけど、歳のはなれた幼馴染みに連絡先を教えることもなく進学してしまった彼のことをあたしはいまも忘れられずにいる。だって初恋だったんだもの。だけど五歳年下のあたしは最後まで彼の妹ポジションに甘えていた。今度彼が戻って来るときはお嫁さんになる女性を連れて帰ってくるときなんじゃないか、いや、土地を売ってそのお金で都会に引っ越してしまうんじゃないか、とか、ざわざわする気持ちはいまも残っているけれど。そんな初々しい気持ちを封印したくてほかの異性と付き合っては裏切られている。自分は本気だったのに向こうはセフレとしか思っていなかったとか、二股三股されて彼女さんと男の敵だと意気投合してクズ男を成敗したりとか、本命が別にいるとか……ってこれはあたしか?
 まあ男運がないのは事実なのだろう。今回は結婚前提に同棲しようって言ってた男に弄ばれてしまった。もはや笑うしかない。
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