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03. 電波障害で保護された a
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外見だけじゃなくて中身もぜんぶすきだよ、って最初に言ってくれたのは春継。
好きな気持ちを止められなかった夏来。
突然額にキスしてきた桂輔。
人が人を好きになるって、どういうこと?
考えすぎて余計に混乱して眠れなくなって迎えた朝。
……春継がいなかった。
一本先の電車に乗って行ってしまったのだろうか。
ホームに並ぶ学生服の行列を呆然と眺めながら、彰子は春継を探す。
昨日の今日だ。
いないだろうと、諦めていたけれど。
やっぱり、いないことを思い知るのは辛い。苦しい。
満員電車に押し込められて、こんなにもここは居心地の悪い場所だったっけと首を傾げる。
普段なら、春継が傍にいてくれるから、痴漢も近寄らない。
だけど、春継がいないとこんなにも不安になる。
閉所恐怖症になってしまったかのように、冷や汗を流す。
神経が参っちゃう。それでも気を抜けない。
最寄駅に着いた途端、くらりと視界が傾いだ。
鞄から取り出した手鏡で、自分の顔を見る。
真っ青な顔。
滅入った顔。
きっと桂輔に嫌いと言われるであろう顔。
そして、自分も嫌いだな、と思う顔。
「ユイさんおはよう! ど、どーしたのその顔?」
クラスメイトの朱野由海だ。彰子のあまりにも悪い顔色に驚き慄いているようだ。
「おはよユーミ。顔? 大丈夫。すぐ治るから」
せめてもの強がりで、彰子は微笑む。
だけど、体調は嘘をつけない。
* * *
放っておけない。改めて桂輔は思う。
彰子のこと。昨日の今日だから、まだ完全には立ち直ってないだろうと思ったが。
……やっぱりショックだったんだな。
夏来のこと。春継のこと。人を好きになることに臆病になっている彰子のこと。それから、そんな彰子につけこんでいる、自分自身のこと。
机に突っ伏している彰子。まともに睡眠もとれなかったのであろう、健康的な淡い桜色の肌が今日は青白く透き通っている。
どうすればいいかなんてわからない。ただ、放っておけない。どうして放っておけないのか考えることすら面倒くさい。
こんなんだから、お人よしなんて言われるんだろう。それでも構わないと、桂輔は嘲笑を浮かべる。と。
「ケースケ不気味」
彰子がぼそり、顔をあげて呟く。自分が彼女のことを考えていたなんて気づいていないのだろう、彰子は唇を尖らせて、桂輔を見つめる。
「なんだ、起きてたのか?」
今は昼休み。彰子はぐったりした体勢を崩すことなく、器用に首から上の部分だけを持ち上げている。蛇みたいだなぁと場違いなことを桂輔は思う。
「うん。体調ぐずぐずで食欲もないのだ」
「保健室行けばいいじゃん」
「いやだ。どうせ眠れないもん」
昨日のことを言いたいのだろう。彰子の言いたいことを理解した桂輔は、溜め息をつく。
「考えすぎじゃないの?」
「だって」
彰子は頬を膨らませる。
「いつもの場所に、あいついなかった」
「オワダハルツグ?」
「そ。毎朝同じ時間に同じ場所で待ち合わせして手ぇ繋いで電車乗るのにいなかった」
心底寂しそうに彰子が話す。「手ぇ繋いで」と口にした時の彰子の切なそうな表情が、桂輔を惑わせる。
「あたしが、いけないんだよね……」
自分自身を追い詰める彰子。誰もが認める美しい外見だけでなく、優柔不断で、無頓着で無防備で……その、猫みたいに気まぐれで素直で純粋な内面を抱いた彼女に、春継も夏来も惹かれたのだろう。桂輔は何も言わず、彰子を見つめる。
……もしかしたら俺もなのか。
彰子に、惹かれているという事実。でも、それは友人としてだと桂輔はかぶりを振る。
恋愛対象として彼女を見ることをしてしまったら、と、桂輔は考える。
……彼氏持ちの彼女を奪うほどの気力、俺にはないか。
からかうくらいでちょうどいい。
それ以上、本気になったら。
恋の落とし穴に嵌ってしまったら。
抜け出せなくなって、この曖昧で怠惰な、それでいて甘ったるい二人だけの空間は歪んでしまう。
「ユイさんのせい?」
「ちがわない?」
気弱な彼女の問いかけに、桂輔は首を左右に動かす。思いっきり否定されたことに気づいた彰子、苦笑を浮かべる。
「悪かった。ケースケに聞いたあたしがバカだった」
「なんだそれ」
「でも、元気でた。便所行く」
そういうと、立ち上がってふらふらと教室を出て行く。彰子の後姿を心配そうに見守る桂輔。それを見ていたのか、由海が小声で桂輔を呼ぶ。
「何? 朱野さん」
「ユイさん元気ないみたいだけど、どうしたの? 朝から顔色悪かったけど、貧血だけじゃないよねあれ? 浜名はまなくんわかる?」
若干早口気味に由海が喋る。どうやら友人の様子が朝からおかしいことに気づいていたようだ。
彼女自身、本人が大丈夫気にするなというから気にしていないフリをしているけど、実際はとっても心配で仕方がない、そんな様子がありありと見える。
「寝不足と貧血だろ」
桂輔はあっさり返答する。その応えに不満なのだろう、由海は尚もつっかかってくる。
「でも、それじゃあユイさんが浜名君に愚痴ってる理由にはならないじゃない。保健室行って休んでいた方が精神衛生上こちらとしても安心できるし」
「それは本人に言ってくれ。俺もユイさんに言ったけど却下されてるんだ」
「やっぱ心配?」
「そりゃね」
頷く桂輔に、由海は続ける。
「実は好きでしょ、ユイさんのこと」
「そりゃ……って何言わせるんだ」
思わず頷きそうになった桂輔、慌てて由海に反論する。
「なんか、二人共仲がいいのにお互いに遠慮してるよね。こっちとしては早くくっつけーって思うんだけど。まぁそういうわけでそこんとこ理解してくれると嬉しい」
「あのな、朱野」
由海に向けて、彰子には既に彼氏がいることを告げようと、桂輔が口を開くと。
演劇部の女の子だろう、大きくて甲高い声が教室中に響き渡った。
「由海大変! ユイさんトイレで倒れたって!」
「あちゃあ」
由海が頭を抱える横で、桂輔は毒づく。
「……ばかやろ」
それは、紛れもなく、彰子に向けて放たれた言葉。そして、由海を置いて立ち上がって。
「保健室だろ? すぐ行く」
脱兎のごとく駆け出した桂輔。それを見て、由海は首を傾げる。
「……やっぱり好きなんじゃないの?」
好きな気持ちを止められなかった夏来。
突然額にキスしてきた桂輔。
人が人を好きになるって、どういうこと?
考えすぎて余計に混乱して眠れなくなって迎えた朝。
……春継がいなかった。
一本先の電車に乗って行ってしまったのだろうか。
ホームに並ぶ学生服の行列を呆然と眺めながら、彰子は春継を探す。
昨日の今日だ。
いないだろうと、諦めていたけれど。
やっぱり、いないことを思い知るのは辛い。苦しい。
満員電車に押し込められて、こんなにもここは居心地の悪い場所だったっけと首を傾げる。
普段なら、春継が傍にいてくれるから、痴漢も近寄らない。
だけど、春継がいないとこんなにも不安になる。
閉所恐怖症になってしまったかのように、冷や汗を流す。
神経が参っちゃう。それでも気を抜けない。
最寄駅に着いた途端、くらりと視界が傾いだ。
鞄から取り出した手鏡で、自分の顔を見る。
真っ青な顔。
滅入った顔。
きっと桂輔に嫌いと言われるであろう顔。
そして、自分も嫌いだな、と思う顔。
「ユイさんおはよう! ど、どーしたのその顔?」
クラスメイトの朱野由海だ。彰子のあまりにも悪い顔色に驚き慄いているようだ。
「おはよユーミ。顔? 大丈夫。すぐ治るから」
せめてもの強がりで、彰子は微笑む。
だけど、体調は嘘をつけない。
* * *
放っておけない。改めて桂輔は思う。
彰子のこと。昨日の今日だから、まだ完全には立ち直ってないだろうと思ったが。
……やっぱりショックだったんだな。
夏来のこと。春継のこと。人を好きになることに臆病になっている彰子のこと。それから、そんな彰子につけこんでいる、自分自身のこと。
机に突っ伏している彰子。まともに睡眠もとれなかったのであろう、健康的な淡い桜色の肌が今日は青白く透き通っている。
どうすればいいかなんてわからない。ただ、放っておけない。どうして放っておけないのか考えることすら面倒くさい。
こんなんだから、お人よしなんて言われるんだろう。それでも構わないと、桂輔は嘲笑を浮かべる。と。
「ケースケ不気味」
彰子がぼそり、顔をあげて呟く。自分が彼女のことを考えていたなんて気づいていないのだろう、彰子は唇を尖らせて、桂輔を見つめる。
「なんだ、起きてたのか?」
今は昼休み。彰子はぐったりした体勢を崩すことなく、器用に首から上の部分だけを持ち上げている。蛇みたいだなぁと場違いなことを桂輔は思う。
「うん。体調ぐずぐずで食欲もないのだ」
「保健室行けばいいじゃん」
「いやだ。どうせ眠れないもん」
昨日のことを言いたいのだろう。彰子の言いたいことを理解した桂輔は、溜め息をつく。
「考えすぎじゃないの?」
「だって」
彰子は頬を膨らませる。
「いつもの場所に、あいついなかった」
「オワダハルツグ?」
「そ。毎朝同じ時間に同じ場所で待ち合わせして手ぇ繋いで電車乗るのにいなかった」
心底寂しそうに彰子が話す。「手ぇ繋いで」と口にした時の彰子の切なそうな表情が、桂輔を惑わせる。
「あたしが、いけないんだよね……」
自分自身を追い詰める彰子。誰もが認める美しい外見だけでなく、優柔不断で、無頓着で無防備で……その、猫みたいに気まぐれで素直で純粋な内面を抱いた彼女に、春継も夏来も惹かれたのだろう。桂輔は何も言わず、彰子を見つめる。
……もしかしたら俺もなのか。
彰子に、惹かれているという事実。でも、それは友人としてだと桂輔はかぶりを振る。
恋愛対象として彼女を見ることをしてしまったら、と、桂輔は考える。
……彼氏持ちの彼女を奪うほどの気力、俺にはないか。
からかうくらいでちょうどいい。
それ以上、本気になったら。
恋の落とし穴に嵌ってしまったら。
抜け出せなくなって、この曖昧で怠惰な、それでいて甘ったるい二人だけの空間は歪んでしまう。
「ユイさんのせい?」
「ちがわない?」
気弱な彼女の問いかけに、桂輔は首を左右に動かす。思いっきり否定されたことに気づいた彰子、苦笑を浮かべる。
「悪かった。ケースケに聞いたあたしがバカだった」
「なんだそれ」
「でも、元気でた。便所行く」
そういうと、立ち上がってふらふらと教室を出て行く。彰子の後姿を心配そうに見守る桂輔。それを見ていたのか、由海が小声で桂輔を呼ぶ。
「何? 朱野さん」
「ユイさん元気ないみたいだけど、どうしたの? 朝から顔色悪かったけど、貧血だけじゃないよねあれ? 浜名はまなくんわかる?」
若干早口気味に由海が喋る。どうやら友人の様子が朝からおかしいことに気づいていたようだ。
彼女自身、本人が大丈夫気にするなというから気にしていないフリをしているけど、実際はとっても心配で仕方がない、そんな様子がありありと見える。
「寝不足と貧血だろ」
桂輔はあっさり返答する。その応えに不満なのだろう、由海は尚もつっかかってくる。
「でも、それじゃあユイさんが浜名君に愚痴ってる理由にはならないじゃない。保健室行って休んでいた方が精神衛生上こちらとしても安心できるし」
「それは本人に言ってくれ。俺もユイさんに言ったけど却下されてるんだ」
「やっぱ心配?」
「そりゃね」
頷く桂輔に、由海は続ける。
「実は好きでしょ、ユイさんのこと」
「そりゃ……って何言わせるんだ」
思わず頷きそうになった桂輔、慌てて由海に反論する。
「なんか、二人共仲がいいのにお互いに遠慮してるよね。こっちとしては早くくっつけーって思うんだけど。まぁそういうわけでそこんとこ理解してくれると嬉しい」
「あのな、朱野」
由海に向けて、彰子には既に彼氏がいることを告げようと、桂輔が口を開くと。
演劇部の女の子だろう、大きくて甲高い声が教室中に響き渡った。
「由海大変! ユイさんトイレで倒れたって!」
「あちゃあ」
由海が頭を抱える横で、桂輔は毒づく。
「……ばかやろ」
それは、紛れもなく、彰子に向けて放たれた言葉。そして、由海を置いて立ち上がって。
「保健室だろ? すぐ行く」
脱兎のごとく駆け出した桂輔。それを見て、由海は首を傾げる。
「……やっぱり好きなんじゃないの?」
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