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+ Jessica +
【 弔 い の 鐘 を き け + Jessica (4) + 】
しおりを挟むニコールの死からはじまったジェシカとミトの関係は、恋人同士というよりも共犯者、と呼ぶようなものだった。ミトによって女にさせられたジェシカは身体を編集者であるミトと重ねながら、ニコールという筆名でタチアナ書房からささやかにデビューした。処女作は恋愛要素のないミステリだったが、ミトとの関係が深まるにつれ少しずつ恋愛を絡めた作品が生まれるようになる。
大学在学中にノミネートされた文学賞で、ニコールの名は全国的なものとなる。ジェシカというひとりの少女の存在は薄れ、作家ニコールが彼女の名刺に変わった。それでもまだ、彼女はミトに口づけを許していなかった。
自分はミトのために物語を綴っているわけではない、だってこれはニコのための鎮魂歌。そう思いながら筆を進めてはため息をつく日々……
「ニコール先生、進捗はいかがですか」
「相変わらず厭味ったらしいことこの上ないわね、ミト」
「探偵と女怪盗のバトルシーン、もうすこし華を持たせてもいいのでは?」
「……そうね。ニコだったらきっと」
――さりげなくキスしてそう。
「ジェシカ。おいで」
あぁ、どうしてこの意地悪な海色の瞳はあたしが考えたことを即座に見抜くのだろう。ジェシカは筆を置いてすくっと立ち上がり、ミトの方へ身体を向けて歩きだす。
「ミト。こういうとき、キスを仕掛けるのは女怪盗の方よね」
「ああ」
「背の高い探偵の顎を掴んで、つま先立ちをして――……ねえ」
「キスしたくなった?」
「――そのうるさい口を塞がせて」
「喜んで、お姫様」
ふたりの影がひとつに溶け合う。
意地を張っていたジェシカと、彼女の恋の芽生えを見守りつづけたミトは、セックスのようなはじめてのキスをする。
唇を重ね合わせるだけだったのが、いつしか舌を絡めたものになり、苦しそうに息継ぎをしながら、ジェシカはその甘い快感にほんのひととき、目的を無視して溺れた。
心はまだぜんぶあげない。けれどニコが死んで以来、絶えず真摯に愛を囁きつづける彼を見ていたら、絆されてしまうのは致し方ないことだ。ジェシカはミトに陥落しつつある自分のことを一蹴して、必要なキスを執拗に受け入れる――……
既にニコールの死から二年が経っていた。
あのときの弔いの鐘は、夢を現実にするための試合開始の鐘だった。
そしてミトとジェシカでニコールの名を世間へ拡めはじめたいま。
ようやく、恋戦という新たな試合が、ふたりの間で幕開いたのである。
“Death bell as Fight of the love”―――fin.
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