クビ寸前のプロ野球選手ですが、異世界野球のパイオニアになります!

みきりひん

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11球目【ロブロイさんはキングドワーフです!②】

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【前回のあらすじ】
 キングドワーフのロブロイさん、ブチ切れる。


「野球を国技としたいから道具を作って欲しい、だとお~~ッ!? ふざけるのも大概にせィ! だいたい、野球とはなんだ? 何か分からないものの道具など、どうして作れるというのか! そんなものの作り方を手探りで探していくほど、この工房に時間の猶予はないのだ!!」

 うわぁ、めっちゃキレとる……そして、大声を出すたびに建物が揺れて怖いんですが。耐震構造とかしっかりしてるかな、ここ。かなり疑わしいが。
 もちろん、ロブロイさんの言い分はもっともだ。野球が何かも分からないのに、その道具など作れるはずがないことは火を見るより明らか。
 だがロブロイさん、勘違いしないで欲しい。そのために俺がいるんだ!

「落ち着いて、俺の話を聞いてください! 野球というのがどのようなものか説明--」

「こちらをご覧ください、ロブロイ様!!」

 --しようとすると、パフェリーが俺を制して、一枚の紙を広げてロブロイに見せた。

「野球のルールや、必要な道具などは、ここに記されているとおりです! こちらは、ここにいる転移者、宇賀神さんの教えをそのまま記録したものです!」

 パフェリー有能。少なくとも、説明に要する俺のカロリーと文字数が大幅に節約される。
 ロブロイさんはその紙を手に取り、随分熱心に読んでいる風だった。どうやら、この人は理不尽にキレまくる老人ではなく、筋が通ってさえいれば、きちんと見てはくれる人のようだった。少し安心する。話が通じないわけではなさそうだ。

「…ふむ。要するに、棒で球を弾く遊びか」

 …物凄く端的だけど、まぁ、間違っちゃいないかな。そこまで理解してもらえれば、とりあえずは押せそうだ。

「そうです。そのゲームを成立させるためには、打つための球、ボール、細長い棒……バットと、球を捕るためのグローブ、土を効率的に噛むためのスパイク、この四つは最低限必要なんです。ちなみに、ボールとグローブ、スパイクは、ここに用意してあります。参考になるかと……これらに加えて、木を加工して、バットを作って欲しいんです。現物はありませんが、イメージ図を描いてきました、どうぞ」

「…かなり独特な作りだな。特にこのグローブというのは、かなり精巧に作られているのではないか? 素材も良質な革だ。それに、スパイク。この歯の金属は……? フフ、ワシはおよそ、この世界の素材は見てきたと思っていたが、まだまだ知らない物があるのだな! 面白い!」

 ロブロイさんは、根っからの職人だと思った。グローブやスパイクは、それこそ一流用具メーカーの技術の粋を集めて作られた高度な逸品だ。ロブロイさん自身も優秀な職人だからこそ、これらの品を再現することがそう簡単ではないことを看破したのだろう。明らかに目が変わった。職人の魂、プライドに、どうやら火が点いた感じだ。
 あ、あと、これは絶対に頼まなきゃならなかった--。

「あと、野球用具ではないんですが、物の長さを測るものを一つ作っていただけたら……これも、紙に基準を書いてきました。この長さが二十センチで、百センチになると一メートルという単位になります。今回必要なのは、五十メートルの測りです。紐のような形状だと使いやすいですが……」

「…センチ? メートル? 初めて聞くが……これは、そう難しくはあるまい」

 俺のナニで測った二十センチが、この世界における野球関連のサイズの基本になるとは。異常な発想だと自分でも思うが、現状一番正確に長さの基準を取れる身体の部分がそこだったのだから、仕方ないんだ。許せ。

「…あいわかった。作ろう」

 やった! ロブロイさんの厳つい顔がほんの少しだけ綻んだ。交渉成立! これは偉大なる二歩目だ。道具が揃いさえすれば、さらに自信を持って野球を伝えていけるぞ!

「…ただし、十八人分だ」

「…どうしてですか? 予算の問題でしょうか? それとも、材料や人手の?」

 俺が言うと、そのどれもが違う、とばかりにロブロイさんが豪快に笑い飛ばした。

「ガハハハハッ!! そんなつまらん理由ではない! 野球は九対九……つまり、十八人で遊ぶものなのだろう? 試合をするだけならば、それだけあれば十分ということだ! エルフの国と、我々職人街の民が、な--」

「…つまり、試合の勝敗で、その先を決めようと?」

「若造--いや、宇賀神とやら、察しが良いではないか。我らの職人も、最近は仕事に忙殺されておってな……何か全体で息抜きのようなことができないか考えていたところだったのよ。これは、ワシにとっても都合の良い話なのだ。そして、どうせ勝負するならば、賭けるものがなければ面白くはあるまい。聞けば、エルフの国の女王は、野球を国技にするというではないか。つまりは、それ相応の実力があるということだろう? エルフの国が我ら力自慢を圧倒するようであれば、国技としての価値を尊重し、今後我が工房で野球用具を大量生産してやる。ただし、我らが勝つようであれば……そんなものにさほどの価値はあるまい?」

 偉大なる二歩目は、新たな試練の始まりだった--不敵に笑うロブロイを見て、今度は俺の心に火が点き始めた。

「…パフェリー、戻って女王に報告だ。ドワーフ職人軍団と、この世界初の試合開催ってな」

「…本当に勝てるんですか、宇賀神さん? エルフとドワーフでは、身体の強さが全く違うんですよ?」

「勝つさ……俺が、勝たせる。必ず!」

 ロブロイと、俺の視線が交錯する。
 ジイさん、俺の物語をこんなところで終わらせはしないぞ!!
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