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王都・第三貴族院。
重厚な扉の奥で、
男は苛立ちを隠さずにいた。
「……あり得ない」
机に並ぶ書類を、
指で叩く。
「追放した女が、
まだ生きている?」
部屋に集められた数名の貴族たちは、
誰一人として口を開かない。
——沈黙は、肯定だ。
「確かに、
追放処分にしたはずです」
一人が、慎重に言葉を選ぶ。
「命までは奪わず、
辺境へ流した……」
「それで終わると思ったのか?」
男の声が、低くなる。
「彼女は——
見てはいけないものを見た」
視線が、
一人一人を刺す。
「数字だ。
書類だ。
我々の“工夫”だ」
——工夫。
美化された言葉。
実態は、
税の横流し。
虚偽報告。
帳簿の改竄。
「彼女は、
理解していなかったはずだ」
「……だが」
別の貴族が、声を潜める。
「彼女は、日本人だそうです」
一瞬、
空気が変わる。
「……日本人?」
「はい。
数字と事務処理に、
異様に強いと」
男は、舌打ちした。
「……だからか」
偶然見ただけのはずの女が、
“違和感”を覚えた理由。
「しかも今——
彼女は辺境領主、
レオニス・ヴァルグレイの屋敷にいる」
その名に、
数名が顔を歪める。
「冷酷領主……」
「王都に媚びない男」
「厄介だな」
男は、ゆっくりと立ち上がった。
「使者は、どうした」
「牽制はしました。
ですが……」
「ですが?」
「……彼は、
引く気がありません」
沈黙。
——宣戦布告。
「……面白い」
男は、薄く笑った。
「では、
次の段階に進もう」
「次、とは?」
「——証拠だ」
全員が、息を呑む。
「彼女が何を持っているか、
誰に渡そうとしているか」
机に、
新たな書類が置かれる。
「監視を強化する。
屋敷内に、
“目”を入れろ」
「……直接、消しますか?」
男は、即座に首を振った。
「愚策だ」
「彼女を消せば、
逆に怪しまれる」
——だから。
「追い詰める」
静かな声。
「味方を失わせ、
立場を壊し、
自ら動かざるを得ない状況を作る」
誰かが、
ごくりと喉を鳴らす。
「女は、
自分が守られていると思っている」
男の目が、細くなる。
「——その幻想を、
壊してやれ」
そのとき。
「……一つ、報告が」
控えていた男が、
恐る恐る口を開く。
「彼女が、
領地の古い帳簿を調べ始めています」
——ピシリ。
空気が、張り詰める。
「……どこまでだ」
「まだ、確証は……」
男は、笑った。
だが、
その目は、冷え切っている。
「——間に合わなければ、
“事故”にすればいい」
部屋の中に、
誰も反論しなかった。
——王都は、動いた。
——本気で、潰しに来る。
だが。
男は、
まだ知らない。
その女が、
もう“独り”ではないことを。
そして——
冷酷領主が、
すでに剣を抜く覚悟を決めていることを。
嵐は、
確実に近づいていた。
重厚な扉の奥で、
男は苛立ちを隠さずにいた。
「……あり得ない」
机に並ぶ書類を、
指で叩く。
「追放した女が、
まだ生きている?」
部屋に集められた数名の貴族たちは、
誰一人として口を開かない。
——沈黙は、肯定だ。
「確かに、
追放処分にしたはずです」
一人が、慎重に言葉を選ぶ。
「命までは奪わず、
辺境へ流した……」
「それで終わると思ったのか?」
男の声が、低くなる。
「彼女は——
見てはいけないものを見た」
視線が、
一人一人を刺す。
「数字だ。
書類だ。
我々の“工夫”だ」
——工夫。
美化された言葉。
実態は、
税の横流し。
虚偽報告。
帳簿の改竄。
「彼女は、
理解していなかったはずだ」
「……だが」
別の貴族が、声を潜める。
「彼女は、日本人だそうです」
一瞬、
空気が変わる。
「……日本人?」
「はい。
数字と事務処理に、
異様に強いと」
男は、舌打ちした。
「……だからか」
偶然見ただけのはずの女が、
“違和感”を覚えた理由。
「しかも今——
彼女は辺境領主、
レオニス・ヴァルグレイの屋敷にいる」
その名に、
数名が顔を歪める。
「冷酷領主……」
「王都に媚びない男」
「厄介だな」
男は、ゆっくりと立ち上がった。
「使者は、どうした」
「牽制はしました。
ですが……」
「ですが?」
「……彼は、
引く気がありません」
沈黙。
——宣戦布告。
「……面白い」
男は、薄く笑った。
「では、
次の段階に進もう」
「次、とは?」
「——証拠だ」
全員が、息を呑む。
「彼女が何を持っているか、
誰に渡そうとしているか」
机に、
新たな書類が置かれる。
「監視を強化する。
屋敷内に、
“目”を入れろ」
「……直接、消しますか?」
男は、即座に首を振った。
「愚策だ」
「彼女を消せば、
逆に怪しまれる」
——だから。
「追い詰める」
静かな声。
「味方を失わせ、
立場を壊し、
自ら動かざるを得ない状況を作る」
誰かが、
ごくりと喉を鳴らす。
「女は、
自分が守られていると思っている」
男の目が、細くなる。
「——その幻想を、
壊してやれ」
そのとき。
「……一つ、報告が」
控えていた男が、
恐る恐る口を開く。
「彼女が、
領地の古い帳簿を調べ始めています」
——ピシリ。
空気が、張り詰める。
「……どこまでだ」
「まだ、確証は……」
男は、笑った。
だが、
その目は、冷え切っている。
「——間に合わなければ、
“事故”にすればいい」
部屋の中に、
誰も反論しなかった。
——王都は、動いた。
——本気で、潰しに来る。
だが。
男は、
まだ知らない。
その女が、
もう“独り”ではないことを。
そして——
冷酷領主が、
すでに剣を抜く覚悟を決めていることを。
嵐は、
確実に近づいていた。
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