『追放された私ですが、異世界では最上級の愛を授かりました

カブトム誌

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再審が終わり、迎賓館に戻った頃には、
もう陽が傾きかけていた。

廊下を歩く足音がやけに響く。
ここでは、どんな音も、どんな会話も、
必ず誰かに拾われる――そんな気配があった。

部屋の扉が閉まった瞬間、
静寂が落ちる。

「……やりすぎたかもしれません」

私は思わず呟く。

追放者が王都の中心で「証拠はある」などと宣言したのだ。
捕らえられてもおかしくない賭けだった。

けれど。

「いや、正解だ」

レオニス様は即答した。

「今日の一言で、
“証拠の処理”をためらう連中が必ず出る。
その迷いが、時間を生む」

時間。
それが、今の私たちにとって何より欲しいものだった。

レオニス様は机の上に一枚の地図を広げた。
王都の役所と貴族院、
そしてその裏手にある複数の倉庫に、
赤い印が記されている。

「お前が見た帳簿、
本物はまだ残っている可能性が高い。
処分するには手続きが多すぎる。
だから――焦るはずだ」

「焦りは、必ず隙になる……」

「その通りだ」

彼は腕を組み、低く続けた。

「今日のお前の言葉は、
“証拠に手を触れた者こそ疑われる”状況をつくった。
それこそが、逆転の布石になる」

私は気づいた。
レオニス様は、再審の場で証拠を出さなかったのではない。
出せなかったのではない。
出すべき瞬間が来るまで動かせないよう、相手を縛ったのだ。

「でも……その瞬間は、いつ来るんでしょう」

「来るさ。
敵が、自滅しに動いたときにな」

その言葉は、
この王都で初めて感じた“味方の存在”だった。
夜。
窓の外では、風が旗を揺らし、
見張りの兵がゆっくりと定期 patrol を続けていた。

眠れそうにない。
考えるべきことが多すぎた。

今日の発言。
敵意。
視線。
そして――覚悟。

私は小さく息を吸う。

(ここで折れたら、何も取り戻せない)

その時だった。
部屋の扉が、静かに叩かれる。

レオニス様だった。
彼は声を潜めて言う。

「……聞かれる前に、言っておく」

「はい?」

「明日から、俺は王都の内部へ直接動く。
おそらく、返り血を浴びるような真似をすることになる」

その言葉は比喩ではなかった。
この王都で“真実”に触れるには、
綺麗なだけでは生き残れないのだ。

「ミサキ」

名を呼ばれる。

「今日、お前が放った一言――
あれは俺に道を作った」

胸の奥が熱くなる。

「だが──道を歩くのは俺だけじゃない。
一緒に戦う気があるなら、覚悟を見せろ」

逃げ道は、もうどこにもない。

それでも。

「……私、後悔してません。
追放されたことも、ここに来たことも」

レオニス様の瞳が、僅かに揺れる。
それは、冷酷と噂された男の目ではなかった。

「……では聞く。
お前の“最初の一手”は、どこへ向ける」

私は迷わず答えた。

「帳簿を扱っていた部署。
そこにいたはずの、まだ口を塞がれていない人……
“生き証人”を探したいです」

沈黙。

次の瞬間、
レオニス様の口元に、わずかな笑みが生まれた。

「――いい。
それが、お前の一手だ」

彼は小さく頷き、
その言葉が、この反撃の開幕宣言となった。

その夜。
王都の闇が、静かに揺らいだ。

“追放者”と“冷酷と呼ばれた領主”が手を組んだ瞬間を、
誰もまだ知らない。

けれど――確かに、歴史は動き始めた。

次の審議が始まる前に。
証拠が消される前に。

私たちは、
先に動く。

これが、最初の一手。
逆転の始まり。
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