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底辺召喚士

覚醒

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帝歴218年。

豊潤な資源を擁するミストリア帝国内に栄える、王都『ハルバート』は危機に瀕していた。
既に領土の八割は黒煙と黒炎が入り交じり焦土と化している。

それを王都の北に位置する砦『ハルバート城』の屋上に位置する頂きから眺める初老の男性。
赤のマントに金色の王冠、そして白銀の鎧に身を包むいかにも王様であろう彼は、消えて行く自身の国土や民や兵士を憂い、嘆き、諦めの視線を送っていた。

「最早これまでか...」

バァン!

「アズベルト様!!!ご報告です!!!」

アズベルト・マルワーズ・ド・ハルバート。
ハルバート城の主であり、王都ハルバートの王である彼の後方の扉が勢い良く開かれ、焼け焦げて裂傷の目立つボロボロの鉄鎧を身に纏った兵士が入ってきた。


「...そう急がんでも良い。」

「し、しかしっ!」

焦る兵士を背中越しに剣を抜き、制す。

ジャキン...

長さ4尺程の刀身は銀色に輝き、豪華絢爛な柄の中心に紅の宝玉が埋め込まれている。

アズベルトの瞳は夕暮れを映し、その中心を猛スピードでこちらへ移動する『黒き龍』を捉えていた。

「...あ、暗黒龍がこちらへ向かっています!!!」

兵士の抑えられない不安と焦燥を感じ、己の不甲斐なさを悔やむ。

(この戦況では...我が娘や妻など...とうに...すまない!!!)

「...このアズベルト・マルワーズ・ド・ハルバート。飛龍如きに遅れは取らんっっ!!!我が民を傷つけたその爪と牙、余が切り落としてくれようぞ!!!!!」

高々と掲げた剣に、朱き夕日が輝く。
その切っ先は、漆黒の身体に兵士達の魔法や弓矢を受けながらも、気にもとめず真紅の口を開きながら迫る巨大な飛龍に向けられていた。









西暦2018年。

日本国、東京都。
高校生である『有原アリハラ 芽衣メイ』は、ルンルン気分で帰路に就いていた。

(今日は週一の楽しみっ!マジカル☆マジカの放送日ぃ♪)

大振りなスキップで周りのドン引いた視線に気づいているのか不明だが、30分程で自宅の玄関を開ける。

父、母に迎えられながら、『ただいま』の挨拶もそこそこに駆け足で階段を駆け上がり自室のテレビの前へと滑り込む。

「あの子ったら、受験生なのに大丈夫かしら...?」

不安そうな目で芽衣の背中を見送った母は父に尋ねるが、父はいつもの事だと半ば諦めのため息をつき、新聞に目を落とした。




テレビからは無邪気な声優の声と、華麗な少女の映像が流れている。

(ふょぉぉおおお!!!超エキサイティンッッッ!!!)

興奮で腕を振り回しながら心の中で乱舞する芽衣。
『魔法少女マジカル☆マジカ』が終盤に差し掛かったのだ。

マジカル☆マジカの必殺技が敵を貫き、今日も世界に平和が訪れた。

「っはぁ~!現代社会も捨てたもんじゃありませんねぇ~!」

そう言いながら、己のベッドに背中からダイブする。
ため息をつきながら、天井にびっしりと貼られたマジカル☆マジカのポスター達を御満悦の表情で眺める。

チラッと時計を見ると、時刻は午後7時。

(先にお風呂入ってご飯たべて~、それから宿題と勉強...あ、でも少し眠い。ちょっとなら...)

マンガ、アニメ、ゲーム好きな高校生なら解るだろう。
午後7時、就寝である。



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