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開闢の始まり

学園生活6

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「それでは、『学園公認』の模擬戦を始める!」

理事長アモスが高らかに宣言し、両手を挙げる。
学園公認へと位の上がった戦いの始まりを知らせる色とりどりの花火が上がった。

野次馬、否、観客はどんどん増え、校舎内の窓から身を乗り出す者までいる。

メイ達3人は、好奇の目で見られているのが分かった。
1人は貴族の美少女、1人は生徒会長、1人は学園の教師で帝国の騎士だ。
当たり前だが、それを相手取るだけのネームバリューは3人には無い。

「さて、先鋒は誰かのう?」

「私が。」

前に出たのはラファル。
レイピアを目の前に掲げ、礼をする。

デミドランはテンニーンのケツを叩き、無理やり前に出した。

「選択肢なんて無いじゃないか...。」

ぶつくさと文句を垂らしながら赤髪の青年、テンニーンが臀部を擦りながらラファルの前に立った。

「久しぶりだな、少年。」

「ええ...こんな形で会いたくは無かったですけどねっ!」

バッと右手を横に広げると、何処からともなく飛んできた金色の大剣がドームを突き破り、テンニーンの掌に収まる。
すぐさまドームは補修されたが、このパフォーマンスにはサーリフとフェイリスは勿論、観客達もどよめき歓声を挙げる。
かの有名な騎士に一矢報いてくれるのではと、期待の眼差しが向けられた。

「君は『大剣使バスターい』のまま変わらずか。あの日の続きをやれると思うとワクワクするよ。」

「そんな口説き文句、初めて言われましたよ…!」

お互いに武器を構える。
ラファルの周りには緑色の魔力が飛び交い、お得意の『風絶』が発動。
テンニーンも大剣を人撫でし、『爆炎刃』のエンチャントを施す。

「それじゃあ準備は良いかの?...開始じゃ!!!」

中庭に響き渡る号令と共にお互い走り出す。
武器と武器がぶつかる音がした。



先ずは爆炎刃が発動し、小規模な爆発が起こる。
しかし風絶はそれを通さず、只々武器と武器がぶつかり合い、爆発が視界を埋めた。

先に痺れを切らしたのはテンニーン。
後方に飛び退き、大剣を一撫でする。
そして上空に跳び、追撃してきたレイピアを避けて回転斬りを与えた。

『重鉄剣!!!』

重く、鋭い一撃。
ラファルは辛うじてレイピアの槍身で受けるが、思わず地面へと受け流した。
ズドン、と大剣は芝生に突き刺さる。

「エンチャントを変えてくるとは、なかなか思慮深いな。」

ビリビリと痺れる両手が未だ機能する事を確認しながら評価する。

「同じ手が通用しないのは明白ですからね。」

大剣を引き抜きながら再び構える。

見物している生徒達もラファルの評価したエンチャント使いの剣技に息を呑む。

「今は試験とは違う模擬戦だ。私も少し本気を出そう。」

レイピアを構え、加速する。
そして更に、踝へ緑の魔法陣が展開し、風の魔力で推進力が増加した。
ほぼ音速に近いその突きを、幅広の刀身で後ろへ受け流す。
しかし、ラファルは前方に風の魔力で踏み台を形成。
それを蹴って方向転換する事でスピードを損なわず追撃。

だが、レイピアの切っ先は空を切る。
テンニーンは後ろ向きのまま大剣の刀身を軽く当ててまたもや受け流したのだ。

そしてラファルはまたもや魔力を踏み台にし、切り返す。
それをテンニーンが受け流す。

また、また、また。

受け流す度に加速するラファルだが、それをいとも簡単にテンニーンは受け流している。
数十回繰り返す頃、観客の目に映るのは線になったラファルと大剣を舞う様に振り回すテンニーンのみだった。

「凄いな!もう私はトップスピードだぞッ!」

「このままやってても変わりませんよ?」

高速の中、2人は会話する。
そして身体の中央に迫るレイピアを、金色の大剣がたたき落とした。
バランスを崩し転がるラファル。

「ぐあっ!!」

己のスピードにより地面に叩きつけられたラファルは、風絶があるとはいえ打撲を受ける。

「...上級の魔物ですら付いてこれない速さだというのに、全く。」

悪態をつきながら立ち上がるラファル。
観客は、聖騎士ラファルの手を地面に着けさせた青年に歓喜する。

「仕方ない、奥の手の内の一つを使わせて貰おう。」

ラファルの背後に巨大な魔法陣が展開。
そこから突風が吹き、深緑の球体が出現した。
それはラファルの鎧にぶつかると、白銀を己の深緑へと染め上げる。
数秒後には、色鮮やかな緑の鎧に身を包んだラファルが佇んでいた。

「行くぞ!青年!」

レイピアを横に一閃する。
すると、真空の見えない刃がテンニーンを断ち切らんと飛来した。

咄嗟にしゃがんで回避したが、赤髪が数本、ハラリと落ちる。

「こんなの、生徒に使う技じゃねーだろっ...!」

小声でだが、冷や汗を垂らしながらも悪態をつくテンニーン。
大剣を握る掌に、思わず力が入る。

そこに間髪入れず2発目。
大剣を振り上げ、真空刃を両断し回避。
しかし、ガラ空きの腹部にラファルの拳が直接打ち込まれた。

「油断禁物だぞ、青年。」

吹き飛ばされた先にラファルがいる。
レイピアの横一閃を辛うじて背中越しに大剣で防ぐが、勢いは殺せず前方へ吹き飛ぶ。
そして待ち構えるラファル。
移動速度が、段違いに上がっている。
放たれた鋭いアッパーを避けられず、腹部に貰ってしまった。

空中に放たれたテンニーンの苦しそうな顔を確認し、追撃を辞めたラファルだが、すぐにその間違いに気づく。

魔力ドームに下から打ち付けられたテンニーンは胃液がこみ上げるのを堪え、大剣を納刀し、胸の前で掌を合わせる。
チャラリと鎖が音を鳴らし、開いたワイシャツの胸元から真紅に輝く宝玉が零れた。

上空でテンニーンの魔力が増大する。
そのまま突き出した両掌から多数の炎弾が放たれ、地上のラファルを襲った。

勤勉なテンニーンはこの半年で、無詠唱魔法をマスターしていた。
勿論、詠唱した方が正確無比な魔法が打てるが、この位荒っぽい魔法ならばそれも必要無い。



パリンっ


最後の炎弾が、ラファルの風絶を割った。
それに焦るラファルを見逃さない。

右拳を引き、紅の魔力を纏わせる。
膨大な魔力は炎として溢れ出し、巨大な拳として具現化する。

上空からの巨大な炎の右ストレートが、ラファルを襲った。
レイピアで受けるが、その刀身はジリジリと熱を帯び発光していく。
そして、大きな爆発がドーム内を覆った。

観客には爆風しか届かないが、物凄い迫力に手に汗握る者までいる。
それほどこの戦闘が生徒達を引き付けていた。

段々と晴れてきた爆煙から、両者が転がり出る。
テンニーンはそのまま回転受け身で立ち上がり服の埃をパンパンと叩き落とす。
そしてラファルはそのまま仰向けに寝転び、中庭の街灯に照らされる折れたレイピアを眺めた。

「...完敗だ。」

パタンとレイピアを掲げていた腕も地面へ落とし、溜息を吐く。

「決まった様じゃ。勝者、テンニーン・アインホルム!!」

怒号にも近い歓声が、中庭、いや校舎中から沸き起こった。


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