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風呂から上がりネグリジェを着たコーデリアを見てガブリエルもマイルスもダイアナも少なからず驚いた。
随分な時間をかけて汚れを落としたコーデリアはすっかり変わっていた。
汚れて薄茶色かった肌はやっと本物の血色がわかるようになり、血管が透けるほどの青白さだった。ところどころダニに食われたような赤みがなければ陶器の人形のようだ。
脂っぽく絡んでいた髪は切り口こそ揃っていないが絹糸のように細く真っ直ぐで、さらさらと流れるようにか細い両肩を覆っていた。
変わらないのは大きく零れそうなグレーの瞳だけで、血色の悪い唇が居心地悪そうに窄まってモジモジと動いていた。
「本当にエロイーズ様そっくりだわ」
ダイアナが感心して呟いた。
しかし見た目は変わっても中身は野良猫のままなら、ガブリエルには変わりない。
これからの長い五年の先行きは不安しかないガブリエルだった。
*****
夜中のうちにマイルスとダイアナは宮廷にある住まいに戻り。翌早朝ガブリエルはぶかぶかのワンピースを着たコーデリアを連れ、ラリサと共に馬車で出立した。
馬車に乗るコーデリアは興奮気味に、明るい陽射しを浴びて人が行きかう街の様子を窓にしがみついて眺めていた。
鼻息が荒いせいで窓が度々曇るのだがそれも初めて見る事だったらしく、ガブリエルが様子を眺めている目の前で何度もガラスに鼻息をかけては不思議そうに見ていた。
牢獄で経験出来ること以外はすべて初体験なの仕方がないことだが、こんな窓に鼻息かけるようなくだらないことを永遠と繰り返すような娘をどうしたらいいのかとガブリエルはため息を吐いた。
初日の宿泊は何事もなく済んだ。
気持ちの良さがわかったのか、それとも我慢したのか、ラリサの手伝いで風呂にもきちんと入りラリサと同じ部屋で夜になるとちゃんと眠った。
昨日からの興奮のせいで疲れているのだろうとガブリエルは思った。
翌日は通りがかった街でコーデリアの服を買った。今後も必要になるので何枚か買っておく必要がある。
ラリサにそれを伝えると下着や小物も必要だというので、子供服が置いてある店でラリサに選ばせて買い物をした。
「若くて素敵なお父様ですわね」
店員が大口購入の客であるガブリエルに満面の笑みで愛想を言ってくるが、ガブリエルの眉間には深い皺が刻まれる。
「娘の訳がないだろう」
低い声に圧力が加わり、余計なことを言った店員は失態に怯えた。
店で着替えを済ませたコーデリアはグリーンのワンピースにエプロンを着せ、ボンネットを被り中流階級の娘に見える。ウールのマントも購入し着せてやると、ボンネットの上からフードを被ったり取ったりを繰り返して遊んでいた。
昨日はぶかぶかのワンピースで人前に出られる姿ではなかったためラリサに任せきりで食事も部屋でサンドイッチだけで済ませたが、ちゃんとした服を着たので宿の食堂へ行き三人で食事を取ることにした。
これが失敗だったと気付いた時には遅かった。
ガブリエルが適当に注文をして席に座って待っていると、コーデリアはそわそわとあたりを見渡し食事を楽しむ人たちをジロジロと見ていた。
「コーデリア、きょろきょろするな。落ち着いて座っていなさい」
今にも立ち上がりそうなほど興味津々に見ているのでガブリエルが注意をすると、コーデリアはビクンと肩を潜めて座り直し動くのをやめて、今度は目の前のガラスコップを見つめた。
今までほとんどの時間を誰とも喋らずに過ごしてきたからだろうか、コーデリアは驚くほど無口だった。
喋らない代わりに瞳だけはうるさいほど辺りを見ては驚き、見ては感動して輝かせた。
ガブリエルも子供と喋るのは得意ではないので余計な事を言わないのはありがたかったが、見ているだけで忙しないコーデリアは喋るのと同じくらい厄介だった。
ガラスのグラスに入った水をじーっと見つめては、そこに映る自分の顔を見て首を傾げたり変な顔を作ったりしているコーデリアに自然とガブリエルの眉間に皺が寄る。
しかしそんなことは何でもなかったと思うのは食事が運ばれてきた後になってわかった。
ガブリエルが頼んだのはパンと野菜とステーキだった。
普段は執事が給仕する順番通りに運ばれた料理を楽しむガブリエルだったが、旅の途中では致し方ない。セットで出された料理で我慢をするが、それでもコーデリアにはごちそうだった。
十三年間のほとんどを野菜の切れ端の入った冷めたスープや冷たいオートミール、硬いパンで過ごしてきたコーデリアにとっては旅の途中で出された柔らかいパンやミルク、昨夜食べたサンドウィッチもごちそうだった。
しかし今目の前にある見たこともない肉の塊はこれが食べ物なのかわからなかった。
「食べなさい」
ガブリエルに言われても、すんなりと食べることは出来ない。
籠に盛られてテーブルに置かれたパンを掴みコーデリアは千切りもせずそのままかじりついた。フォークで皿の上にあるマッシュポテトを掬ってそれも食べた。
横目でその様子を見ていたガブリエルは小さなため息を吐く。コーデリアがフォークを逆手で握って持っているのが気になったのだ。
暫く様子を見ていても肉には手を付ける気配がない。
そこで思い至る。この娘、肉を食べたことがないのかもしれないと。
そこまで考えてやらなければならないのだった……。
ガブリエルは自分の皿を脇に避けコーデリアの皿を自分の前に移動させた。
いきなり自分の皿を取られたコーデリアは驚き、なぜそんなことをされたのかわからず不満そうにガブリエルを見たが、ガブリエルはその不満を無視してコーデリアの皿の肉を切り始めた。
食べやすいように細かく肉を切り、グレービーソースをかけて皿をコーデリアの前に戻す。
「これは肉だ。牛肉という。食べられるものだ。こうしてフォークで刺して、食べて見ろ」
ガブリエルは自分の皿を元に戻して食べて見せた。
コーデリアはガブリエルのまねをしてフォークで刺し口に運んだ。
「パンよりも硬いからよく噛んでから飲み込むんだ」
言われた通りによく噛んでみると、グレービーソースの旨味と肉汁が口の中に広がった。
目を丸くしてガブリエルを見るコーデリア。
「美味いか? 食べられるか?」
コーデリアは大きく頷きバクバクと食べ始めた。
気に入ったようだ。
「落ち着いて。ゆっくり食べなさい」
ガブリエルは懸命に食べ始めたコーデリアを落ち着かせようとしたが、コーデリアの手と口は止まらなかった。皿の上にあった肉も野菜もすべて平らげた。
最後に遠慮なく大きなゲップをしたものだから、ガブリエルは思い切り顔を顰めた。
周りの席にいた客たちも、あまりに大きなゲップだったのでコーデリアに注目している。
中流階級に見える少女が品のないことをしたので可笑しくて笑っている客もいる。
恥ずかしいのはガブリエルとラリサだ。
ガブリエルは食事のマナーを覚えるまでコーデリアとの外食はしないと決めた。
更に最悪なのはその夜のことだった。
ベッドに入り読んでいた本を閉じてそろそろ寝ようという段になってガブリエルの部屋がノックされた。
何事かとドアを開けると、立っていたのはラリサだった。
「こんな時間にどうした?」
「それが、コーデリア様がおなかを壊してしまって……」
初めて食べる消化の悪い食べ物のせいか腹を壊したようで、トイレとベッドを往復しながら悶えているというのだ。
ガブリエルはいちいちに気を使いすぎるほど使わなくてはならないことに気が遠くなりそうだった。
ラリサと同室のコーデリアの様子を見に行くと、唸りながらベッドに横たわっている。
「コーデリア、苦しいのか?」
背中を擦りながら声を掛けると、痛みに涙目になった瞳で見上げ。次の瞬間。
「うえぇー……」
ガブリエルの膝に嘔吐した。
「!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げたガブリエルだったが、倒れてくるコーデリアの顔が吐瀉物に突っ込みそうだったので急いで額を手で支える。
「ラ、ラリサっ! 何とかしてくれ!」
慌てたラリサがコーデリアを後ろから支え、持ち上げてベッドに敷いたタオルの上に横たわらせる。
ガブリエルの腿の上は吐瀉物でびしょ濡れだ。目の前にラリサもいたが気にしている余裕もない。
ガブリエルは寝間着を脱ぎ丸めると床に放りラリサに指示した。
「部屋に戻ってズボンを履いてくる。医者を呼んでもらうよう頼むからコーデリアを見ていてくれ」
「は、はいぃ」
ガブリエルは自室に戻りズボンを履きガウンを羽織り、宿屋の主人を起こしに行った。
緊急事態だと伝えると急いで医者を呼びに行ってくれたので、コーデリアの部屋に戻る。
タオルを敷いたベッドの上で、元々悪かった顔色を更に真っ青にしてぐったりと横たわるコーデリアの横に座って撫でる。
心なしか身体が熱い気がする。熱もあるのかもしれない。
万が一はないと思うが、ラリサも心配そうに部屋の中を右往左往している。
医者は近所だったらしくすぐに来てくれた。
やはり熱があるようで、旅の疲れが出たところに消化に悪いものを食べたせいではないかということだった。
考えてみればコーデリアにとっては激動の数日であっただろう。
環境は激変し、つい一昨日まで知らなかった人間と初めて見る事知ることばかりが連続して起こっているのだ。
下痢止めと嘔吐止めを飲ませ、ガブリエルは眠るコーデリアの隣に座って頭を撫でた。
この娘が悪いことはなにひとつもなく、不幸な環境に追いやられていたのだ。
同情するしもっと気使いするべきだったと後悔するが、ここまでなにも出来ない・わからないは想像を超えすぎていた。
ガブリエル自身も戸惑いの中にいる。これはもう本当に子育てだ。
この娘をどう扱えばいいのかを考えながらコーデリアの隣に座ったままで夜を過ごした。
翌日にはコーデリアの身体も回復したように見えたが、念のためにもう一晩ここに留まることにした。
ガブリエルはコーデリアに付いて看病し、したことのない本の読み聞かせまでした。
コーデリアはガブリエルがいるとこをに安心したように一日中眠った。
翌日出発してからは途中一泊した宿でも部屋で食事を取り、コーデリアの体調も変わりなく無事アディンセルの領地に到着した。
すんなり帰ってこられなかったことが今後を予感させるようで、自宅に着いても面倒を思い頭痛が治らないガブリエルだった。
随分な時間をかけて汚れを落としたコーデリアはすっかり変わっていた。
汚れて薄茶色かった肌はやっと本物の血色がわかるようになり、血管が透けるほどの青白さだった。ところどころダニに食われたような赤みがなければ陶器の人形のようだ。
脂っぽく絡んでいた髪は切り口こそ揃っていないが絹糸のように細く真っ直ぐで、さらさらと流れるようにか細い両肩を覆っていた。
変わらないのは大きく零れそうなグレーの瞳だけで、血色の悪い唇が居心地悪そうに窄まってモジモジと動いていた。
「本当にエロイーズ様そっくりだわ」
ダイアナが感心して呟いた。
しかし見た目は変わっても中身は野良猫のままなら、ガブリエルには変わりない。
これからの長い五年の先行きは不安しかないガブリエルだった。
*****
夜中のうちにマイルスとダイアナは宮廷にある住まいに戻り。翌早朝ガブリエルはぶかぶかのワンピースを着たコーデリアを連れ、ラリサと共に馬車で出立した。
馬車に乗るコーデリアは興奮気味に、明るい陽射しを浴びて人が行きかう街の様子を窓にしがみついて眺めていた。
鼻息が荒いせいで窓が度々曇るのだがそれも初めて見る事だったらしく、ガブリエルが様子を眺めている目の前で何度もガラスに鼻息をかけては不思議そうに見ていた。
牢獄で経験出来ること以外はすべて初体験なの仕方がないことだが、こんな窓に鼻息かけるようなくだらないことを永遠と繰り返すような娘をどうしたらいいのかとガブリエルはため息を吐いた。
初日の宿泊は何事もなく済んだ。
気持ちの良さがわかったのか、それとも我慢したのか、ラリサの手伝いで風呂にもきちんと入りラリサと同じ部屋で夜になるとちゃんと眠った。
昨日からの興奮のせいで疲れているのだろうとガブリエルは思った。
翌日は通りがかった街でコーデリアの服を買った。今後も必要になるので何枚か買っておく必要がある。
ラリサにそれを伝えると下着や小物も必要だというので、子供服が置いてある店でラリサに選ばせて買い物をした。
「若くて素敵なお父様ですわね」
店員が大口購入の客であるガブリエルに満面の笑みで愛想を言ってくるが、ガブリエルの眉間には深い皺が刻まれる。
「娘の訳がないだろう」
低い声に圧力が加わり、余計なことを言った店員は失態に怯えた。
店で着替えを済ませたコーデリアはグリーンのワンピースにエプロンを着せ、ボンネットを被り中流階級の娘に見える。ウールのマントも購入し着せてやると、ボンネットの上からフードを被ったり取ったりを繰り返して遊んでいた。
昨日はぶかぶかのワンピースで人前に出られる姿ではなかったためラリサに任せきりで食事も部屋でサンドイッチだけで済ませたが、ちゃんとした服を着たので宿の食堂へ行き三人で食事を取ることにした。
これが失敗だったと気付いた時には遅かった。
ガブリエルが適当に注文をして席に座って待っていると、コーデリアはそわそわとあたりを見渡し食事を楽しむ人たちをジロジロと見ていた。
「コーデリア、きょろきょろするな。落ち着いて座っていなさい」
今にも立ち上がりそうなほど興味津々に見ているのでガブリエルが注意をすると、コーデリアはビクンと肩を潜めて座り直し動くのをやめて、今度は目の前のガラスコップを見つめた。
今までほとんどの時間を誰とも喋らずに過ごしてきたからだろうか、コーデリアは驚くほど無口だった。
喋らない代わりに瞳だけはうるさいほど辺りを見ては驚き、見ては感動して輝かせた。
ガブリエルも子供と喋るのは得意ではないので余計な事を言わないのはありがたかったが、見ているだけで忙しないコーデリアは喋るのと同じくらい厄介だった。
ガラスのグラスに入った水をじーっと見つめては、そこに映る自分の顔を見て首を傾げたり変な顔を作ったりしているコーデリアに自然とガブリエルの眉間に皺が寄る。
しかしそんなことは何でもなかったと思うのは食事が運ばれてきた後になってわかった。
ガブリエルが頼んだのはパンと野菜とステーキだった。
普段は執事が給仕する順番通りに運ばれた料理を楽しむガブリエルだったが、旅の途中では致し方ない。セットで出された料理で我慢をするが、それでもコーデリアにはごちそうだった。
十三年間のほとんどを野菜の切れ端の入った冷めたスープや冷たいオートミール、硬いパンで過ごしてきたコーデリアにとっては旅の途中で出された柔らかいパンやミルク、昨夜食べたサンドウィッチもごちそうだった。
しかし今目の前にある見たこともない肉の塊はこれが食べ物なのかわからなかった。
「食べなさい」
ガブリエルに言われても、すんなりと食べることは出来ない。
籠に盛られてテーブルに置かれたパンを掴みコーデリアは千切りもせずそのままかじりついた。フォークで皿の上にあるマッシュポテトを掬ってそれも食べた。
横目でその様子を見ていたガブリエルは小さなため息を吐く。コーデリアがフォークを逆手で握って持っているのが気になったのだ。
暫く様子を見ていても肉には手を付ける気配がない。
そこで思い至る。この娘、肉を食べたことがないのかもしれないと。
そこまで考えてやらなければならないのだった……。
ガブリエルは自分の皿を脇に避けコーデリアの皿を自分の前に移動させた。
いきなり自分の皿を取られたコーデリアは驚き、なぜそんなことをされたのかわからず不満そうにガブリエルを見たが、ガブリエルはその不満を無視してコーデリアの皿の肉を切り始めた。
食べやすいように細かく肉を切り、グレービーソースをかけて皿をコーデリアの前に戻す。
「これは肉だ。牛肉という。食べられるものだ。こうしてフォークで刺して、食べて見ろ」
ガブリエルは自分の皿を元に戻して食べて見せた。
コーデリアはガブリエルのまねをしてフォークで刺し口に運んだ。
「パンよりも硬いからよく噛んでから飲み込むんだ」
言われた通りによく噛んでみると、グレービーソースの旨味と肉汁が口の中に広がった。
目を丸くしてガブリエルを見るコーデリア。
「美味いか? 食べられるか?」
コーデリアは大きく頷きバクバクと食べ始めた。
気に入ったようだ。
「落ち着いて。ゆっくり食べなさい」
ガブリエルは懸命に食べ始めたコーデリアを落ち着かせようとしたが、コーデリアの手と口は止まらなかった。皿の上にあった肉も野菜もすべて平らげた。
最後に遠慮なく大きなゲップをしたものだから、ガブリエルは思い切り顔を顰めた。
周りの席にいた客たちも、あまりに大きなゲップだったのでコーデリアに注目している。
中流階級に見える少女が品のないことをしたので可笑しくて笑っている客もいる。
恥ずかしいのはガブリエルとラリサだ。
ガブリエルは食事のマナーを覚えるまでコーデリアとの外食はしないと決めた。
更に最悪なのはその夜のことだった。
ベッドに入り読んでいた本を閉じてそろそろ寝ようという段になってガブリエルの部屋がノックされた。
何事かとドアを開けると、立っていたのはラリサだった。
「こんな時間にどうした?」
「それが、コーデリア様がおなかを壊してしまって……」
初めて食べる消化の悪い食べ物のせいか腹を壊したようで、トイレとベッドを往復しながら悶えているというのだ。
ガブリエルはいちいちに気を使いすぎるほど使わなくてはならないことに気が遠くなりそうだった。
ラリサと同室のコーデリアの様子を見に行くと、唸りながらベッドに横たわっている。
「コーデリア、苦しいのか?」
背中を擦りながら声を掛けると、痛みに涙目になった瞳で見上げ。次の瞬間。
「うえぇー……」
ガブリエルの膝に嘔吐した。
「!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げたガブリエルだったが、倒れてくるコーデリアの顔が吐瀉物に突っ込みそうだったので急いで額を手で支える。
「ラ、ラリサっ! 何とかしてくれ!」
慌てたラリサがコーデリアを後ろから支え、持ち上げてベッドに敷いたタオルの上に横たわらせる。
ガブリエルの腿の上は吐瀉物でびしょ濡れだ。目の前にラリサもいたが気にしている余裕もない。
ガブリエルは寝間着を脱ぎ丸めると床に放りラリサに指示した。
「部屋に戻ってズボンを履いてくる。医者を呼んでもらうよう頼むからコーデリアを見ていてくれ」
「は、はいぃ」
ガブリエルは自室に戻りズボンを履きガウンを羽織り、宿屋の主人を起こしに行った。
緊急事態だと伝えると急いで医者を呼びに行ってくれたので、コーデリアの部屋に戻る。
タオルを敷いたベッドの上で、元々悪かった顔色を更に真っ青にしてぐったりと横たわるコーデリアの横に座って撫でる。
心なしか身体が熱い気がする。熱もあるのかもしれない。
万が一はないと思うが、ラリサも心配そうに部屋の中を右往左往している。
医者は近所だったらしくすぐに来てくれた。
やはり熱があるようで、旅の疲れが出たところに消化に悪いものを食べたせいではないかということだった。
考えてみればコーデリアにとっては激動の数日であっただろう。
環境は激変し、つい一昨日まで知らなかった人間と初めて見る事知ることばかりが連続して起こっているのだ。
下痢止めと嘔吐止めを飲ませ、ガブリエルは眠るコーデリアの隣に座って頭を撫でた。
この娘が悪いことはなにひとつもなく、不幸な環境に追いやられていたのだ。
同情するしもっと気使いするべきだったと後悔するが、ここまでなにも出来ない・わからないは想像を超えすぎていた。
ガブリエル自身も戸惑いの中にいる。これはもう本当に子育てだ。
この娘をどう扱えばいいのかを考えながらコーデリアの隣に座ったままで夜を過ごした。
翌日にはコーデリアの身体も回復したように見えたが、念のためにもう一晩ここに留まることにした。
ガブリエルはコーデリアに付いて看病し、したことのない本の読み聞かせまでした。
コーデリアはガブリエルがいるとこをに安心したように一日中眠った。
翌日出発してからは途中一泊した宿でも部屋で食事を取り、コーデリアの体調も変わりなく無事アディンセルの領地に到着した。
すんなり帰ってこられなかったことが今後を予感させるようで、自宅に着いても面倒を思い頭痛が治らないガブリエルだった。
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