静かなふたり

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 結婚して三か月、初日からほぼ変わらないオデルとジュリエットに使用人たちもやっと慣れてきた。
 不愛想で無表情な主人がひとりからふたりになったらどうなるかと不安になっていたのだが、喋らない代わりに怒りもしないのだから今までと変わらないことにやっと思い至る。
 それにこの静かな館に癒しは現れたじゃないか。
 あの小さなマリリンがハムスターのようにウロチョロしてコロコロしてモジモジしている姿はオデルとジュリエットで冷えている使用人の心を温めた。
 新しい奥様と暖かい屋敷になる希望は潰えたが、あの娘を見るだけで心が穏やかになる貴重な存在だ。
 
「奥様にとってもマリリンは癒しなのかもしれないわね。最初は可笑しな組み合わせに見えたけど」
 
 使用人の食堂でメイドのケイトが言うと一同納得で頷いた。
 なにはともあれ、なんとなく平和に過ぎている日常に怒涛が再び訪れるのはこのすぐ後であった。





 *****





 メイドのモリーが汗だくになって走って屋敷に戻ると、使用人用の裏戸を蹴破る勢いで開けた。
 飛び込んできた稲妻モリーに使用人一同は跳ねて驚いた。
 が、次のモリーの一言で更に仰け反ることとなる。

「シルビア様が来る!」
「「「「「ええぇ!!!!!」」」」」

 仰け反って。固まって。一斉に立ち上がる。
 今日はオデルもジュリエットも屋敷にいる。
 前夫の所に前妻が来て後妻が迎える。これが円満な離縁であればここまで焦ったりはしないが、シルビアは裸で庭師とベッドにいるところを見られオデルの宝飾品を盗んで家出をしてから謝罪どころかオデルに一度も逢ってもいないはずなのだ。

 モリーの話はこうだ。
 コックに頼まれてお使いに行った帰りシルビアを見つけて興味本位で後を付けると真っ直ぐここに向かって来たため、裏道を全力疾走して来たらしい。

「もう来ますよ!」

 まだ息の整わないモリーがリーブスに声を荒げる。
 そうだ!ここで驚いてはいられない!

「ステファン、旦那様に知らせて来てくれ。奥様はマリリンとリビングか? ケイトは急いで奥様を二階へ!」

 頷くより先にもう足が動いている。ステファンは二階の書斎へ、ケイトはリビングへ、リーブスは玄関だ。
 しかし、モリー渾身の全力疾走の甲斐もなく。ステファン書斎の一歩手前、ケイトはリビングでジュリエットとマリリンの前、リーブスは玄関を開ける寸前で呼び鈴が鳴ってしまう。
 ドアを開けてシルビアを入れる訳にはいかない。ジュリエットが二階に上がるには玄関フロアを通らなくてはならないからだ。
 まずは薄くドアを開け本当にシルビアなのかを確認し、シルビア本人だったら外に出て要件を確認しようとリーブスは決めた。
 身体を斜めにして決して開きすぎないよう注意しながらドアを開ける。

「久しぶりね、リーブス」

 間違いない。本物のシルビアだ。
 注意深くドアを細く開け、身体を滑り込ませるようにして外に出る。

「お久しぶりですシルビア様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 玄関に迎え入れないリーブスに怪訝な表情を向けるシルビア。
 ガロポロ家に初めて来たときは少しふくよかでかわいらしい少女のような女性だった。
 それが二年半の結婚で大人の女性になり、更に二年半で痩せてギスギスとした雰囲気の女性に変わってしまっていた。
 二年半ぶりのシルビアの変貌に、リーブスは少し切なくなった。苦労が見えてしまっている。
 噂ではこの屋敷を出てから実家からも勘当され、庭師と家を借りて暮らしているらしかった。

「旦那様に逢いたいの。いらっしゃるでしょ?」
「本日は奥様もいらっしゃいますので、日を改めてこちらからご連絡させていただきます」
「新しい奥様にも関係することで来たのよ。いいから旦那様に逢わせてちょうだい」

 リーブスは困惑した。ジュリエットにも係わる要件の検討がつかない。

 一方オデルの書斎のステファン。
 シルビアが来たこと。今の玄関の呼び鈴で来てしまっているだろうことを話した。

「奥様が今リビングにいらっしゃいます。ケイトがお部屋に上がっていただくよう伝えていますが、どうなさいますか? シルビア様にお会いになりますか?」

 ステファンは焦っていた。シルビアとジュリエットの鉢合わせは、やましいことがあるわけではないが避けるべきだと思ったからだ。
 しかしオデルはまったく変わらない無表情とスピードで書斎を出て、階段の吹き抜けから下を覗いた。
 リーブスが外で対応していたため玄関ホールにシルビアの姿はない。
 かわりにリビングからジュリエットが現れ、マリリンとケイトがその後ろで明らかに動揺しながら右往左往している。
 ジュリエットは真っ直ぐ玄関のドアまで行き開けた。
 振り返るリーブスとその奥に面影は変わってしまっているがシルビアがいるのがオデルから見えた。
 ステファンはオデルの後ろでそれを見て、なぜジュリエットがわざわざ前妻に逢いに出たのかわからず困惑していた。
 ケイトが話したのだろうが、前妻が来て進んで逢う本妻がいるだろうか? 隠れるべきとは思わないが、オデルが来るのをなぜまたないのだろうか。
 オデルはジュリエットがシルビアを迎え入れるのを見て階下へ向かった。
 シルビアがジュリエット越しにオデルを見つけ、ジュリエットも振り返った。

「旦那様。突然来て申し訳ありません。でも話を聞いてほしいのです。お願いです旦那様」

 シルビアが縋るようにオデルに駆け寄り腕を掴んで見上げた。
 久々に見るオデルの無表情に怯えそうになるシルビアだったが、引く気はない。ここへ来るのも相当な決意で来ているのだ。

「話があるの。あなたに必要な物をわたしは持っているわ」

 必死のシルビアをオデルとジュリエットの冷たい視線が刺す。
 実際にはシルビアがそう感じただけで、オデルもジュリエットもいつもと全く変わらない態度で見ていただけだった。
 ただ、小柄なシルビアから見れば長身の男女に挟まれ無表情で見下ろされているのだから、そう感じても仕方のないことでもある。
 ふたりのことをよくわかっている使用人たちでさえ、縋るシルビアを見るオデルとジュリエットを状況のせいか怖く感じた。

「はじめまして。妻のジュリエットです。リーブス、ご婦人をサロンにご案内して」

 必死のシルビアも凍りかけるこの動かない場をジュリエットが動かした。
 挨拶をしてリーブスに指示を出すと、ふたりを残して去ろうとする。

「君も一緒に」

 ジュリエットを引き留め、そのままサロンに歩き出すオデル。
 
「わたしはご遠慮いたします。お話しはおふたりでなさってください」

 ジュリエットは振り返って拒否し、オデルも振り返ってジュリエットを見据えた。

「君も一緒に」
「ご遠慮いたします」

 見合っているふたりが睨み合っているように見えているのはシルビアと使用人たち。当の本人たちはただ見合っているだけ、かもしれないが、状況がそう見せている。
 あとどれくらいこの無言で寒々しい時間を過ごすのか。シルビアと使用人たちには一秒が恐ろしく長い。

「お客様。奥様も一緒にいた方がいいですか?」

 ここで。ガロポロ伯爵邸の癒し。空気を読まないハムスター。いやエルフ。いいやマリリン。
 ジュリエットの後ろからひょっこり現れシルビアに声をかけた。
 一瞬どこから声が出たのかわからなかったシルビアがマリリンを見つけ目を瞠る。
 使用人たちには今のシルビアの驚きがわかる。
 この不愛想邸にそぐわない小動物が茶色い真ん丸の眼を愛嬌いっぱいに開いて自分を窺っているのだ。
 一瞬異世界に移転したかのような錯覚を起こし、思わず周りを見てしまうシルビア。
 大丈夫。間違いない。ここはガロポロ邸だ。
 
「旦那様にお話しがあるなら、奥様はお部屋にいてもいいですか?それとも一緒にいたほうがいいですか?」
 
 空気を読ます無意識に空気を換えるマリリン。あまりの緊張感のない声に戸惑うシルビア。
 
「君も一緒に」
 
 オデルはジュリエットを真っ直ぐ見たままで再び言った。
 使用人の心境としては『旦那様が三度も同じことを言うなんて!』
 ここはジュリエットに折れてもらいたい。従ってもらいたい。どうか!
 しかし。そんな使用人の心の叫びを察しないジュリエットはオデルに向き直ると。
 
「ご遠慮いたします」
 
 じっとオデルの目を見てきっぱりと言い切ると、踵を回して自室へ向かってしまった。
 マリリンはにっこり笑ってシルビアに一礼しジュリエットを追いかけていく。
 あぁ、行かないでマリリン……。
 使用人たちの心の声はいつも誰にも届かない……。
 オデルはジュリエットの後姿を一瞬見送って、黙ったまま踵を回しサロンに向かって行く。
 茫然とジュリエットとオデルのやり取りを見ていたシルビアだったが、我に返ってやらなくてはならない事をしに来たのだと自分を奮い立たせオデルを追った。
 
 自室に戻ったジュリエットはソファーに背筋を伸ばした正しい姿勢で座り、いつもと変わらず黙ってただ座っていた。
 マリリンが茶を用意するか聞くと無言で頷いた。
 マリリンが茶を持って戻っても何もせずにただずっと座っているだけのジュリエットに僅かな違和感を覚えたマリリンだったが、もともとジュリエットの考えていることなどいつもさっぱりわからないので黙ってカチャカチャと不器用に給仕した。
 
 一方サロンでは。
 オデルがなにも指示しないので茶も出されず向かい合ってオデルとシルビアが座っている。
 シルビアが出て行った理由やしたことから、使用人たちはシルビアに好意的ではない。
 オデルに原因があったとしても、やり方が酷すぎた。
 
「リーブス、外してくれる?」
 
 サロンの入り口に控えていたリーブスだったが、シルビアに言われ礼をして部屋を出る。
 オデルはともかく何もこのふたりの間のことに関わりのないジュリエットが巻き込まれるようなことではありませんように、この屋敷からさっさと怒涛が出て行ってくれますようにと祈りながら。
 
「突然来てごめんなさい。二年半前のことをまずは謝ります。あなたに誠実じゃなかったこと、勝手に出て行ったこと、本当に申し訳ありませんでした」
 
 座ったままではあったが、深く頭を下げるシルビア。
 それを変わらない真っ直ぐな姿勢のまま無表情で聞くオデル。黙ったままでなにも言わないのは許していないからなのか言う事がないからなのかは、オデルにしかわからない。
 懐かしい無表情に情けを探すシルビア。
 オデルがもっと自分に関心を持ち愛情を示してくれていればあんなことにはならなかったと訴えたかった。オデルがシルビアにしなかったことを後悔し、罪悪感を見せて欲しかった。
 しかし二年前と同じように、オデルからはなにも感じることが出来なかった。
 オデルに期待しても無駄なことだと、シルビアは込み上げる複雑な感情を飲み込みバッグの中から出したものをテーブルに滑らせオデルの前に差し出した。
 それはハンカチに包まれておりシルビアが広げて見せると、オデルの良く知っている懐かしい物が姿を現した。
 長方形にカッとされたエメラルドにダイヤモンドが回りを囲む美しい指輪。
 オデルの曾祖母から祖母・母へ受け継がれ、シルビアへ渡された指輪だ。
 
「あなたから貰った宝石も、あなたの宝石もすべて売ってしまいました。でもこれだけは売れませんでした。この家に代々受け継がれた物で、これだけは次のあなたの奥様になる方にお渡ししなくてはならないと、思ったからです」
 
 目の前に現れた懐かしいそれを手に取ろうとオデルが出を伸ばすが、シルビアがそれを止めた。指輪を手で押さえて触らせなかった。
 
「理不尽なのは百も承知でお願いします。この指輪、買い取っていただきたいのです」
 
 オデルは伸ばした手を下げ、シルビアを見る。
 必死の形相のシルビアをじっと見る。
 オデルがその目に映る彼女の惨めさに気が付いたかどうかはわからない。しかし気付けるだけのたっぷりの時間シルビアと見合った。
 
「待っていなさい」
 
 指輪を押さえたままのシルビアを残し、オデルがサロンを出る。
 玄関にいたステファンを無視して二階へ上がり、暫くすると革袋をふたつ持って降りて来た。
 
「旦那様、それはいけません……」
 
 ステファンは指輪の件は知らなかったが、オデルが手に持っている革袋に金が入っていることはすぐにわかった。
 シルビアの生活が困窮して元夫に金の無心に来たのだとしたら、どれほど図々しいことだ。一度払えば幾らでも取りに来る可能性もある。
 シルビアのために実家の莫大な借金を余裕で完済できるだけの支度金を渡し、贅沢な生活をしてオデルの宝飾品まで盗んでいった女性に。出て行ったきり謝罪のひとつもなかった女性にそこまでする必要があるだろうか?
 オデルの手に持つ革袋を見れば、贅沢さえしなければ当分生活出来るだけの金額が入っているとわかる。
 ステファンはオデルを心配したのだが、その前を無言で通り過ぎシルビアの元に戻った。
 シルビアの座る前に立ったままで革袋をふたつとも置き、オデルはやっと口を開いた。
 
「指輪を買い取る。これで充分足りるはずだ」
 
 シルビアは目の前に置かれた革袋を見て目を瞠った。
 宝石の正当な価値でオデルは支払ったのだ。
 
「君の幸せを願っている。馬車に乗って帰りなさい」
 
 茫然とするシルビアを見下ろして言うと、リーブスを呼び馬車を用意するよう伝えた。
 動けないままのシルビアの前から指輪を掬い取り、オデルはそのまま再び二階へ上がって行った。
 
 スカートで包むように革袋を隠し、シルビアは馬車に乗り込んだ。
 玄関でシルビアを見送るステファンとリーブスに伝言を頼んだ。
 
「もう二度と来ません。あなたがわたしを愛さなかったこと許すと伝えてください」
 
 馬車の中でシルビアは自分の惨めを笑った。
 シルビアと駆け落ちをした庭師はどこにも雇ってもらえず二年半ずっと無職だ。
 腐っても貴族の娘、それなりの家を借り使用人を雇い普通に生活してしまった事で持っていた宝石類をすべて売っても二年待たずに立ち行かなくなってしまった。
 使用人を解雇し狭く汚い部屋へ引越し、経験したことのない貧しい生活をせざる終えなくなり。
 庭師とは喧嘩が絶えず今更実家にも帰れず、生活も苦しく最後にどうしても手放せなかった指輪を売ろうとした。
 ガロポロ侯爵家に嫁いだ時オデルが初めてくれたものだ。
 『代々ガロポロの女性が受け継いでいる物だ。この先も受け継がれて欲しい』と言ってシルビアに渡された。
 手放せなかったのはオデルの物でも自分の物でもなかったからだ。ガロポロの男を愛する女性が受け継いでいくもの。もし次の妻を娶るならその人が受け継いでいくもの。
 オデルが新しい妻を愛しているならこの指輪を継いでいって欲しいはずだ。
 最初はただ返そうと思った。しかし馬車にすら乗れず歩いて向かう間に売れるものを返すために歩いているのが情けなくなった。
 オデルが新しい妻にどうしても送りたいと思うなら、貰った以上シルビアのものなのだから金を支払うべきだと考えついてしまった。
 そしてオデルは金を払った。大金で買い戻したのだ。
 新しい妻はオデルの元で幸せになるだろうか? シルビアがしなかった愛する努力をするだろうか?
 あのオデルに似た無表情な女性はオデルを愛する気がする。
 執事のリーブスが帰そうとしたのに家に迎え入れたのは前妻シルビアのことを見たかったのではないだろうか?
 オデルが同席させようとしたのにしなかったのは、オデルに後悔させないようにしたのではないだろうか?
 シルビアが何をしに来たのかを察して、シルビアの浅ましい姿をオデルが恥じないように配慮したのではないだろうか?
 あの無表情では想像でしかない。
 でもシルビアは確信的にそうだと思った。
 シルビアのことは愛さなかったオデルも、彼女を愛するかもしれない。
 シルビアは愛さなかったことを許す代わりにこの金を手に入れたのだと思うことで、この惨めな気持ちをやり過ごしたかった。だからこれで許すと伝えて欲しいと頼んだ。
 それでも、シルビアの心はは惨めなままだった。
 
 
 
 *****
 
 
 
 オデルは二階に上がると書斎へは行かず、まっすぐジュリエットの部屋へ行った。
 ノックをするとマリリンがドアを開けた。ジュリエットはティーカップを片手にソファーに座っていた。
 
「少しいいか」
 
 ジュリエットの側まで来て確認すると、そのまま隣に座った。
 ジュリエットは持っていたカップを置いてオデルに膝を向けた。
 マリリンがオデルのカップを取りに部屋を出ると、ふたりの沈黙が部屋に充満する。
 横並びで向かい合うふたりは背を真っ直ぐ伸ばし正しく美しい姿勢だ。
 
「お話は、終わりましたの?」
「終わった。彼女はこれを返しに来た」
 
 オデルがシルビアから戻って来た指輪を出して見せる。
 オデルと瞳と同じ美しいエメラルドをジュリエットが見る。そのまま差し出され、ジュリエットはオデルへ視線を上げた。
 
「君のだ」
「前の奥様が返されたものがわたしのですか?」
「代々ガロポロ家の女性が受け継いできたものだ」
「そうですか」
 
 オデルは指輪をジュリエットの手の上に乗せ、ジュリエットは手のひらに乗せた指輪をまじまじと見た。
 
「複雑か?」
「いいえ」
「そうか」
「着けたほうがよろしいですか?」
「好きにしていい」
 
 初めてのオデルからの贈り物をジュリエットは無表情で受け取り眺めた。
 指輪を眺めるジュリエットをオデルは無表情で眺めた。
 
「さっきは、なぜ同席しなかった?」
「なぜ同席させたかったのですか?」
「やましいことがないから同席してもかまわなかった」
「やましいことはないだろうと思ったので同席しませんでした」
 
 言っていることが同じような同じじゃないような。
 再び沈黙が続きそうになったが、マリリンがカップを持って戻って来た。
 カチャカチャ音を立ててオデルに茶を出すとジュリエットの手のひらにある指輪を見つける。
 
「奥様。それは……」
「オデルから今頂いたの」
「わぁ!」
 
 マリリンの目が輝くのでジュリエットは指輪を指で摘まんでマリリンに見せた。
 キラキラとした美しい宝石に、マリリンの目もキラキラする。
 
「こんな素晴らしいものを贈られるなんて、旦那様は奥様を愛していらっしゃるんですねっ」
 
 まるで自分が貰ったかのように嬉しそうに顔をクシャクシャにして喜ぶマリリン。
 
「それは知らなかったわ。あなた、わたしを愛してらっしゃるの?」
「それは俺も知らなかった」
 
 お互い無表情が向き合って見合う。
 少しの間見合って、ジュリエットがフイっと顔をマリリンに向けて一言。
 
「ちがうみたいだわマリリン」
 
 ジュリエットの言葉にがっかりしたのはマリリンだ。口を尖らせた顔をする。
 なんで知らないのかなー? 知ればいいのになー。と思いながら。
 それきりふたりの会話は終わり、黙ったまま茶を飲み干すとオデルは部屋を出て行った。
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