機龍世紀3rdC:暗黒時代~黒髪の騎狼猟兵

武無由乃

文字の大きさ
43 / 58
Episode 2 聖バリス教会の脅威

Chapter 12 裏切りの獅子?

しおりを挟む
 アンデールに辿り着いたアスト達は、早速ラギルスとジェラの落ち合い場所である、始まりの旅路亭へと向かった。そこは、ラギルスとジェラが正式な希少なる魔龍討伐士になることを決めた、始まりの酒場であった。
 アストはバルディに問いかける。

「しかし、バルディさん達はあんなところで何をしていたんです? ジェラさんを助けていただいた事は、感謝しかありませんが」
「う~ん……」

 バルディは少し考えてから答えた。

「俺らの素性を知っているなら、だいたい想像は出来るんじゃないか?」
「それは……」

 アストは軽く頷いて答えた。

「カディルナの現状を見て、ボーファスがどう動くべきか考える……とか?」
「まあ、その通りだな」

 そのバルディの答えにリディアか驚く。

「それって、まさかボーファスが全狼軍で動くかもしれないってこと?」
「ああ、はっきり言うと、その通りだ」
「……」

 リディアは呆然として黙り込む。
 全狼軍が動くと言う事は、聖バリス教会圏諸国とボーファス帝国の戦争が始まると言う事だ。

「そこまでになっているんですか?」
「赤の民の暴挙が酷いと言うのは無論あるが、ただそれだけではボーファスは動かない。今は人類同士で戦争なんてしてる時じゃないんだ」

 バルディの言葉にフィリスが付け加える。

「ですがこちらが旅で入手した情報から、赤の民の暴走がわかってきました」
「暴走?」

 アストの問いにフィリスは無表情で答える。

「今はまだ言えません。確証がまだ取れていませんから」

 フィリスの言葉にアスト達が考え込んでいると、不意に酒場の扉が開き、誰かが入ってきた。

 アスト達は一斉にそちらを見る。そして、その顔は歓喜に変わった。
 たまらずジェラが叫ぶ。

「ラギルス!」
「……」

 そう、黙って酒場に入ってきたのはラギルスだったのである。

「ラギルス!」

 ジェラは立ち上がってラギルスの元へと駆けて行く。アスト達もそれに続いた。

「?」

 ――と、不意にアストが顔をしかめる。それはラギルスから異様なほどの血の匂いを感じたからである。
 アストはその時、言い様のない不安を感じた。

「ラギルスさん?」
「……」

 ラギルスはジェラに抱きつかれても無表情で立っている。

「ラギルス! よかった! 生きてたんだね!」

 ジェラはただ涙ながらにラギルスに語りかける。しかし、その目にはジェラが映っている様には見えなかった。

「ジェラさん! ラギルスさんの様子が何か変だ!」

「? なに言ってるんだ? ラギルスはラギルスだろ……」

 そうジェラがアスト達を振り返ったその時、

「ジェラ……」
「なんだいラギルス」
「に……げろ……」
「え?」

 次の瞬間、ラギルスの腰に挿した双剣が閃いた。

 ガキン!

「ラギルスさん!」

 アストの反応は早かった。腰の刀を引き抜いて、ラギルスとジェラの間に割って入って、双剣を受け止めたのである。
 アストは叫ぶ。

「ラギルスさん! なんで?!」
「う……あ」

 ラギルスは虚な表情でアストを見つめる。さらに二度双剣が閃く。

「クソ!」

 ガキン! ガキン!

 アストはそれをなんとか捌く。しかし、

(なんだ? ラギルスさんの双剣が前とは比べ物にならないほど重い。魔法剣でなければ、さっきので折れていた……。それに……)

 アストはラギルスの斬撃から、異様なモノを感じとっていた。

(これは、ラギルスさんのいつもの双剣術じゃない。ただ力に任せるだけの無策の剣だ)

 突然始まったアストとラギルスの戦いにジェラは呆然とする。

「ラギルス? なにして……」

 ラギルスに近づこうとしたジェラをバルディが止めた。

「近づくな! これは、ヤバイ事になってるかもしれん!」

 アストはラギルスの双剣を止めるため、仕方なくその腕を狙って刀を振るう。

「?!」

 本来のラギルスなら双剣で軽く防がれるであろうその斬撃は、素通りでラギルスの腕に到達した。

 ……!

「な?!」

 アストがその手答えの無さに驚愕する。本当なら今の斬撃でラギルスの片腕は使えなくなったはずだ。しかし

「ああ」

 言葉にならない言葉を吐きながらラギルスは双剣を振るう。腕から血は出ているものの、ほとんど無傷のようであった。
 その時、バルディは正確に素早く状況を理解しつつあった。

(まさか?! コイツ! あの技術の実験体にされたのか!)

 今のラギルスの状態に、バルディははっきりとした見覚えがあったのである。

(だとすると。まさか、赤の民の目指すものは……。クソが! マジかよ!)

 不意にバルディがラギルスに向かって手を突き出す。そして

「ヴァタールヴォウ……ソーディアン……」

 バルディの周囲に魔力の短剣が無数に浮かぶ。バルディは指を鳴らして、それを一斉にラギルスに向けて飛ばした。

 ザクザクザクザク!

 ラギルスの胴に短剣が突き刺さる。それを見てジェラか悲鳴を上げた。

「バルディさん?」
「安心しろ! 今のそいつはこんなもんでは、かすり傷程度だ!」

 ラギルスはニヤリと笑うと、酒場から一気に外へと踊りでる。アスト達は急いでそれを追った。

「……」

 いつのまにかラギルスは近くの家屋の屋根に立っていた。ジェラが叫ぶ。

「ラギルス! なんで?! なにがあったの?!」
「……ジェラ」

 ラギルスはただその一言を呟く。
 そして――、

「アーロニー……」

 確かにそう呟くと、人間とは思えない脚力で北東へ逃げ去ったのである。
 アスト達はそれを呆然と見送るしか出来なかった。


◆◇◆


 一件の後、旅立ちの準備をしながらバルディは語る。

「あの男はおそらく、聖バリス教会の新技術の実験体にされたんだ」

 アスト達はそれを呆然とした表情で聞く。

「もし、俺の予想が正しいなら、アイツには物理攻撃は通用しない。効くのは魔法か、魔法剣ぐらいだろう」
「それで、あんなに手答えが無かったのか」
「ああ……」

 アストはバルディに問う。

「ラギルスさんが受けた実験ってなんですか?」
「……」

 バルディはしばらく黙り込む。そして、ため息をついてから言った。

「それは、本人達から聞くべきだな」
「え?」

 バルディはアスト達を見つめながら宣言する。

「アーロニー……。あの男が消えゆく自我を振り絞って残した言葉。そこにおそらく、実験をした張本人がいるはずだ」

 アスト達が次に目指す場所はこうしてきまった。
 その先に大きな試練を匂わせながら――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...