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Episode 3 失われし霊樹を求めて
Chapter 8 敗軍之将、不可以言勇
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「ふん……、確かにあの指揮官どのも口だけではないようだな」
四星のヴァルドールはそう言って、魔法視覚で森全体に展開されている友軍の動きを観察している。はじめこそ相手の奇襲で損害を受けた事実があるが、それ以降は敵の猛攻を上手にしのいで、さらには包囲を狭めつつあったのである。相手の弓や魔法、それらによって損害を受けることもあるが、彼らは即死でない状況なら専用の濃縮霊薬などを用いて即座に戦線に復帰してゆき、必要ならば致命傷を自ら演出して敵側に戦況が有利であるという誤認すらさせているのである。
敵側は、こちらの戦力を確実に減らせているという【明確な誤認】に基づいて動き始めている、しかしそれは明確な誤りであり――、実際、こちらが明確に失った戦力は奇襲のはじめに絶命した者たちを含めた三割にも満たない。
「そして……、あの指揮官――、すでに相手方の後方へと回り込んでいる」
それの意味するところをヴァルドールはしっかり理解していた。――そして、正しく事が運べば相手の全滅は硬いであろう、――とも。
◆◇◆
『金鱗の大蛇』の隊長ノイマンは密かに森を駆けて、後方へと回り込んでいた。その目的は当然、現在アスト達前線を支えている支援を崩壊させる為である。
ノイマンは戦場におけるセオリーを的確に実行にうつす。現状における友軍の戦況がどうであろうが、どんなに仲間が死のうが、先に相手側の戦線を崩壊させてしまえば自分の勝利になるのだから。まあ、友軍に損害を出せば批判はどこかしら出るだろうが、彼の本心、本質からすると自分が生き残って、次の殺戮へ繋がるなら批判程度は喜んで受ける。無論、なるべく悲痛な表情を浮かべながら。
ノイマンは、優秀な軍人ではあるが、その本質は殺戮者でしかなかった。彼の歪んだ趣味が軍人、特殊破壊工作兵としての実益に合致していた、ただそれだけであった。
ノイマンは、森を抜けると真っ先に視線に入った女、おそらく黒の部族の魔女であろう娘を標的に定めた。それは無論、アストの義妹のリディアであった。
「リディア!」
不意に前線の兄から悲鳴のような叫びが飛んでくる。リディアは少し疑問を得ながら周囲を警戒した。それが、リディアの唐突な即死を回避する事になる。
「あ!」
リディアは首に迫る殺意を感じて身を翻す。そこにノイマンの特殊手甲の刃が一閃された。
「うく!」
突然の死角からの奇襲に肝を冷やし、命がなんとか繋がった事に安堵しつつ、襲撃者から距離をおこうとリディアは森を奔る。襲撃者は避けられた事を悔しがるようなそぶりもなく、ただ冷たい瞳でリディアの跡を追った。
それはまさに肉食獣に狙われる獲物の姿だった。必死で安全な間合いを開けようとするリディアに対し、無駄が一切排除された高速で襲撃者ノイマンは迫ってゆく。その段になって遠方から怒号とともに矢がノイマンへと向かって飛んだ。
「リディア!!」
大銀狼ゲイルの背に乗ったアストが、狼上弓を手にリディアたちの下へと走る。ノイマンは一瞬矢を一瞥した後、難なくそれを特殊手甲で撃墜してそのままリディアへ迫る。
「くそ!」
もはや逃げられぬと悟ったリディアは手にする嵐の女神の祭器たる槍を手に短い詠唱を行った。ノイマンは魔女の魔法に対する造詣はそれほどでもないため、あえてそれを無視して更に間合いを詰めてゆく。無論、攻撃魔法である可能性は排除出来ないために、多少の警戒はしていたがなぜかその少女の魔法は発揮されなかった。
「ふむ?」
それを詠唱失敗だと解釈したノイマンはその手の特殊手甲をリディアに向けて一閃する。戦場に少女の悲鳴と血しぶきが飛んだ。
「くあ!!」
リディアはもはや幸運だった、という一点でしかない回避で命を長らえる。首を飛ばされるはずが、肩を深く切られただけでなんとか保ったのである。
リディアは槍の扱いを熟知した熟練の槍兵でもあるが、相手のノイマンはあまりにも戦士としての格が上すぎた。ノイマンはその瞬間に次の一撃での必殺を確信する。無論、邪魔が入らなければの話であったが……。
「リディア!!」
怒号とともにアストを乗せた大銀狼がノイマンへと走り込んでくる。その手にはすでに狼上弓ではなく刀が握られていた。そのまま一閃するのとその瞬間にとったノイマンの行動にリディアが驚愕するのは同時であった。
「な?!」
まるで何事もなかったように刀がノイマンの1ミリ横を奔る。ノイマンはほぼ動かずに、僅かな動きで刀の軌道をすり抜けていた。そして、その瞬間ノイマンは思考していた。
(……ふむ。小娘、今の瞬間に追撃でも放つかと思ったが、多少の頭が回るのか、それともただ呆けているだけか。まあ、この騎狼猟兵と連携して追撃していたら、そのまま首を飛ばしていたから、ある意味運に恵まれている……か)
その相対だけで、目前の二人では自分の相手にはならないことをはっきりノイマンは理解する。このまま育っていれば状況は変わったろうが、本当に惜しい話だとノイマンは内心思った。
(おそらく、この二人が襲撃者の主力。失えばそのまま全滅――。それほどおもしろくもない戦いではあったな)
ノイマンはとりあえずリディアに背を向けて大群狼の背に乗る男へと向き直った。それはまさにリディアに無防備な様子をさらす行動であったが――。
「お前!!」
「ククク……、相手になってやろうか? 黒髪の騎狼猟兵……」
ノイマンは背後にいて槍を手にしているリディアを、完全に無視する様子でアストにそういった。
(こいつ……、別にリディアを警戒していないわけじゃない。ただ――、この瞬間リディアが不意打ちを仕掛けてきても、その反撃で首を飛ばす用意があるんだ)
アストはそう分析しつつ、眼の前の男こそ『金鱗の大蛇』のトップであろうことを予想した。アストとリディア、そしてノイマン、この両者の間には明確な隔たりが大きな断崖となって横たわていた。正攻法ではノイマンには絶対に勝てない――、それはアストの戦士としてのカンが告げていた。
「実に惜しいな……、もっと後であればもっと楽しい殺し合いを出来たであろうに」
「御免被る……。お前みたいな戦闘狂とは二度とごめんだ」
「ははは……、まさか私から逃げられると?」
無論、逃げられないであろうことはアストは理解している。背後のリディアが槍で奇襲しても、結果はリディアが先に死ぬか、自分が先に死ぬかの差でしかない。そもそもリディアの槍も自分の刀も、事も無げにこの相手なら避けて見せて、そのまま必殺のカウンターを放ってくるだろう。その場合の「必殺」はまさに言葉の意味そのもので――。
現状まさに状況は積んでいる。リディアの攻撃が魔法攻撃に変わっても、呪文詠唱だけで察知されてそのまま運命は変わらない。それほどノイマンは絶望的な力を持って、アストたちにとっての死神として迫っていた。
「……」
しかし……、しかしだ。アストはここで旅を終えるつもりなどない。無論、リディアも同じ思いであり……。だからこそそのままアストは刀を全力で振るった。
(……ふ、これで終いか――。背後の小娘は動く気配もない。ならばこのままカウンターで男の首を飛ばして。そのままの動きで背後の小娘の首も切り落としてしまおう)
ノイマンはアストの刀の軌道を正確に読み取って、紙一重で凶刃を避ける。そのまま間合いを詰めて、高速で特殊手甲を一閃する。
――一閃しようとした。
ドン!!
その瞬間、轟音とともにノイマンの意識が真っ白になる。久しく感じたことのない意識喪失に、ノイマンは何も考えられず、ただ本能だけでアストたちから離れるように身を翻した。
「が……は?!」
何が起こったのかノイマンには理解が及ばなかった。もし、彼ら以外の友軍が援護に来たならば、それを察知することなど容易であるはずだ。だから、そのまま背後にいたリディアが「何かをした」のだという結論に至った。
そして、それは確かにその通りであった。リディアの自分の方へと向けている手のひらに、かすかに稲妻が走っているのが確認できた。リディアはおそらく魔法を使ったのである。
「ば、かな?! 呪文詠唱など、なかったぞ?!」
「……」
リディアは笑いもせずノイマンを睨みつけている。ノイマンは明確に致命傷に近いダメージを負った自分を自覚しつつ唇を噛んだ。
そんな、悔しそうな様子のノイマンに、アストが刀を向けつつ声をかけてくる。
「リディアを甘く見過ぎだ。お前より戦場において弱い者が、お前に絶対に勝てないと――、なぜ勝手に考える?」
「!!」
その時、リディアが再び短い呪文を唱えた。それは、先程と同じ語感を持つ呪文であり、先ほどと同じように魔法そのものは起動しなかった。
「あ!」
その時になってやっと理解する。彼女が扱った魔法は「遅延発動魔法」であると。
「遅延発動魔法」とは、あらかじめ準備だけしておいて「発動そのもの」は後回しにして即座に起動する魔法であり――、ようするに目の間のリディアはアストが救援に来ることも見越して、隙をついて魔法攻撃するべく準備をしていたということであった。これが武器の攻撃であれば、ノイマンはその斬撃や軌道を予測して直接見ずに回避できる。しかし、魔法攻撃の効果範囲、ダメージが発生する領域を完全に把握することは流石に不可能であり――。
「は……、はは。魔法使いの戦い方に関しては私も浅かったか――。してやられた……な」
「……覚悟しろ」
そういってノイマンにアストが刀を向ける。ノイマンはただソレを楽しげに見つめていた。その時――。
「……戦術的敗北を認めたか?」
「ああ……、間違いなく理解したとも」
不意に森に声が響く。アストたちは驚いて周囲を見回し警戒した。
「お兄ちゃん! 上!!」
その義妹の叫びにアストが上空を振り仰ぐ。そこに、一人の男が浮かんでいた。
「?!」
その男は手にする聖神経典を広げて厳かに言葉を紡ぐ。
【ああ――、偉大なるかな聖バリス神。暗雲は引き裂かれ、大地に蠢く魔なるモノどもは等しく死に絶える。それは空に轟く雷鳴――、閃光と共に現れる聖バリス神の御心の具現である。聖神経典、第五章三節――。奉神雷鳴】。
その瞬間、地上に展開されていた戦場全体に無数の雷が落下する。ほぼ無差別に放たれたそれはアストたちを直接打つことはなかったが、状況を混乱させるのには十分であった。
「撤退しろノイマン――、すでに貴様の部下には退却準備を命じてある」
「む、勝手なことを――、とは言えんか。この有り様では……」
上空に浮かぶヴァルドールを一瞥してノイマンは苦しげにうめきながら下がってゆく。ソレをアストは追おうとするが……。
「……」
上空のヴァルドールが静かにアストを見つめる。それだけでアストは動けなくなった。
「見事だ襲撃者諸君――。また機会があれば……、次は私が相手になってやろう」
その言葉を残して、不意にその姿が掻き消える。あまりの事態にアストはただ呆然とするしかなかった。
――そう、ここまでやって、アストたちはノイマンやヴァルドールたちの撤退を許してしまったのである。
「はあ……、これはまた。参りましたね」
マーマデュークがため息混じりに呟きつつエリシスを連れてアストのもとへと歩いてくる。エリシスに目には涙の跡があって、そんな彼女をマーマデュークは優しく支えている。
状況は最悪へと変わりつつある。渾身の奇襲が失敗した以上――、次は死に物狂いの戦いが待つのは必然であったからである。
◆◇◆
「……すまんが、出かける」
地底都市パトリアムの地下工房で、バルディがドワーフたちに声を掛ける。ドワーフたちは訝しげにバルディに質問を返した。
「ふむ……、弾丸の製造法は理解出来たから、お主がいなくても大丈夫ではあるが。まさかお主が直接動く事態になってるのか?」
「まあ、な……。どうも赤の民どもの研究は、俺の最悪の予想を超えている可能性が出てきたんでな……。もはや、この大陸の人間の問題だから深く関われないとか、言ってはいられなくなった」
「むう」
「アーク達も独自に動いて――、聖バリス協会圏諸国への潜入準備を進めている。問題は――、下手をすると【狂神】にすら及ぶ可能性がある」
そのバルディの言葉にドワーフたちは息を呑む。事態が深刻になりつつあることを、彼らもまた理解せざる終えなかった。
ソーディアン大陸全体に暗雲が立ち込め始めていた。
四星のヴァルドールはそう言って、魔法視覚で森全体に展開されている友軍の動きを観察している。はじめこそ相手の奇襲で損害を受けた事実があるが、それ以降は敵の猛攻を上手にしのいで、さらには包囲を狭めつつあったのである。相手の弓や魔法、それらによって損害を受けることもあるが、彼らは即死でない状況なら専用の濃縮霊薬などを用いて即座に戦線に復帰してゆき、必要ならば致命傷を自ら演出して敵側に戦況が有利であるという誤認すらさせているのである。
敵側は、こちらの戦力を確実に減らせているという【明確な誤認】に基づいて動き始めている、しかしそれは明確な誤りであり――、実際、こちらが明確に失った戦力は奇襲のはじめに絶命した者たちを含めた三割にも満たない。
「そして……、あの指揮官――、すでに相手方の後方へと回り込んでいる」
それの意味するところをヴァルドールはしっかり理解していた。――そして、正しく事が運べば相手の全滅は硬いであろう、――とも。
◆◇◆
『金鱗の大蛇』の隊長ノイマンは密かに森を駆けて、後方へと回り込んでいた。その目的は当然、現在アスト達前線を支えている支援を崩壊させる為である。
ノイマンは戦場におけるセオリーを的確に実行にうつす。現状における友軍の戦況がどうであろうが、どんなに仲間が死のうが、先に相手側の戦線を崩壊させてしまえば自分の勝利になるのだから。まあ、友軍に損害を出せば批判はどこかしら出るだろうが、彼の本心、本質からすると自分が生き残って、次の殺戮へ繋がるなら批判程度は喜んで受ける。無論、なるべく悲痛な表情を浮かべながら。
ノイマンは、優秀な軍人ではあるが、その本質は殺戮者でしかなかった。彼の歪んだ趣味が軍人、特殊破壊工作兵としての実益に合致していた、ただそれだけであった。
ノイマンは、森を抜けると真っ先に視線に入った女、おそらく黒の部族の魔女であろう娘を標的に定めた。それは無論、アストの義妹のリディアであった。
「リディア!」
不意に前線の兄から悲鳴のような叫びが飛んでくる。リディアは少し疑問を得ながら周囲を警戒した。それが、リディアの唐突な即死を回避する事になる。
「あ!」
リディアは首に迫る殺意を感じて身を翻す。そこにノイマンの特殊手甲の刃が一閃された。
「うく!」
突然の死角からの奇襲に肝を冷やし、命がなんとか繋がった事に安堵しつつ、襲撃者から距離をおこうとリディアは森を奔る。襲撃者は避けられた事を悔しがるようなそぶりもなく、ただ冷たい瞳でリディアの跡を追った。
それはまさに肉食獣に狙われる獲物の姿だった。必死で安全な間合いを開けようとするリディアに対し、無駄が一切排除された高速で襲撃者ノイマンは迫ってゆく。その段になって遠方から怒号とともに矢がノイマンへと向かって飛んだ。
「リディア!!」
大銀狼ゲイルの背に乗ったアストが、狼上弓を手にリディアたちの下へと走る。ノイマンは一瞬矢を一瞥した後、難なくそれを特殊手甲で撃墜してそのままリディアへ迫る。
「くそ!」
もはや逃げられぬと悟ったリディアは手にする嵐の女神の祭器たる槍を手に短い詠唱を行った。ノイマンは魔女の魔法に対する造詣はそれほどでもないため、あえてそれを無視して更に間合いを詰めてゆく。無論、攻撃魔法である可能性は排除出来ないために、多少の警戒はしていたがなぜかその少女の魔法は発揮されなかった。
「ふむ?」
それを詠唱失敗だと解釈したノイマンはその手の特殊手甲をリディアに向けて一閃する。戦場に少女の悲鳴と血しぶきが飛んだ。
「くあ!!」
リディアはもはや幸運だった、という一点でしかない回避で命を長らえる。首を飛ばされるはずが、肩を深く切られただけでなんとか保ったのである。
リディアは槍の扱いを熟知した熟練の槍兵でもあるが、相手のノイマンはあまりにも戦士としての格が上すぎた。ノイマンはその瞬間に次の一撃での必殺を確信する。無論、邪魔が入らなければの話であったが……。
「リディア!!」
怒号とともにアストを乗せた大銀狼がノイマンへと走り込んでくる。その手にはすでに狼上弓ではなく刀が握られていた。そのまま一閃するのとその瞬間にとったノイマンの行動にリディアが驚愕するのは同時であった。
「な?!」
まるで何事もなかったように刀がノイマンの1ミリ横を奔る。ノイマンはほぼ動かずに、僅かな動きで刀の軌道をすり抜けていた。そして、その瞬間ノイマンは思考していた。
(……ふむ。小娘、今の瞬間に追撃でも放つかと思ったが、多少の頭が回るのか、それともただ呆けているだけか。まあ、この騎狼猟兵と連携して追撃していたら、そのまま首を飛ばしていたから、ある意味運に恵まれている……か)
その相対だけで、目前の二人では自分の相手にはならないことをはっきりノイマンは理解する。このまま育っていれば状況は変わったろうが、本当に惜しい話だとノイマンは内心思った。
(おそらく、この二人が襲撃者の主力。失えばそのまま全滅――。それほどおもしろくもない戦いではあったな)
ノイマンはとりあえずリディアに背を向けて大群狼の背に乗る男へと向き直った。それはまさにリディアに無防備な様子をさらす行動であったが――。
「お前!!」
「ククク……、相手になってやろうか? 黒髪の騎狼猟兵……」
ノイマンは背後にいて槍を手にしているリディアを、完全に無視する様子でアストにそういった。
(こいつ……、別にリディアを警戒していないわけじゃない。ただ――、この瞬間リディアが不意打ちを仕掛けてきても、その反撃で首を飛ばす用意があるんだ)
アストはそう分析しつつ、眼の前の男こそ『金鱗の大蛇』のトップであろうことを予想した。アストとリディア、そしてノイマン、この両者の間には明確な隔たりが大きな断崖となって横たわていた。正攻法ではノイマンには絶対に勝てない――、それはアストの戦士としてのカンが告げていた。
「実に惜しいな……、もっと後であればもっと楽しい殺し合いを出来たであろうに」
「御免被る……。お前みたいな戦闘狂とは二度とごめんだ」
「ははは……、まさか私から逃げられると?」
無論、逃げられないであろうことはアストは理解している。背後のリディアが槍で奇襲しても、結果はリディアが先に死ぬか、自分が先に死ぬかの差でしかない。そもそもリディアの槍も自分の刀も、事も無げにこの相手なら避けて見せて、そのまま必殺のカウンターを放ってくるだろう。その場合の「必殺」はまさに言葉の意味そのもので――。
現状まさに状況は積んでいる。リディアの攻撃が魔法攻撃に変わっても、呪文詠唱だけで察知されてそのまま運命は変わらない。それほどノイマンは絶望的な力を持って、アストたちにとっての死神として迫っていた。
「……」
しかし……、しかしだ。アストはここで旅を終えるつもりなどない。無論、リディアも同じ思いであり……。だからこそそのままアストは刀を全力で振るった。
(……ふ、これで終いか――。背後の小娘は動く気配もない。ならばこのままカウンターで男の首を飛ばして。そのままの動きで背後の小娘の首も切り落としてしまおう)
ノイマンはアストの刀の軌道を正確に読み取って、紙一重で凶刃を避ける。そのまま間合いを詰めて、高速で特殊手甲を一閃する。
――一閃しようとした。
ドン!!
その瞬間、轟音とともにノイマンの意識が真っ白になる。久しく感じたことのない意識喪失に、ノイマンは何も考えられず、ただ本能だけでアストたちから離れるように身を翻した。
「が……は?!」
何が起こったのかノイマンには理解が及ばなかった。もし、彼ら以外の友軍が援護に来たならば、それを察知することなど容易であるはずだ。だから、そのまま背後にいたリディアが「何かをした」のだという結論に至った。
そして、それは確かにその通りであった。リディアの自分の方へと向けている手のひらに、かすかに稲妻が走っているのが確認できた。リディアはおそらく魔法を使ったのである。
「ば、かな?! 呪文詠唱など、なかったぞ?!」
「……」
リディアは笑いもせずノイマンを睨みつけている。ノイマンは明確に致命傷に近いダメージを負った自分を自覚しつつ唇を噛んだ。
そんな、悔しそうな様子のノイマンに、アストが刀を向けつつ声をかけてくる。
「リディアを甘く見過ぎだ。お前より戦場において弱い者が、お前に絶対に勝てないと――、なぜ勝手に考える?」
「!!」
その時、リディアが再び短い呪文を唱えた。それは、先程と同じ語感を持つ呪文であり、先ほどと同じように魔法そのものは起動しなかった。
「あ!」
その時になってやっと理解する。彼女が扱った魔法は「遅延発動魔法」であると。
「遅延発動魔法」とは、あらかじめ準備だけしておいて「発動そのもの」は後回しにして即座に起動する魔法であり――、ようするに目の間のリディアはアストが救援に来ることも見越して、隙をついて魔法攻撃するべく準備をしていたということであった。これが武器の攻撃であれば、ノイマンはその斬撃や軌道を予測して直接見ずに回避できる。しかし、魔法攻撃の効果範囲、ダメージが発生する領域を完全に把握することは流石に不可能であり――。
「は……、はは。魔法使いの戦い方に関しては私も浅かったか――。してやられた……な」
「……覚悟しろ」
そういってノイマンにアストが刀を向ける。ノイマンはただソレを楽しげに見つめていた。その時――。
「……戦術的敗北を認めたか?」
「ああ……、間違いなく理解したとも」
不意に森に声が響く。アストたちは驚いて周囲を見回し警戒した。
「お兄ちゃん! 上!!」
その義妹の叫びにアストが上空を振り仰ぐ。そこに、一人の男が浮かんでいた。
「?!」
その男は手にする聖神経典を広げて厳かに言葉を紡ぐ。
【ああ――、偉大なるかな聖バリス神。暗雲は引き裂かれ、大地に蠢く魔なるモノどもは等しく死に絶える。それは空に轟く雷鳴――、閃光と共に現れる聖バリス神の御心の具現である。聖神経典、第五章三節――。奉神雷鳴】。
その瞬間、地上に展開されていた戦場全体に無数の雷が落下する。ほぼ無差別に放たれたそれはアストたちを直接打つことはなかったが、状況を混乱させるのには十分であった。
「撤退しろノイマン――、すでに貴様の部下には退却準備を命じてある」
「む、勝手なことを――、とは言えんか。この有り様では……」
上空に浮かぶヴァルドールを一瞥してノイマンは苦しげにうめきながら下がってゆく。ソレをアストは追おうとするが……。
「……」
上空のヴァルドールが静かにアストを見つめる。それだけでアストは動けなくなった。
「見事だ襲撃者諸君――。また機会があれば……、次は私が相手になってやろう」
その言葉を残して、不意にその姿が掻き消える。あまりの事態にアストはただ呆然とするしかなかった。
――そう、ここまでやって、アストたちはノイマンやヴァルドールたちの撤退を許してしまったのである。
「はあ……、これはまた。参りましたね」
マーマデュークがため息混じりに呟きつつエリシスを連れてアストのもとへと歩いてくる。エリシスに目には涙の跡があって、そんな彼女をマーマデュークは優しく支えている。
状況は最悪へと変わりつつある。渾身の奇襲が失敗した以上――、次は死に物狂いの戦いが待つのは必然であったからである。
◆◇◆
「……すまんが、出かける」
地底都市パトリアムの地下工房で、バルディがドワーフたちに声を掛ける。ドワーフたちは訝しげにバルディに質問を返した。
「ふむ……、弾丸の製造法は理解出来たから、お主がいなくても大丈夫ではあるが。まさかお主が直接動く事態になってるのか?」
「まあ、な……。どうも赤の民どもの研究は、俺の最悪の予想を超えている可能性が出てきたんでな……。もはや、この大陸の人間の問題だから深く関われないとか、言ってはいられなくなった」
「むう」
「アーク達も独自に動いて――、聖バリス協会圏諸国への潜入準備を進めている。問題は――、下手をすると【狂神】にすら及ぶ可能性がある」
そのバルディの言葉にドワーフたちは息を呑む。事態が深刻になりつつあることを、彼らもまた理解せざる終えなかった。
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だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
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エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
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数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
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