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幕間 勇者と魔王、その決戦の前――
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――それはかつての決戦の記憶。
魔王を討伐すべく魔王城を進む勇者たちの前に――、一つの運命が待ち受けていた。
それは魔王城の最奥にある封印された部屋。――そこで勇者たちは【彼】と出会ったのである。
???「やっと、此処まで来てくれたんだね、勇者」
そのおぼろげな姿を見て勇者は驚いた顔をする。その姿はまさしく――。
勇者「お前は……、魔王?」
???「そう、僕は魔王……、正しくはその砕けた心の欠片だ」
その答えに勇者たちは困惑の表情を向ける。その【魔王を名乗る影】は明らかに魔王とは違う穏やかな表情をしていたのだ。
勇者「……」
魔王の欠片「僕は待っていた、魔王を滅ぼし得る勇者の到来を……」
勇者「なんで?」
魔王の欠片「無論、魔王を滅ぼす切り札を勇者に託すためだ」
勇者は彼の言葉に疑問を抱き――、それをそのまま言葉に出す。
勇者「なぜ、アンタは魔王が滅びるのを望む? 自分自身だろ?」
魔王の欠片「悪辣なる魔王を、そうなってしまった自分を消したいからだ」
その言葉に――、勇者は一つの納得を得る。そして思い出したのは、かの戦鬼将軍ガルンテルが託した願いであった。
勇者「ガルンテルは、魔王は昔、優しい心を持っていた、そう言っていたが……、やはり何か理由があってああなったんだな?」
その言葉に、彼は静かに目を瞑って答える。
魔王の欠片「それは……、君たちは別に知らなくてもいい事だ……。あの魔王はただの悪しき殺戮者でしかない」
勇者「……それはそうかもしれんが、立ち向かう奴の真実くらいは知っておきたい」
その勇者の答えに、彼は不思議そうな顔をして問うた。
魔王の欠片「君は……、そうすれば自分の振るう剣が鈍るかも、とは考えないのか?」
勇者「そうかもしれん、が……、俺はお前の真実を知るべきだと、今は思っているんだ」
勇者の答えを受けた彼は、しばらく考えた後に少し笑って言った。
魔王の欠片「――そうか、ある意味で愚かではあるが……、そんな君だからこそ、命がけで皆のために戦えるのかも知れないね」
彼はそれだけを言うとしばらく何かを考えていた。――そして意を決したように語り始める。
魔王の欠片「それは――、本来なら僕と、一部のものたちに留まるはずであった話だ」
勇者たちは彼の語る物語を聞く。――それは一つの【ありふれた不幸】の物語であった。
魔王の欠片「僕は父である【慈悲王】と讃えられた先代魔王のもとに生まれ――、古代より幾度も領域争いをしてきた魔界――そして、人類圏、その双方の安定と平和のためにその力を振るうように教育されてきた。僕は――、昔から何度もお忍びで人類圏に遊びに行っていたから、その父の言葉も当然として受け入れ――、何より自分自身の意志で、魔界と人類圏の平和のために生きることを決めていた」
かつて魔界を統治していた【慈悲王】――、彼は魔族だけでなく、人間をに対しても礼節を尽くす魔族であった。
だからその時代は、それまでになく人類圏と魔界双方において、とても平和な時代であった。
魔王の欠片「ある程度大人になった時――、僕はある人間の娘と恋におちた。それは僕にとってそれまでにもない幸福な毎日であり――、かけがえのない日々だった」
そう語る彼の目はとても優しく、慈愛に満ちており――、あの魔王と同じ存在だとは思えなかった。
魔王の欠片「娘の境遇は――、お世辞にも良いものではなかった。しかし、それでも笑顔でいる彼女に、僕は――、何より守りたいものとして写った」
そこまで語ると――、彼の目は言いようのない悲しみに満ちてゆく。
魔王の欠片「――しかし、残酷な運命は、彼女を見逃してはくれなかった。ある日――、彼女は行方不明になった……」
エリシス「……」
魔王の欠片「僕は必死で探し――、そして、彼女が住んでいた街のスラムにある、無法者たちのアジトで――、散々玩具(おもちゃ)にされた挙げ句、事切れている彼女を見つけた――」
アンネ「……!」
その話を聞いて、さすがのアンネミリアは言葉もなく口を押さえる。
魔王の欠片「――生まれて初めてだった。他人にアレほどの殺意を向けたことは――。だから――、当然僕は……、彼らをこの手で断罪した」
クーネ「……」
クーネリアは静かに彼の言葉を聞いている。
魔王の欠片「――そう、ここまでなら、この世界の何処かには必ずある、ある意味ありふれた不幸な出来事でしかない。でも――、まさにそれは【神のイタズラ】だったんだ――」
勇者「……どういうことだ?」
その彼の言葉に勇者は疑問をえてそれを口にする。彼は頷いて答えた。
魔王の欠片「――その瞬間、僕は【特異加護】に目覚めたんだよ」
アンネ「それは――、まさか?!」
勇者「な――!」
その彼の答えに、勇者とアンネミリアが青い顔をして驚愕する。それを見て、クーネリア、エリシス、レイ、の三人は首を傾げた。
魔王の欠片「【勇者】と【聖女】――、その【特異加護】を持つ、君たちなら――当然知っていることだろうね?」
クーネ「え? 何? ――どういう事?」
クーネリアはその言葉の意味がわからず困惑の表情をつくる。そんな彼女に勇者は苦しい表情で答えを返した。
勇者「――一度【特異加護】に覚醒すると、それから別のクラスへの変更は不可能……。それはクラスシステムにおける絶対的ルールだと言われている――」
レイ「――あ、まさか――。それでは?!」
勇者の言葉に理解を得たレイが驚きの声を上げた。
魔王の欠片「――そう、その時、僕が覚醒した【クラス】に――、あえて名前をつけるなら【復讐者】……だ」
勇者「……」
魔王の欠片「正しくは――、覚醒直前の精神状態を【固有特性】として保持してしまい……、あらゆる行動をそれを基準にしてしか出来なくなる。クラスシステム最悪の【バグ】だ……」
勇者とアンネミリアはそれまでの彼の話に、ある意味納得の表情を浮かべて言った。
アンネ「……魔王――、以前から、貴方の行動に疑問を感じてはいました。いくら人間が憎いからとて――、同族にすらあれほどの非道を行えば、その先にあるのは破滅だけです……」
勇者「でも、その話が本当であれば――、すべての行動が納得いく。魔王――、アンタ、憎悪する以外の行動ができなくなっていたんだな?」
二人の言葉に彼は頷いて言う。
魔王の欠片「その通り――、今、僕の肉体を支配しているのは――、言ってしまえば僕ではなく【クラス】だ――」
そこまで聞くと、勇者は俯いて一人言葉を発した。
勇者「……ち、そういうことか」
クーネ「ん? 勇者?」
勇者「俺は、【勇者】のクラスに目覚めてから、それをよく知るために、いろいろな古文書を読んできた。その記述には、昔から――、定期的に狂気じみた【絶対悪】が現れて――、そのしばらく後に【勇者】に目覚める者が現れた――、そう書かれていた」
勇者の言葉にアンネミリアが言葉を返す。
アンネ「昔から――、この【バグ】によって狂気に堕ちる者は何人も存在し……、それを処分する機能が【勇者】であると?」
勇者「――おそらくその通りだ……。無論、こんな事、俺等がわかるくらいのことだ、歴代の【勇者】にも気付いたものはいただろう。でも――、その全てが口をつぐんで後の生涯を閉じている」
二人の会話に、それまで黙っていたエリシスが言葉を返す。
エリシス「それは――当然のことではありますね。なにせこの世界は人間、魔族、に区別なく――、【星神】こそが信仰対象であり、今知った事を口に出そうものなら――、ほぼ間違いなく世界の大半を敵にまわすことになります」
エリシスの言葉に勇者は頷いて返すと、更に話を続ける。
勇者「もっとも、……勇者の全てが黙っていたとは俺には思えない。おそらく、ソレに立ち向かおうとした者もいただろう――、でも」
レイ「すべからく――、この状況を正すことが出来ず敗北しておる……と?」
勇者たち「……」
そのあまりに残酷な真実に、勇者たちは一様に言葉を失う。それを見つめていた彼は静かに言葉を発した。
魔王の欠片「勇者よ――、どうか狂気に堕ちた僕を討伐してほしい――。これ以上、僕が愛した【彼女】と同じ人間たちを、この手で殺したくはないんだ。――そして、同じ魔族にすら非道を行う僕を――、どうか断罪してほしい」
勇者「……」
魔王の欠片「……星神のシステムに囚われている以上――、僕はこのまま非道を続けるだろう。今、狂気の僕が【星神に成る】事を望むのは――、なけなしの罪悪感が起こしている断末魔だ。それで僕の心がもとに戻っても、その過程で多くの命が奪われてしまう」
静かに語る彼を勇者は黙って見つめる。アンネミリアはその様子を見て黙っていられず、勇者の肩に手を触れた。
アンネ「勇者様――」
勇者「――わかった。その願い――、必ず叶える」
勇者はたしかに頷いて、そう決意のこもった瞳で彼を見つめた。
魔王の欠片「ありがとう――。勇者」
礼を言い頭を下げる彼に、勇者は決意のこもった言葉を告げる。
勇者「それだけじゃない――」
魔王の欠片「?」
勇者「俺はここに来て――、やっと俺がこなすべき【クエスト】を手に入れた」
そう言って俯く勇者を見て、その場の全員が驚きの目を向けた。
クーネ「え?」
レイ「おい――まさか」
勇者「俺は――、偶然【勇者】に目覚めて――、それに引っ張られて勇者というものをこなしてきた。そこには俺の意志はなく――、本当の意味で人生を生きてはいなかった」
アンネ「……勇者様」
アンネミリアは心配そうに勇者を見つめる。
勇者「でも――、やっとわかったよ。俺がその生涯をかけて達成すべき【クエスト】。星神システムの【バク】を正し――、これ以降、魔王や、それに巻きこまれた人たちのような不幸が続かないようにする。それこそが――」
エリシス「――それは、かつての勇者たちのような、負け戦になるかも知れませんよ?」
そこまで語った勇者を、エリシスの言葉が遮る。勇者は笑ってそれに答えた。
勇者「は――、俺は勇者だぞ? その名の由来は――【勇気を持って進む者】だ……」
その言葉を聞いた勇者の仲間である四人の娘たちは――、一様に笑顔で勇者に言った。
エリシス「……はあ、それでは――、我々もついていかざるおえないではないではないですか」
クーネ「よくわかんないけど――、困難を乗り越えるためには、私達の力も必要だよね?」
レイ「当然じゃのう? 儂らは――、生涯勇者殿の進む先にともにあるつもりじゃからの」
アンネ「勇者様――、どうか私達も貴方様の次なる冒険に連れて行ってくださるよう、お願いします。――たとえ【世界】が敵になろうと、私達は常に勇者様とともに――」
勇者たちのその姿を――、少し眩しそうに見つめていた彼は、静かに笑って言葉を発した。
魔王の欠片「――そうか、君たちは、この後も冒険を続けるつもりなんだね?」
勇者「ああ――、でもその前に、眼の前の状況を正さなけりゃな」
魔王の欠片「ならば――」
勇者のその言葉に、彼は静かに頷いて――、厳かな言葉を発しながらその身を輝かせ始める。不意に空中に、装飾のない一振りの【長剣】が現れた。
魔王の欠片「【世界】の不条理に立ち向かわんとする勇者よ――、その旅は果てしなく困難に満ちている。――そして、その前に正すべき【悪】は目前に有り、君の到着を待ち受けている。ゆえに――、我が魂の欠片を封じたこの剣を手に先に進むがよい。その先に一つの決着はあり――、人類圏と魔界に平和は戻るであろう。しかし――、それは君たちにとって本当の戦いの始まりに過ぎず……、しかし――、僕はそれを君たちが確かに乗り越えられると信じている」
――恐れるな勇気を持って進むがよい。それこそが――。
――【勇者】なり――。
かくして勇者と魔王の決戦は始まりを迎える。それは次なる戦いの始まりであり――、その先へと進んだ後の勇者たちの、その旅路の果ては今も見えない。
魔王を討伐すべく魔王城を進む勇者たちの前に――、一つの運命が待ち受けていた。
それは魔王城の最奥にある封印された部屋。――そこで勇者たちは【彼】と出会ったのである。
???「やっと、此処まで来てくれたんだね、勇者」
そのおぼろげな姿を見て勇者は驚いた顔をする。その姿はまさしく――。
勇者「お前は……、魔王?」
???「そう、僕は魔王……、正しくはその砕けた心の欠片だ」
その答えに勇者たちは困惑の表情を向ける。その【魔王を名乗る影】は明らかに魔王とは違う穏やかな表情をしていたのだ。
勇者「……」
魔王の欠片「僕は待っていた、魔王を滅ぼし得る勇者の到来を……」
勇者「なんで?」
魔王の欠片「無論、魔王を滅ぼす切り札を勇者に託すためだ」
勇者は彼の言葉に疑問を抱き――、それをそのまま言葉に出す。
勇者「なぜ、アンタは魔王が滅びるのを望む? 自分自身だろ?」
魔王の欠片「悪辣なる魔王を、そうなってしまった自分を消したいからだ」
その言葉に――、勇者は一つの納得を得る。そして思い出したのは、かの戦鬼将軍ガルンテルが託した願いであった。
勇者「ガルンテルは、魔王は昔、優しい心を持っていた、そう言っていたが……、やはり何か理由があってああなったんだな?」
その言葉に、彼は静かに目を瞑って答える。
魔王の欠片「それは……、君たちは別に知らなくてもいい事だ……。あの魔王はただの悪しき殺戮者でしかない」
勇者「……それはそうかもしれんが、立ち向かう奴の真実くらいは知っておきたい」
その勇者の答えに、彼は不思議そうな顔をして問うた。
魔王の欠片「君は……、そうすれば自分の振るう剣が鈍るかも、とは考えないのか?」
勇者「そうかもしれん、が……、俺はお前の真実を知るべきだと、今は思っているんだ」
勇者の答えを受けた彼は、しばらく考えた後に少し笑って言った。
魔王の欠片「――そうか、ある意味で愚かではあるが……、そんな君だからこそ、命がけで皆のために戦えるのかも知れないね」
彼はそれだけを言うとしばらく何かを考えていた。――そして意を決したように語り始める。
魔王の欠片「それは――、本来なら僕と、一部のものたちに留まるはずであった話だ」
勇者たちは彼の語る物語を聞く。――それは一つの【ありふれた不幸】の物語であった。
魔王の欠片「僕は父である【慈悲王】と讃えられた先代魔王のもとに生まれ――、古代より幾度も領域争いをしてきた魔界――そして、人類圏、その双方の安定と平和のためにその力を振るうように教育されてきた。僕は――、昔から何度もお忍びで人類圏に遊びに行っていたから、その父の言葉も当然として受け入れ――、何より自分自身の意志で、魔界と人類圏の平和のために生きることを決めていた」
かつて魔界を統治していた【慈悲王】――、彼は魔族だけでなく、人間をに対しても礼節を尽くす魔族であった。
だからその時代は、それまでになく人類圏と魔界双方において、とても平和な時代であった。
魔王の欠片「ある程度大人になった時――、僕はある人間の娘と恋におちた。それは僕にとってそれまでにもない幸福な毎日であり――、かけがえのない日々だった」
そう語る彼の目はとても優しく、慈愛に満ちており――、あの魔王と同じ存在だとは思えなかった。
魔王の欠片「娘の境遇は――、お世辞にも良いものではなかった。しかし、それでも笑顔でいる彼女に、僕は――、何より守りたいものとして写った」
そこまで語ると――、彼の目は言いようのない悲しみに満ちてゆく。
魔王の欠片「――しかし、残酷な運命は、彼女を見逃してはくれなかった。ある日――、彼女は行方不明になった……」
エリシス「……」
魔王の欠片「僕は必死で探し――、そして、彼女が住んでいた街のスラムにある、無法者たちのアジトで――、散々玩具(おもちゃ)にされた挙げ句、事切れている彼女を見つけた――」
アンネ「……!」
その話を聞いて、さすがのアンネミリアは言葉もなく口を押さえる。
魔王の欠片「――生まれて初めてだった。他人にアレほどの殺意を向けたことは――。だから――、当然僕は……、彼らをこの手で断罪した」
クーネ「……」
クーネリアは静かに彼の言葉を聞いている。
魔王の欠片「――そう、ここまでなら、この世界の何処かには必ずある、ある意味ありふれた不幸な出来事でしかない。でも――、まさにそれは【神のイタズラ】だったんだ――」
勇者「……どういうことだ?」
その彼の言葉に勇者は疑問をえてそれを口にする。彼は頷いて答えた。
魔王の欠片「――その瞬間、僕は【特異加護】に目覚めたんだよ」
アンネ「それは――、まさか?!」
勇者「な――!」
その彼の答えに、勇者とアンネミリアが青い顔をして驚愕する。それを見て、クーネリア、エリシス、レイ、の三人は首を傾げた。
魔王の欠片「【勇者】と【聖女】――、その【特異加護】を持つ、君たちなら――当然知っていることだろうね?」
クーネ「え? 何? ――どういう事?」
クーネリアはその言葉の意味がわからず困惑の表情をつくる。そんな彼女に勇者は苦しい表情で答えを返した。
勇者「――一度【特異加護】に覚醒すると、それから別のクラスへの変更は不可能……。それはクラスシステムにおける絶対的ルールだと言われている――」
レイ「――あ、まさか――。それでは?!」
勇者の言葉に理解を得たレイが驚きの声を上げた。
魔王の欠片「――そう、その時、僕が覚醒した【クラス】に――、あえて名前をつけるなら【復讐者】……だ」
勇者「……」
魔王の欠片「正しくは――、覚醒直前の精神状態を【固有特性】として保持してしまい……、あらゆる行動をそれを基準にしてしか出来なくなる。クラスシステム最悪の【バグ】だ……」
勇者とアンネミリアはそれまでの彼の話に、ある意味納得の表情を浮かべて言った。
アンネ「……魔王――、以前から、貴方の行動に疑問を感じてはいました。いくら人間が憎いからとて――、同族にすらあれほどの非道を行えば、その先にあるのは破滅だけです……」
勇者「でも、その話が本当であれば――、すべての行動が納得いく。魔王――、アンタ、憎悪する以外の行動ができなくなっていたんだな?」
二人の言葉に彼は頷いて言う。
魔王の欠片「その通り――、今、僕の肉体を支配しているのは――、言ってしまえば僕ではなく【クラス】だ――」
そこまで聞くと、勇者は俯いて一人言葉を発した。
勇者「……ち、そういうことか」
クーネ「ん? 勇者?」
勇者「俺は、【勇者】のクラスに目覚めてから、それをよく知るために、いろいろな古文書を読んできた。その記述には、昔から――、定期的に狂気じみた【絶対悪】が現れて――、そのしばらく後に【勇者】に目覚める者が現れた――、そう書かれていた」
勇者の言葉にアンネミリアが言葉を返す。
アンネ「昔から――、この【バグ】によって狂気に堕ちる者は何人も存在し……、それを処分する機能が【勇者】であると?」
勇者「――おそらくその通りだ……。無論、こんな事、俺等がわかるくらいのことだ、歴代の【勇者】にも気付いたものはいただろう。でも――、その全てが口をつぐんで後の生涯を閉じている」
二人の会話に、それまで黙っていたエリシスが言葉を返す。
エリシス「それは――当然のことではありますね。なにせこの世界は人間、魔族、に区別なく――、【星神】こそが信仰対象であり、今知った事を口に出そうものなら――、ほぼ間違いなく世界の大半を敵にまわすことになります」
エリシスの言葉に勇者は頷いて返すと、更に話を続ける。
勇者「もっとも、……勇者の全てが黙っていたとは俺には思えない。おそらく、ソレに立ち向かおうとした者もいただろう――、でも」
レイ「すべからく――、この状況を正すことが出来ず敗北しておる……と?」
勇者たち「……」
そのあまりに残酷な真実に、勇者たちは一様に言葉を失う。それを見つめていた彼は静かに言葉を発した。
魔王の欠片「勇者よ――、どうか狂気に堕ちた僕を討伐してほしい――。これ以上、僕が愛した【彼女】と同じ人間たちを、この手で殺したくはないんだ。――そして、同じ魔族にすら非道を行う僕を――、どうか断罪してほしい」
勇者「……」
魔王の欠片「……星神のシステムに囚われている以上――、僕はこのまま非道を続けるだろう。今、狂気の僕が【星神に成る】事を望むのは――、なけなしの罪悪感が起こしている断末魔だ。それで僕の心がもとに戻っても、その過程で多くの命が奪われてしまう」
静かに語る彼を勇者は黙って見つめる。アンネミリアはその様子を見て黙っていられず、勇者の肩に手を触れた。
アンネ「勇者様――」
勇者「――わかった。その願い――、必ず叶える」
勇者はたしかに頷いて、そう決意のこもった瞳で彼を見つめた。
魔王の欠片「ありがとう――。勇者」
礼を言い頭を下げる彼に、勇者は決意のこもった言葉を告げる。
勇者「それだけじゃない――」
魔王の欠片「?」
勇者「俺はここに来て――、やっと俺がこなすべき【クエスト】を手に入れた」
そう言って俯く勇者を見て、その場の全員が驚きの目を向けた。
クーネ「え?」
レイ「おい――まさか」
勇者「俺は――、偶然【勇者】に目覚めて――、それに引っ張られて勇者というものをこなしてきた。そこには俺の意志はなく――、本当の意味で人生を生きてはいなかった」
アンネ「……勇者様」
アンネミリアは心配そうに勇者を見つめる。
勇者「でも――、やっとわかったよ。俺がその生涯をかけて達成すべき【クエスト】。星神システムの【バク】を正し――、これ以降、魔王や、それに巻きこまれた人たちのような不幸が続かないようにする。それこそが――」
エリシス「――それは、かつての勇者たちのような、負け戦になるかも知れませんよ?」
そこまで語った勇者を、エリシスの言葉が遮る。勇者は笑ってそれに答えた。
勇者「は――、俺は勇者だぞ? その名の由来は――【勇気を持って進む者】だ……」
その言葉を聞いた勇者の仲間である四人の娘たちは――、一様に笑顔で勇者に言った。
エリシス「……はあ、それでは――、我々もついていかざるおえないではないではないですか」
クーネ「よくわかんないけど――、困難を乗り越えるためには、私達の力も必要だよね?」
レイ「当然じゃのう? 儂らは――、生涯勇者殿の進む先にともにあるつもりじゃからの」
アンネ「勇者様――、どうか私達も貴方様の次なる冒険に連れて行ってくださるよう、お願いします。――たとえ【世界】が敵になろうと、私達は常に勇者様とともに――」
勇者たちのその姿を――、少し眩しそうに見つめていた彼は、静かに笑って言葉を発した。
魔王の欠片「――そうか、君たちは、この後も冒険を続けるつもりなんだね?」
勇者「ああ――、でもその前に、眼の前の状況を正さなけりゃな」
魔王の欠片「ならば――」
勇者のその言葉に、彼は静かに頷いて――、厳かな言葉を発しながらその身を輝かせ始める。不意に空中に、装飾のない一振りの【長剣】が現れた。
魔王の欠片「【世界】の不条理に立ち向かわんとする勇者よ――、その旅は果てしなく困難に満ちている。――そして、その前に正すべき【悪】は目前に有り、君の到着を待ち受けている。ゆえに――、我が魂の欠片を封じたこの剣を手に先に進むがよい。その先に一つの決着はあり――、人類圏と魔界に平和は戻るであろう。しかし――、それは君たちにとって本当の戦いの始まりに過ぎず……、しかし――、僕はそれを君たちが確かに乗り越えられると信じている」
――恐れるな勇気を持って進むがよい。それこそが――。
――【勇者】なり――。
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