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ヴァンドレイク王国編
第十一話 そして私たちは運命の出会いをする
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それは今から十五年前――、私の妹が生まれて、私がいつものように幼いながらも妹をあやして――、一緒に遊んでいた時。
王国使用人「……やっぱりそうだよね――」
王国使用人「ええ……、あの髪の色、瞳の色は王様のものではないわけだし……」
私が幼い故に、理解できていないと踏んだのか、あからさまな声音で私の前で話し合う使用人たち。
――でも、私は使用人たちが纏う嫌な雰囲気を敏感に感じ取っていた。だから、同じく何かを感じ取って顔を泣き顔に歪めつつある愛する妹を一所懸命にあやしていた。
王国使用人「……国王様は――、あの日から王妃様と直接のお話はしていないのよね?」
王国使用人「ええ……、その顔を見るのは辛いとおっしゃっているそうよ」
そう――、いつも仲睦まじく、私の良き両親であった父様と母様――。でも今は何故かお互い顔を合わせずに――、顔を合わせても私にとって何よりも嫌な雰囲気の会話が始まるだけで……。
アンネミリア(――お父様……。お母様――)
私が二歳になり、ある程度世界を知るようになって――、初めて経験したことが両親の仲の明確な決裂であった。
無論、その当時の私は、何が問題であるのか深い理解は出来ていなかったが――、その原因が新しく出来た妹・クーネリアにあることは理解できた。
ならば――、この両親の仲を裂いた原因である妹を……。
――そんな事は私には出来ない。生まれた瞬間を見て――、その幼い産声を聞いて――、何よりも嬉しかったその誕生の記憶。
この子は――、誰がなんと言おうと私の大切な妹なのだから。
それからしばらく後――、必死に不義を行ったという疑惑を否定する母様を、父様は王都から離れた別宅へと追いやった。
母様はそこで心を病んだ後に流行り病にかかって――、最後まで無実を訴えながらもその生涯を閉じた。
そして、私は――、私がある程度成長すると、父様は明確に私を避け――、そして存在しないものとして扱うようになった。
――その原因は、まさに――、私が何より母にそっくりであったこと――であった。
――そして、私の運命は決定づけられる。
今から十年前――、魔王軍との争いが激化しつつあり、その対抗策として【星神魔法】を扱える術者の育成を研究し初めた時、――その実験体として私は選ばれ、人々から隔離された生活を余儀なくされた。それは、もちろん適合者が国内で私しかいなかったからではあるが――、父様はなにより私の姿を日常で見ないで済むことに安堵しているようであった。
◆◇◆
月夜の下で村落を徘徊する者たちがいる。それは人ではない魔物であり――、先程まで村落に住む人々を殺害して回っていた魔王軍の兵であった。
村落を徘徊し周囲を警戒するそれらの目前に、突如として輝く光の球体は現れる。驚く魔物たちの前で輝く球体は人の形を取り始める。
???「――精霊門の機能は異常なし。でも――、村落外から内部への短距離しか未だ機能せず。それ以上だと――」
魔物「貴様?!」
???「目標を確認。対応を開始」
私は淡々と言葉を紡ぎ――、そして、空中に無数の輝くナイフを召喚する。それは一つ一つが殺傷という概念を形にしたモノであり――。
???「目標、村落を制圧中の全魔物――。魔力短剣全目標ロックオン」
次の瞬間、輝く無数の短剣が村落の空へと放たれる。それらは的確に、村落を徘徊する全ての魔物へと向かい――、その生命のほぼすべてを奪った。
???「目標――、生き残ったのは二割……か。やっぱり威力が圧倒的に足りない――。これでは本格的な戦闘には役にたたないわね」
生き残った魔物が逃亡を図り――闇の向こうに消えてゆくのが見える。あの連中は、おそらく展開中の補助隊が殲滅するはずだ。
そうして、汗をかいて息を荒くする私の前に黒衣の集団が現れる。それらは私の姿を認めると声をかけてきた。
黒衣「ふむ――、今回の実用試験は、目指す目標に対して及第点の評価ではあるな。まあ――、数回の星神魔法の制御だけで、ここまで疲労するのは困った話ではあるが――」
???「申し訳ありません」
黒衣「いいえ……、このまま制御が上達すれば、なんとか魔王軍への牽制役程度にはなれるでしょう」
???「……」
私はその黒衣の言葉が、明らかな皮肉であることを理解している。私はその程度の役割ために力を得たのではない。
――何より対魔王の切り札として――、決戦兵器となるべく実験を受けているのだ。
黒衣「実験体……、いえ、アンネミリア様――。今宵の実験はここまでに致しましょうか?」
アンネミリア「……はい」
私はただ静かに黒衣に気づかれないよう唇を噛む。――このままでは父様の役には立てない。
アンネミリア(――父様……)
あれから父様は――、全てを振り切るように魔王軍との戦いを進めてきた。その心の中に宿る苦しみはどれほどのものであろうか?
――あの日から一度も浮かべなくなった笑顔を思い出しながら、ただ父の役に立ちたい――、それだけのために私は今日も生きている。
――と、不意に私の前に一人の見知らぬ男が現れた。
旅の剣士「……?」
魔術師の男?「勇者様? ……あ、いえロー様!!」
アンネミリア(勇者……様?)
それは、背中や腰に数本の長剣を携え――、さらにはそれ以上の数の短剣を装備した、ハリネズミのごとき有り様の剣士であった。
その男は一瞬、隣りにいる魔術師に苦笑いを向けると、すぐに私に向かって目を向けて笑った。
ロー「君は――、なんて言うか見たことのない魔法を使うんだね」
カーネル「そうですね……、確かにあんなのは見たことが――」
――と、黒衣の集団がその旅人たちを取り囲むように動く。そして声を発した。
黒衣「魔王軍……ではないようだが。実験を見られた以上、放置することはできん」
カーネル「うえ? ちょっと?」
ロー「……」
旅の剣士は黙って黒衣の集団を見つめている。黒衣の集団は一斉に魔法を唱え始め――。
アンネミリア「――!」
次の瞬間にはその剣士の放つ拳によって、その全員が地面に転がっていた。
私は――、全く動けなかった。眼の前の男は、明らかに人の規格を越える動きをしていた。
アンネミリア「貴方は――」
ロー「悪い……、こうなるなら出てこずに隠れて去るべきだった。もちろん君に手を出す気はない」
アンネミリア「――まさか貴方は……」
ロー「……ん?」
その時にやっと私は理解した。先ほど彼が呼ばれた名称。
アンネミリア「貴方は――、勇者様?」
その私の言葉に、彼は少し困った様子で笑って。そして、小さくハッキリと頷いたのである。
――これが私と勇者様が初めて出会った瞬間――。
ここから――、私の本当の人生が始まった。
◆◇◆
姉様がそのひとと邂逅する、その数日前――。
私はその時、旅支度を整えて――、私、クーネリア・リト・ヴァンドレイクの牢獄でもある士官学校の正門をくぐる。
その姿を認めて追いかけてきた学校長が私の前に走ってきてその行く手を塞いだ。
クーネリア「どきなさい……」
学校長「いや……、それは出来ません!」
クーネリア「貴方の首が危ういから?」
学校長「……」
私は絶対零度の視線を眼の前の学校長に向ける。学校長は苦渋に顔を歪めつつ答える。
学校長「どうか……、王都へ戻るのはおやめください――。そうしないと私は……」
クーネリア「は……、何度も聞いたわ――。貴方も、家族の生活を守るために大変ねぇ。でも――」
私は最早慈悲もなく眼の前の学校長を睨んで言った。
クーネリア「……だからって、貴方に私の人生の進む先を塞ぐ権利がどこにあるの? 今まで貴方の言う通り我慢はした――、貴方のためではなく、こういった事に無関係な貴方の家族のためにこそ――」
学校長「クーネリア様……」
クーネリアは最大の怒りを持って学校長を見下ろす。
クーネリア「でも――、姉様を前線で戦わせている、その事を聞いてハイそうですかと言って、そのまま楽しい楽しい学校生活とやらを私が出来ると本気で思ってるの、――学校長?」
学校長「でも――それは」
怯えた表情で口ごもる学校長に私は答える。
クーネリア「もちろん……、姉様は実験体という立場だから、いつかはそうなることを私も知っていた。でも――、貴方達は自らその道を進む姉様の覚悟の邪魔になるから、そう言って私をここに閉じ込めたのよね?」
学校長「……」
クーネリア「私も――、姉様にその決意と覚悟を直接聞いたから、ハッキリ言って気に入らないけど、貴方たちの言う通りおとなしくここにいたのよ――」
――でもね。
クーネリア「私は姉様の覚悟を聞いた時――、その時に決めていたの! 姉様が魔王軍に立ち向かう――、その時になったら、私はどんな障害も乗り越えて、必ずその覚悟を守るために馳せ参じると!!」
――そう、そのためにこそ、私は死ぬ思いで徹底的に自らの剣術を磨き上げてきた。もはやこの士官学校に私を越える剣術の使い手はおらず、その鍛錬の果てに得た剣術を振るうべき時はとうとうやってきたのだ。だから――。
クーネリア「貴方への義理はすでに果たしたわ――。私は姉様のもとへと帰還し――、その行く先を塞ぐあらゆる困難を切り開く、その身に降りかかるであろう全てを斬り伏せる、姉様の剣になるために王都に向かう――」
学校長「しかし――、貴方のお父様は――」
クーネリア「知ったことか!!」
私はそう吐き捨てる。
クーネリア「母様に浮気されて? その結果が私? ――だからなんなの? そんな事はどうでもいいわ」
学校長「……」
もちろん父様の思いを本当の意味で理解することは困難であり――、その悲しみも理解できる部分はある。しかし――、
でも――、今も、幼い私をいつも嫌な視線から守ってくれていた姉様の姿を私は覚えている。
クーネリア「何事にも優先順位はあるわ――、悪いけど、貴方たちの事情は、姉様への誓いよりも優先順位が下なのよ。理解しなさい――」
学校長「く……」
その言葉に苦渋に顔を歪める学校長。いつの間にか士官学校のみんなが私の周囲に集まってきていた。
生徒「……やっぱり、こうなった(ヒソヒソ)」
生徒「初めから無理なのよ……、母親が浮気したその汚れた血だし(ヒソヒソ)」
私は――、私の周囲にあって、私に向かって嫌な視線を向ける全員を睨みつけた。その視線を受けてすべからく怯えた表情を浮かべる。
学校長「……く、力づくで……」
クーネリア「出来るの? 貴方に――」
私は無言で腰の両刃長剣に触れた。――学校長は怯えた表情を私に向ける。
その様子を見て――、静かに剣に触れた手を離して私は言う。
クーネリア「……学校長――。今までありがとうございます。思惑があるとはいえ――、私を色々な事から守ってくれたのは事実ですから」
学校長「……」
クーネリア「だから……、このまま静かに私の行く先を塞がないでください。貴方を――、切りたくはありません」
学校長は静かにため息を付いて――、そして行く手を塞ぐその身を退けた。
クーネリア「ありがとうございます学校長! お世話になりました!」
そう言って私は学校長に深く頭を下げた。それをため息混じりで学校長は見つめた。
――そして、私は数々の思惑によって隔離された場である、その士官学校を去ることになった。
私はそのまま王都への道を急いで――、そして、私もまた姉様とともに運命の出会いを経験するのである。
◆◇◆
●アンネミリア・リト・ヴァンドレイク/年齢:16歳/性別:女性
★クラス:試作調整加護Lv37
★能力値:
【腕力/STR】才能値:1.7/基本能力値:9/最終能力値:39
【器用さ/DEX】才能値:2.3/基本能力値:15/最終能力値:56
【素早さ/AGI】才能値:2/基本能力値:14/最終能力値:64
【魔力/MAG】才能値:3.3/基本能力値:23/最終能力値:201
【知恵/INT】才能値:2.7/基本能力値:18/最終能力値:163
【精神/WIL】才能値:2.5/基本能力値:16/最終能力値:151
【耐久/CON】才能値:1.2/基本能力値:8/最終能力値:38
★クラススキル:管理者権限・偽(星神魔法の一部制御)
★パーソナルスキル(個人技術):星神魔法(王国研究室の試作版)
★装備:魔糸のボディースーツ(魔力を込めた糸によって編まれているぴっちりスーツ)
★解説:
十年前に星神魔法への適性を見出され、そのまま実験体として生きている国王の実子である娘。
母親を死なせるような事をした国王をそれでも父親として慕い、避けられている事実を知りながらその助けとなるべく実験を受けている。
再び父親の笑顔を見ることが夢であり、実験体としての今を生きる意味である。
星神魔法の制御を完全なものとするべく、心を抑えて感情を出さないよう務めているが――。そんな時に勇者と運命の出会いを迎える。
●クーネリア・リト・ヴァンドレイク/年齢:15歳/性別:女性
★クラス:剣士Lv52
★能力値:
【腕力/STR】:才能値:2.2/基本能力値:16/最終能力値:161
【器用さ/DEX】:才能値:2/基本能力値:15/最終能力値:147
【素早さ/AGI】:才能値:2.5/基本能力値:17/最終能力値:208
【魔力/MAG】:才能値:1.8/基本能力値:13/最終能力値:58
【知恵/INT】:才能値:1/基本能力値:5/最終能力値:30
【精神/WIL】:才能値:1.3/基本能力値:8/最終能力値:54
【耐久/CON】:才能値:2/基本能力値:14/最終能力値:167
★クラススキル:負傷耐性、高位戦闘(刀剣)
★パーソナルスキル(個人技術):ヴァンドレイク王国騎士剣術
★装備:片手半両刃長剣(バスタードソード。王国軍剣士正規装備)、魔糸の布鎧(魔力を込めた糸によって編まれている一般的な防御服)、ヴァンドレイク王国製複合装甲鎧|(金属と皮を組み合わせた鎧)
★解説:
ヴァンドレイク王国の怒れる妹姫。当時は魔剣士ではなく普通の剣士である。
その生まれが原因で様々な弊害を王家にもたらしたことに、心の奥で悩み苦しんでいるが、それ以上に姉様のことが心配で、その行く先を守るためにまさに死に物狂いで剣術を習ってきた。それ故に、年齢に見合わないほどクラスLvが高い。
かなりきつい性格で意志が強い少女に見える――、が、実際は脆い部分がある普通の少女である。
その心の支えこそが姉様であるアンネミリアであり、それに悪しき目を向ける者たち――、父親である国王を含めた星神魔法実験の関係者達へ最大の怒りを向けている。
そして、彼女を守るべく王都に帰還し、勇者と運命の出会いを迎える。
王国使用人「……やっぱりそうだよね――」
王国使用人「ええ……、あの髪の色、瞳の色は王様のものではないわけだし……」
私が幼い故に、理解できていないと踏んだのか、あからさまな声音で私の前で話し合う使用人たち。
――でも、私は使用人たちが纏う嫌な雰囲気を敏感に感じ取っていた。だから、同じく何かを感じ取って顔を泣き顔に歪めつつある愛する妹を一所懸命にあやしていた。
王国使用人「……国王様は――、あの日から王妃様と直接のお話はしていないのよね?」
王国使用人「ええ……、その顔を見るのは辛いとおっしゃっているそうよ」
そう――、いつも仲睦まじく、私の良き両親であった父様と母様――。でも今は何故かお互い顔を合わせずに――、顔を合わせても私にとって何よりも嫌な雰囲気の会話が始まるだけで……。
アンネミリア(――お父様……。お母様――)
私が二歳になり、ある程度世界を知るようになって――、初めて経験したことが両親の仲の明確な決裂であった。
無論、その当時の私は、何が問題であるのか深い理解は出来ていなかったが――、その原因が新しく出来た妹・クーネリアにあることは理解できた。
ならば――、この両親の仲を裂いた原因である妹を……。
――そんな事は私には出来ない。生まれた瞬間を見て――、その幼い産声を聞いて――、何よりも嬉しかったその誕生の記憶。
この子は――、誰がなんと言おうと私の大切な妹なのだから。
それからしばらく後――、必死に不義を行ったという疑惑を否定する母様を、父様は王都から離れた別宅へと追いやった。
母様はそこで心を病んだ後に流行り病にかかって――、最後まで無実を訴えながらもその生涯を閉じた。
そして、私は――、私がある程度成長すると、父様は明確に私を避け――、そして存在しないものとして扱うようになった。
――その原因は、まさに――、私が何より母にそっくりであったこと――であった。
――そして、私の運命は決定づけられる。
今から十年前――、魔王軍との争いが激化しつつあり、その対抗策として【星神魔法】を扱える術者の育成を研究し初めた時、――その実験体として私は選ばれ、人々から隔離された生活を余儀なくされた。それは、もちろん適合者が国内で私しかいなかったからではあるが――、父様はなにより私の姿を日常で見ないで済むことに安堵しているようであった。
◆◇◆
月夜の下で村落を徘徊する者たちがいる。それは人ではない魔物であり――、先程まで村落に住む人々を殺害して回っていた魔王軍の兵であった。
村落を徘徊し周囲を警戒するそれらの目前に、突如として輝く光の球体は現れる。驚く魔物たちの前で輝く球体は人の形を取り始める。
???「――精霊門の機能は異常なし。でも――、村落外から内部への短距離しか未だ機能せず。それ以上だと――」
魔物「貴様?!」
???「目標を確認。対応を開始」
私は淡々と言葉を紡ぎ――、そして、空中に無数の輝くナイフを召喚する。それは一つ一つが殺傷という概念を形にしたモノであり――。
???「目標、村落を制圧中の全魔物――。魔力短剣全目標ロックオン」
次の瞬間、輝く無数の短剣が村落の空へと放たれる。それらは的確に、村落を徘徊する全ての魔物へと向かい――、その生命のほぼすべてを奪った。
???「目標――、生き残ったのは二割……か。やっぱり威力が圧倒的に足りない――。これでは本格的な戦闘には役にたたないわね」
生き残った魔物が逃亡を図り――闇の向こうに消えてゆくのが見える。あの連中は、おそらく展開中の補助隊が殲滅するはずだ。
そうして、汗をかいて息を荒くする私の前に黒衣の集団が現れる。それらは私の姿を認めると声をかけてきた。
黒衣「ふむ――、今回の実用試験は、目指す目標に対して及第点の評価ではあるな。まあ――、数回の星神魔法の制御だけで、ここまで疲労するのは困った話ではあるが――」
???「申し訳ありません」
黒衣「いいえ……、このまま制御が上達すれば、なんとか魔王軍への牽制役程度にはなれるでしょう」
???「……」
私はその黒衣の言葉が、明らかな皮肉であることを理解している。私はその程度の役割ために力を得たのではない。
――何より対魔王の切り札として――、決戦兵器となるべく実験を受けているのだ。
黒衣「実験体……、いえ、アンネミリア様――。今宵の実験はここまでに致しましょうか?」
アンネミリア「……はい」
私はただ静かに黒衣に気づかれないよう唇を噛む。――このままでは父様の役には立てない。
アンネミリア(――父様……)
あれから父様は――、全てを振り切るように魔王軍との戦いを進めてきた。その心の中に宿る苦しみはどれほどのものであろうか?
――あの日から一度も浮かべなくなった笑顔を思い出しながら、ただ父の役に立ちたい――、それだけのために私は今日も生きている。
――と、不意に私の前に一人の見知らぬ男が現れた。
旅の剣士「……?」
魔術師の男?「勇者様? ……あ、いえロー様!!」
アンネミリア(勇者……様?)
それは、背中や腰に数本の長剣を携え――、さらにはそれ以上の数の短剣を装備した、ハリネズミのごとき有り様の剣士であった。
その男は一瞬、隣りにいる魔術師に苦笑いを向けると、すぐに私に向かって目を向けて笑った。
ロー「君は――、なんて言うか見たことのない魔法を使うんだね」
カーネル「そうですね……、確かにあんなのは見たことが――」
――と、黒衣の集団がその旅人たちを取り囲むように動く。そして声を発した。
黒衣「魔王軍……ではないようだが。実験を見られた以上、放置することはできん」
カーネル「うえ? ちょっと?」
ロー「……」
旅の剣士は黙って黒衣の集団を見つめている。黒衣の集団は一斉に魔法を唱え始め――。
アンネミリア「――!」
次の瞬間にはその剣士の放つ拳によって、その全員が地面に転がっていた。
私は――、全く動けなかった。眼の前の男は、明らかに人の規格を越える動きをしていた。
アンネミリア「貴方は――」
ロー「悪い……、こうなるなら出てこずに隠れて去るべきだった。もちろん君に手を出す気はない」
アンネミリア「――まさか貴方は……」
ロー「……ん?」
その時にやっと私は理解した。先ほど彼が呼ばれた名称。
アンネミリア「貴方は――、勇者様?」
その私の言葉に、彼は少し困った様子で笑って。そして、小さくハッキリと頷いたのである。
――これが私と勇者様が初めて出会った瞬間――。
ここから――、私の本当の人生が始まった。
◆◇◆
姉様がそのひとと邂逅する、その数日前――。
私はその時、旅支度を整えて――、私、クーネリア・リト・ヴァンドレイクの牢獄でもある士官学校の正門をくぐる。
その姿を認めて追いかけてきた学校長が私の前に走ってきてその行く手を塞いだ。
クーネリア「どきなさい……」
学校長「いや……、それは出来ません!」
クーネリア「貴方の首が危ういから?」
学校長「……」
私は絶対零度の視線を眼の前の学校長に向ける。学校長は苦渋に顔を歪めつつ答える。
学校長「どうか……、王都へ戻るのはおやめください――。そうしないと私は……」
クーネリア「は……、何度も聞いたわ――。貴方も、家族の生活を守るために大変ねぇ。でも――」
私は最早慈悲もなく眼の前の学校長を睨んで言った。
クーネリア「……だからって、貴方に私の人生の進む先を塞ぐ権利がどこにあるの? 今まで貴方の言う通り我慢はした――、貴方のためではなく、こういった事に無関係な貴方の家族のためにこそ――」
学校長「クーネリア様……」
クーネリアは最大の怒りを持って学校長を見下ろす。
クーネリア「でも――、姉様を前線で戦わせている、その事を聞いてハイそうですかと言って、そのまま楽しい楽しい学校生活とやらを私が出来ると本気で思ってるの、――学校長?」
学校長「でも――それは」
怯えた表情で口ごもる学校長に私は答える。
クーネリア「もちろん……、姉様は実験体という立場だから、いつかはそうなることを私も知っていた。でも――、貴方達は自らその道を進む姉様の覚悟の邪魔になるから、そう言って私をここに閉じ込めたのよね?」
学校長「……」
クーネリア「私も――、姉様にその決意と覚悟を直接聞いたから、ハッキリ言って気に入らないけど、貴方たちの言う通りおとなしくここにいたのよ――」
――でもね。
クーネリア「私は姉様の覚悟を聞いた時――、その時に決めていたの! 姉様が魔王軍に立ち向かう――、その時になったら、私はどんな障害も乗り越えて、必ずその覚悟を守るために馳せ参じると!!」
――そう、そのためにこそ、私は死ぬ思いで徹底的に自らの剣術を磨き上げてきた。もはやこの士官学校に私を越える剣術の使い手はおらず、その鍛錬の果てに得た剣術を振るうべき時はとうとうやってきたのだ。だから――。
クーネリア「貴方への義理はすでに果たしたわ――。私は姉様のもとへと帰還し――、その行く先を塞ぐあらゆる困難を切り開く、その身に降りかかるであろう全てを斬り伏せる、姉様の剣になるために王都に向かう――」
学校長「しかし――、貴方のお父様は――」
クーネリア「知ったことか!!」
私はそう吐き捨てる。
クーネリア「母様に浮気されて? その結果が私? ――だからなんなの? そんな事はどうでもいいわ」
学校長「……」
もちろん父様の思いを本当の意味で理解することは困難であり――、その悲しみも理解できる部分はある。しかし――、
でも――、今も、幼い私をいつも嫌な視線から守ってくれていた姉様の姿を私は覚えている。
クーネリア「何事にも優先順位はあるわ――、悪いけど、貴方たちの事情は、姉様への誓いよりも優先順位が下なのよ。理解しなさい――」
学校長「く……」
その言葉に苦渋に顔を歪める学校長。いつの間にか士官学校のみんなが私の周囲に集まってきていた。
生徒「……やっぱり、こうなった(ヒソヒソ)」
生徒「初めから無理なのよ……、母親が浮気したその汚れた血だし(ヒソヒソ)」
私は――、私の周囲にあって、私に向かって嫌な視線を向ける全員を睨みつけた。その視線を受けてすべからく怯えた表情を浮かべる。
学校長「……く、力づくで……」
クーネリア「出来るの? 貴方に――」
私は無言で腰の両刃長剣に触れた。――学校長は怯えた表情を私に向ける。
その様子を見て――、静かに剣に触れた手を離して私は言う。
クーネリア「……学校長――。今までありがとうございます。思惑があるとはいえ――、私を色々な事から守ってくれたのは事実ですから」
学校長「……」
クーネリア「だから……、このまま静かに私の行く先を塞がないでください。貴方を――、切りたくはありません」
学校長は静かにため息を付いて――、そして行く手を塞ぐその身を退けた。
クーネリア「ありがとうございます学校長! お世話になりました!」
そう言って私は学校長に深く頭を下げた。それをため息混じりで学校長は見つめた。
――そして、私は数々の思惑によって隔離された場である、その士官学校を去ることになった。
私はそのまま王都への道を急いで――、そして、私もまた姉様とともに運命の出会いを経験するのである。
◆◇◆
●アンネミリア・リト・ヴァンドレイク/年齢:16歳/性別:女性
★クラス:試作調整加護Lv37
★能力値:
【腕力/STR】才能値:1.7/基本能力値:9/最終能力値:39
【器用さ/DEX】才能値:2.3/基本能力値:15/最終能力値:56
【素早さ/AGI】才能値:2/基本能力値:14/最終能力値:64
【魔力/MAG】才能値:3.3/基本能力値:23/最終能力値:201
【知恵/INT】才能値:2.7/基本能力値:18/最終能力値:163
【精神/WIL】才能値:2.5/基本能力値:16/最終能力値:151
【耐久/CON】才能値:1.2/基本能力値:8/最終能力値:38
★クラススキル:管理者権限・偽(星神魔法の一部制御)
★パーソナルスキル(個人技術):星神魔法(王国研究室の試作版)
★装備:魔糸のボディースーツ(魔力を込めた糸によって編まれているぴっちりスーツ)
★解説:
十年前に星神魔法への適性を見出され、そのまま実験体として生きている国王の実子である娘。
母親を死なせるような事をした国王をそれでも父親として慕い、避けられている事実を知りながらその助けとなるべく実験を受けている。
再び父親の笑顔を見ることが夢であり、実験体としての今を生きる意味である。
星神魔法の制御を完全なものとするべく、心を抑えて感情を出さないよう務めているが――。そんな時に勇者と運命の出会いを迎える。
●クーネリア・リト・ヴァンドレイク/年齢:15歳/性別:女性
★クラス:剣士Lv52
★能力値:
【腕力/STR】:才能値:2.2/基本能力値:16/最終能力値:161
【器用さ/DEX】:才能値:2/基本能力値:15/最終能力値:147
【素早さ/AGI】:才能値:2.5/基本能力値:17/最終能力値:208
【魔力/MAG】:才能値:1.8/基本能力値:13/最終能力値:58
【知恵/INT】:才能値:1/基本能力値:5/最終能力値:30
【精神/WIL】:才能値:1.3/基本能力値:8/最終能力値:54
【耐久/CON】:才能値:2/基本能力値:14/最終能力値:167
★クラススキル:負傷耐性、高位戦闘(刀剣)
★パーソナルスキル(個人技術):ヴァンドレイク王国騎士剣術
★装備:片手半両刃長剣(バスタードソード。王国軍剣士正規装備)、魔糸の布鎧(魔力を込めた糸によって編まれている一般的な防御服)、ヴァンドレイク王国製複合装甲鎧|(金属と皮を組み合わせた鎧)
★解説:
ヴァンドレイク王国の怒れる妹姫。当時は魔剣士ではなく普通の剣士である。
その生まれが原因で様々な弊害を王家にもたらしたことに、心の奥で悩み苦しんでいるが、それ以上に姉様のことが心配で、その行く先を守るためにまさに死に物狂いで剣術を習ってきた。それ故に、年齢に見合わないほどクラスLvが高い。
かなりきつい性格で意志が強い少女に見える――、が、実際は脆い部分がある普通の少女である。
その心の支えこそが姉様であるアンネミリアであり、それに悪しき目を向ける者たち――、父親である国王を含めた星神魔法実験の関係者達へ最大の怒りを向けている。
そして、彼女を守るべく王都に帰還し、勇者と運命の出会いを迎える。
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