隠遁勇者の魔界再生~英雄譚のその先で……~

武無由乃

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ヴァンドレイク王国編

第十話 王都へ至る道

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カーネル「では! 勇者様! 解説いたしましょう!!」
ロー「……さっきまでとは違って元気だなお前――。それと……、まだはやめろ」

 街道を近郊の村であるレアードに向かって俺が、カーネルをそう言ってジト目で睨む。カーネルは苦笑いしながら答えた。

カーネル「いや……、すみません、ロー様。なんというか魔物や魔族にはつらい経験しかなくって……」
ロー「はあ……、まあいいさ。で?」
カーネル「ふむ……、では改めて――。魔物と魔族の違いとはなんぞや? という問いに対する答えは!」

 大げさに身振りを加えつつ解説を始めるカーネル。俺は小さくため息を付いてからその話に耳を傾けた。

カーネル「今までロー様は魔族とも、魔物とも戦ってきましたよね?」
ロー「ああ……、まあな」
カーネル「では……、その脅威を示す時に、両者に明確な違いがあるのをご存知ですね?」
ロー「む……?」

 俺は――、実のところ、そういった脅威の差を示す用語みたいなのを知らなかった。
 その様子にカーネルは少し眉を寄せて首を傾げる。

カーネル「知らない? 戦いでそういった事を特には気にしない……と?」
ロー「まあ……、そういえば考えたことはない」
カーネル「なるほど……、ロー様はそういった事を考えずとも、どうとでもなる実力者ですしね。でも……多分、他人から敵の強さを示された事はあるはずですが……」
ロー「それって……、【あの敵はLvなになに】とか言う話だろ? それが……」

 カーネルは頷いて俺に答えを返す。

カーネル「そうです……、その時に魔族と魔物では、言い方に微妙な違いがあるのです。例えば魔族であるなら【戦闘魔族、クラスLvなになにである魔族】、魔物であるなら【Lvなになにクラスの魔物】と……」
ロー「あ……、そういえば」
カーネル「結論から申しますと……、魔族は祖先として人類と同種の存在をもついわば【亜人間】です。――それ故に人間と全く同じルールの【クラス】システムの恩恵を受けています」
ロー「じゃあ魔物って……」
カーネル「はい……、彼らは1種族に対し1種の加護が原則です。それも、肉体の成長、そして精神的な老成によって自動的にクラスLv的な能力上昇が行われる」

 カーネルは真面目な表情で語る。
 【魔物】とは基本的に肉体・精神双方の成長によってLvが上がっていく存在であり、同種族の同年代であれば全く同じLvの【星神加護】であるのだという。
 そして、魔物の種族間の【星神加護】の強さの差は、それぞれの種と魂の強さに直結しており、それゆえに魔物に対しては【Lvいくつくらいの強さの魔物】と種族全体を一括りにして語るのだ――と。例えば【魔狼】であればその種としてのLv、【翼竜】ならばその種としてのLv、で強さが示されるのだ。

カーネル「そのうえで……、魔物は、たとえ知性を持っていても、我らのような複数種の【クラス】を持っておらず、経験で特別に上昇させるすべも有りません。人と同じ会話はできても【人ではない】のです。――無論、彼らを差別するという意味ではなく、種としての区別のお話ですが……」
ロー「あー、道理で魔物は、同一種族で部隊を組まれてることが多いと思ったら……」
カーネル「ええ……、種族としてLvに違いがあるわけですし、同じくらいの強さごとにまとめて運用するほうが、部隊運用の際の無駄がないからですね」
ロー「ってことは人類圏の動物も?」
カーネル「はい……、当然、魔物と同じような示し方をしますよね?」

 俺は納得して頷いた。流石はカーネル、戦闘では全く役に立ったことがないが、こういった知識をひけらかすことに関しては右に出るものはいまい。
 俺が感心したようすでカーネルを見つめていると、すこし心配そうな表情で俺に向かって言った。

カーネル「……話は変わりますが、時にロー様」
ロー「ん?」
カーネル「自分が勇者である事を名乗るつもりはまだないのですか?」
ロー「む……」

 自分の言葉に真剣な表情で黙り込んだ俺に、少し苦笑いを向けつつカーネルは言った。

カーネル「今までに語られてきた勇者伝説は無論ご存知ですよね?」
ロー「ああ……、色々調べたし……な」
カーネル「では……ご理解いただけていると思いますが。勇者の出現は――【世界の正常化の兆し】そのものです」

 これまでの数々の勇者伝説において、【勇者】の出現とはそれが対処すべき【世界の脅威】の出現とほぼ同時である。そして、そういった【世界の脅威】はすべからく――、たった一つの例外を除いて【勇者】によって排除されている。
 すなわち、そのものが、現在起こっている問題はであると示されることにほかならず、現在起こっている魔王軍との人魔戦争に関連して【勇者】が出現した事が示されれば、それだけでその問題が【世界の脅威】であり【勇者】によって排除されるであろう未来を示すことになるのだ。
 それによって人類圏に対して、どれほどの勇気と希望を与えるかは計り知れない。

ロー「……」

 その事は俺自身わかってはいる……。俺が勇者だと名乗り出れば――、それだけで人々は希望を得る事ができるのだ。――だが。

ロー(……俺は、イマイチ自分に自身が持てない――。人より強い力を持ってるのは自分でもわかるけど、強さというものがそれだけで決まらないことも知っている。なにより――)

 ――、そんな漠然とした不安が理由もわからず心にしこりとして存在している。

ロー(でも……、もう決断しなければならない――)

 今まで旅をしてきて多くの人々の出会った。そして、それらの人々が希望も見えない闇で苦しみ悲しんでいる姿も見た。
 俺が自分の存在を示すだけで、少しでも彼らに希望を与えられるのであれば――、俺の心の中のしこりなんぞどうでもいい話だ。

ロー「カーネル……、もしかしたら、そのためにこそヴァンドレイク王国に帰ってきたのかもしれん」
カーネル「それは? 一体……」
ロー「何か予感がするんだ……、この国で――、そして今から向かう王都で――、俺が乗り越えるべき試練と、そして進むべき道が示される――、そんな予感が」

 カーネルはその言葉を聞いて満足そうに頷く。

カーネル「そうですか……。ならば私はその歴史的瞬間をこの眼で見届けようと思います。よろしいですか?」
ロー「ああ……、構わないさ」

 そう言って笑う俺に、カーネルは心底嬉しそうな笑顔を向けるのだった。


◆◇◆


※ 以下、勇者伝説に関する解説。

●はじめに:
 以下は、クラス【勇者】に目覚めた主人公が、それをよく知るために古文書を読み漁って得た知識である。
 それらは、必ずしも世界の真実を示すものではないが、後の物語を予想するうえで重要であると考えてここに解説を入れる。

●勇者と魔王:
 昔から、様々なパターンの話が残っている代表的勇者伝説。
 狂気じみた【絶対悪】が出現し、その後【勇者】クラスに目覚めるものが現れて、その【絶対悪】を討伐すると言った内容である(この二の人物は常にセットで語られる)。
 とりあえず【魔王】ではない【絶対悪】も存在するが、便宜上わかりやすく【勇者と魔王】としておく。
 その真実は、【星神システム】のクラスに関する【バグ】によって引き起こされる悲劇であり、そういった状況を修正する機能こそ【勇者】の出現であった。
 その勇者伝説に関して、逆説的に言えば、【勇者の出現】イコール対応する【絶対悪】の出現となり、非道な暴君や独裁者が出現した際は【勇者】の出現を予想して、積極的に探すようなことも行われる。そのため、クラス【勇者】に目覚めている者は、自ら積極的に名乗り出ることが求められている。


★【幻魔】に影響を受けた勇者伝説:
 星神世界の全貌は未だ解明されてはいないが、この世界の一般的な学説においては、世界は現実世界のような【惑星】に存在する世界ではなく、無の混沌内に水泡のようにある空間に、海と大陸が存在するという【平面世界】であると解釈されている。その空間内には【魔力】が満たされ流れを作っており、それがこの世界の【人間】に対し様々な影響を与え、魔法などの文明の基盤になっていると考えられている。いわゆる【魔族】と呼ばれる存在も、起源において【人間】と祖先を同じくしており、それ故に両者間に子孫を残すことが可能なのである。
 いわゆる【惑星】ではない証拠として、地殻変動が存在しないという点があげられる。地殻変動がないので、当然そういったものを起源とする災害類はない、――かと思えば、魔力域異常という現象によって、似た事象である【天災】が発生する事がある。こういった魔力域異常による魔源の異常活性は、そこに住む生命の恐怖と呼応して実体を持つ幻想である【幻魔】と呼ばれる存在を生み出す。この【幻魔】とは、明確にあらゆるものを滅ぼす意志を持つモンスターであり、魔力域異常が収まって魔源が安定化すればすぐさま消滅する類の、生きた魔物を模した――生命を真似た【災害】である。
 こういった【幻魔】は、近年の人類圏ではほぼ観測されない存在である(それ故に一般人の中には存在自体知らない者もいる)。要はそういった地震や洪水といった【天災】が、魔法によって積極的に起こさない限り、ほぼ発生しないからである(人類圏では過去の【天災】を教訓に、そういった魔力域異常を整える職業が成立しており、異常が起こる前に調整されると言ったほうが正しい)。更にいえば魔法による擬似的な【天災】では【幻魔】は出現しえず、現状、唯一【幻魔】が出現しうるのが、魔王による悪影響があった【魔界】と呼称される一部の地方のみとなっている。
 一般的な【幻魔】は、単体で【上級階位(=ハイランク)】半ばぐらいの力を有する。そして、稀に出現する【大幻魔】は【至上階位(=エルダーランク)】上位の力を有する。創作とされる伝説上では、ここにさらに上位種である二種が追加されることとなる。なおそのクラスの【幻魔】は一度出現すると、魔源が安定化しても消滅しないとされており、こういった類に対抗するために出現するのも【勇者】であると伝説に語られている。

●勇者と滅びの獣:
 一部地方にのみ限定的に残る勇者伝説。
 天変地異とともに出現した【超巨大幻魔】による世界の破滅を、後に出現した【勇者】が、人間、魔族、の区別なく導いて力を結集し、多くの犠牲を経て解決すると言った内容であり、一般には創作の物語であるとみなされている。
 この世に【幻魔】と呼ばれる脅威があるからこそ、こういった世界を滅ぼせるクラスの【幻魔】がいつか出現するかも知れない、――そういった恐怖が元で生まれた物語であると思われる。

●勇者と終末の竜神:
 世界にいくつもある勇者伝説の中で、唯一明確に【勇者が敗北した】とされる勇者伝説。【滅びの獣】と同じく、こちらも創作の物語であると考えられている。
 こちらも【幻魔】の脅威から派生したらしき勇者伝説であり、明確なバッドエンドとしても知られている。
 その内容は、天変地異によって【超巨大幻魔】が出現するところは【滅びの獣】とほぼ同じであるが、その姿が【竜】でありその絶対的な力によって、勇者に導かれた、人間、魔族、全勢力の大軍団があっさり敗北し、勇者が自分自身の生命と多くの人々の犠牲をもって発動した、【異界追放の大魔法】によって【竜】を無限異界へと封印するといった展開である。
 そして、この物語の最後には、もし人類が悪しき心に染まり滅びるべき存在へと堕落した時、無限異界の【竜】は再び世界に戻って来て、世界に終末を呼ぶであろう――、という言葉でしめられている。この伝説に登場する【竜】を指して【終末の竜神】と呼称している。
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