桃華の戦機~トウカノセンキ~

武無由乃

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西暦2088年

そして桃華の戦機~ソシテモモカノセンキ~

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西暦2088年8月21日未明――。
テロ組織”赤い血潮の輪の結社”に強奪された護衛揚陸艦”ショウホウ”は、日本海上国防軍の護衛艦による追跡を受けることとなった。
国防軍護衛艦のその動きは素早く、逃げきれないと感じたテロリストたちは、護衛揚陸艦”ショウホウ”を捨てて海へと姿を消した。
その一味の中には、鷲見一等陸佐と桜華の名前もあって――。

結局、この事件は、そもそも極秘任務による運用であったことも手伝って、世間の目に触れることはなかった。
関わった多くの人間にも緘口令が敷かれ、それ自体が存在しない事件となった。
無論、この事件では多くの人間が犠牲になっている。
特に、研究施設の研究者たちは、一部偶然生き残れた者を除いて、その全員がテロリストの手先によって殺害されていた。
そういった実行部隊は、何者かによる情報リークによって動いていた、陸上国防軍の特殊部隊によってすべて制圧されていたが。
特殊部隊の強硬突撃の際に、全員が全員”無理な抵抗”を行ったとして射殺され、一人として生き残ることはなく、彼らから情報をとることも出来なくなっていた。

その後、日本政府は極秘の計画が表に漏れたことを理解して、あわただしい動きをしていたが――。
結局、とうのテロ組織”赤い血潮の輪の結社”からの動きが全くなかったこともあって、事件を穏便に収束させる方向へと動き始めた。
”桜華”という重要な人物を手に入れてなお、動きを見せない”赤い血潮の輪の結社”の不思議な行動は、その背後にいる”日本政府と繋がっている”何者かの存在を予感させた。

そして、西暦2088年9月16日――。
その日、藤原俊夫はギガフロートⅤにその身を置き、その総監部の主である小笠原おがさわら 弓嗣ゆみつぐと面会を行っていた。

「いやあ、トシ――。本当に無事でよかったね」

「まあ――、いろいろ無事では済まない事態にはなってしまっていますが」

温和そうな笑顔を向ける小笠原に、藤原は苦笑いで答えた。

「結局、先月の件は世間には公開されていないようですね」

「うん、その事件で亡くなった方々も、病死や事故死で処理されているみたいだね」

「政府は――国防軍は、あんな事をなかったことにするつもりなんですか?
元をただせば、あんな非道な実験を行っていた、政府の責任でしょうに」

「まあ、そうなんだけどね……」

結局、一部の人間に公開されている事件の詳細では、自分の境遇を悲観した”桜華”が、管理官である”鷲見一等陸佐”と結託して”赤き血潮の輪の結社”と繋がり、その戦力を持って自身を実験動物としていた研究員たちに復讐をしようと企んだ――、という事であるとされている。
管理官である鷲見は、実際のところ裏切ってはいないのだが、そのことは一部の人間以外は知ることのない事実である。
結局、この事件がきっかけで月初めに、人造人間の研究実験は停止され、その実験体であった少年少女たちは、里親をあてがわれて普通の子供としての人生を歩むことになった。
無論、それは桃華も例外ではなく――。

「桃華という娘さんは、政府が選んだ里親を拒否し続けてるみたいですね……」

「今は仮に、事件の唯一の生き残りである葛城さんの実家にお世話になっているみたいですが……。
葛城さんから聞いた話――、いまだに塞ぎ込んで、部屋から一歩も出ない日々が続いているようで」

「――うむ、その事なんですが」

不意に小笠原が神妙な顔つきで藤原を見つめる。

「先日、やっと葛城さんと会話をしたようで――、
ある提案を政府に向かってしてきているようなんだな」

「提案?」

「まあ――、どっちかというと脅迫に近いかもしれませんが――」

その後の小笠原の言葉を聞いた藤原は、もう居ても立ってもいられなくなった。
そして、藤原は三度、桃華に会う決意をしたのである。


◆◇◆


香川県某所――。
藤原は、小笠原との面会を終えてすぐに、葛城の実家へと足を運んでいた。
小笠原から聞いた”脅迫”の内容を、桃華自身に問いただす為である。

「どうも、しばらくぶりです葛城さん。
その後、お怪我の方はいかがです?」

「よくおいでになりました藤原さん。
怪我の方は――、結局は自業自得、私の行いの報いが返って来ただけで――。
――まあ、その話はやめましょう」

葛城はかすかに笑ってそう言った。

「――それでモモは?」

「しばらく前に一度会話したっきりで、また部屋で塞ぎ込んでいますよ」

「――俺が、彼女と話すことは?」

「多分、無理でしょう――。僕とも僕の家族とも、全く話をしませんし――」

藤原は、その事を聞いてもなお、決意の表情で葛城に向かって言う。

「俺に、彼女と話す機会をください――。少なくとも俺は絶対に話したいです」

「そうですか――」

葛城は、藤原の目に宿る意志の固さを感じ取って、頭を縦に振った。
そのまま彼は、藤原を伴って実家の一室にある、桃華の部屋へと向かったのである。
その部屋は、家の奥まった場所にあって、人の気配すら感じられず静まり返っていた。

「モモ――」

藤原は、部屋の扉に向かって声をかける。――返事はない。

「モモ――、俺だ藤原俊夫だ――」

その言葉を発したとき、部屋の中でガタリと何かの音が響いた。
その反応を聞いて、桃華の気配を感じ取った藤原は意を決して、例の話を切り出した。

「モモ――君の提案は、政府は拒否をするそうだよ」

「――」

「脅迫まがいの提案は飲まない――、だそうだ」

その言葉を発したとき、部屋の中の何かが大きく音を立てた。

「――」

「モモ――」

「そんなことを言いに来たの? ”おじさん”――」

やっと部屋の中から桃華の声が聞こえた。それに安堵の気持ちを得た藤原はさらに続けた。

「それだけじゃないさ。そもそも、俺は君が心配でここに――」

「あなたの心配なんていらない――。”おじさん”に何がわかるっていうの?」

「俺は――、モモ、君を政府の横暴から守りたいんだ――」

「――ふ」

不意に部屋の中から大きな笑い声が上がる。

「馬鹿じゃないの?! あたしを守りたい?
あたしで対処できない状況で、凡人のあんたに何ができるの?!
――あんたごときに、何が守れるっていうのよ!!」

「モモ――」

「田中さんも――みんなも死んじゃったのよ?!
あんたは守ってくれたの?! ――なんで守ってくれなかったの?!!」

桃華の言葉が胸に突き刺さって心を抉ってくる。
確かに、自分はあの時、逃げる事しかできなくて――。

――でも、

「それでも俺は――、モモを守りたいんだ――」

「私を守る人なんていらない――、私は――」

桃華がそう言いかけた時、不意に藤原の言葉がそれを遮る。

「自分を正式な国防軍人にしてくれって言ったらしいね?」

「――!!」

「たとえ、兵器扱い――、アンドロイドと同じく備品扱いでも構わないから、戦場に立ちたいって――。
それを飲まないなら、自分の存在を世間に公表するって――」

「――」

藤原は素直な気持ちを桃華にぶつけた。

「復讐がしたいのかい? 桜華に――、そして事件のきっかけになったすべての者に――」

「――悪い?」

「正直、僕はモモにはそんな歪んだ人生を送ってほしくない――」

「フン!! 綺麗ごとね!! 何が歪んだ人生よ!!!
もともとからあたしは歪んだ存在じゃない!!!」

「それを、葛城さんの目を見て言えるのかい?」

「――!」

「モモは、一番よく知ってるんじゃないの? 葛城さんの想いを――。
自分は歪んだ存在だって言うってことは、そのまま歪んだ命を生んでしまった葛城さんを批判するってことだ」

「――カツラギ。私は――」

不意に部屋の中からすすり泣く音が聞こえてくる。

「――でも、やっぱり私は歪んだ生き物なんだよ――。
こんなに苦しくて――、こんなにアイツを――
桜華を殺したくて――。最低で歪んだ命で――、
ごめんカツラギ――」

「モモ――」

藤原は心の中から湧き上がる想いを桃華にぶつける。

「モモ――、君が歪んだ生き物だって言うなら俺もだよ――」

「――」

「俺は家族を戦争で亡くして――、だからそんな戦争を引き起こす奴らが、殺してやりたいほど憎くて――。
その癖に、戦争の担い手である軍人なんて仕事をしている――」

「おじさん――」

「もしかして俺は壊れているのかもしれないと思ったこともある。
――でも、それはきっと違うんだ」

藤原は目を瞑ってかつての家族を思い出す。

「最近やっと、思い出せるようになった家族の笑顔――、
それを失ったなら――。
きっと憎むのは当たり前なんだよ――。
きっとそれは、正しい怒りなんだろうから――」

「――」

「俺は、そんなつらい人生をモモには送ってもらいたくない――、
何より自分自身がそうだからこそ――」

「でも――、おじさん」

「うん――、そうだね。
それでも君はその人生を歩みたいんだよね?」

藤原は、部屋の沈黙を肯定と解釈し話を続ける。

「だから――その先に生きるものとして――、
大人として、君を守りたい――」

「おじさん?」

「一緒にいこうモモ――」

藤原は、その手を部屋のノブにかける。

「俺と一緒に戦場に行こう――。
桃華ももか――」

その言葉を聞いたとき、不意に部屋の扉が開く。
その闇の向こうに、泣きはらした少女の顔があった。

「おじさん――。
ありがとう――、そして、酷いこと言ってごめんなさい――」

藤原はのんきそうな笑顔を向けて言う。

「いいよ――。これから僕は、君の復讐の共犯者だ――」

(そして、もしその先に地獄が待つなら――、
モモをソレから、この命を――すべてをかけて守る――)

――それこそが、自分の大人としての義務と信じて。


◆◇◆


西暦2088年11月末――。
日本陸上国防軍に幼い少女が隊員として入隊した。
初め、それは子供を戦場に駆り出す、悪しき行為だと非難の対象になったが、その後の彼女の活躍がその批判を黙らせる結果を生んだ。

――かくして、一人の少女の戦いは始まる。
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