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西暦2092年
争いの序曲~アラソイノジョキョク~
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西暦2092年3月12日、深夜――、東京都にて。
その時、新宿繁華街を周囲の視線を集めながら堂々と歩く大柄の女性がいた。
その女性は、年齢は二十代後半に見えるであろうか?
モデルのように背が高く、その国防軍制服を身に着けていても分かる肉感的なプロポーションは周囲の男たちの視線を釘付けにするほどである。
髪は美しいブロンドで瞳は綺麗なブルーであり、どこから見ても外国の芸能人やモデルに見える。
しかし、そんな見た目に反して流暢な日本語で、側に控えている女性に声を掛けた。
「ねえ、湊音――、いい街だと思わない?」
「そうっすか?」
湊音と呼ばれたその女性はつまらなそうにそう答えた。
「まあ、貴方にとっては嫌な思い出しかないでしょうからね、この国は――。
でも、私にとっては最高の国よ?」
「それは良かったっすね――」
「――フフ、この国は多くが腐っているわ――。
でも、それでも多くの人は純粋で、私にとっては守るべき大切な存在なのよ」
「一部が腐ってたら、そのうちみんな腐るでしょうよ――」
その湊音の言葉に微笑みを強くして女性は答える。
「辛辣だけど事実かもしれないわね――、でもだからこそ、私たちが守るべきなのよ」
その言葉に湊音は顔を歪ませて言う。
「日本人にその価値があるんですかね?」
その嫌悪感を隠さない物言いに、女性は微笑みをさらに強くして返した。
「どんな人間にも価値はあるわよ?
その価値が自分にとってどうでもいいか、或いは大切なものかという違いがあるだけ。
私にとっての外国人と同じよ――」
「あなたは本当に日本人が好きなんですね」
湊音はため息をついてそう言った。それに対し――、
「当然じゃない――。日本人は卑屈だし、騙されやすいし、くだらない性善説を固持しているし、強いものに巻かれる性格をしているし、悪いところをあげればきりがないけど。
それでも、冷静に物事を見ている人間は多いわ。――それを表に出すことが日本人の性格上難しいだけで」
――女性はそう言った。
「――そうなんですかね? 私にはわかりかねますが」
「――まあ、貴方は悪い日本人をあまりにたくさん見てきたから理解できないんでしょうね。
出会い運がなかったのは本当にかわいそうだわ」
それを聞いて湊音は――「運が悪かった――ですか」と不満そうにつぶやいた。
――と、不意にその女性が隣をすれ違う形で歩いていた男の手をつかんだ。
「?!!」
その男は驚いた表情で女性を眺める。
「お仕事ご苦労さんね?」
女性はその男性に対して優し気に微笑みながら呟く。その言葉に男性は顔を青ざめさせた。
それもそのはず、その男性はその手にナイフを持っていたのである。
つい今しがた、すれ違いざまに女性にそのナイフを振るおうとしたところだったのである。
「――こんなところで遊んでいていいのかしら? あなた方は――。
まさか、うちとの二面作戦をするつもりじゃないでしょ?」
女性のその言葉に、男性は訳が分からないという顔をする。それでも女性は話を続ける。
「いくら超大国のRONとはいえ、マニス共和国に侵攻中の現状で日本にまで手を出せばどうなるか理解しているでしょ?
それとも、一部わかっていないおバカさんの手の者かしら?」
「俺は――」
ついに男は首を横に振ってそう言葉を発した。
「ああ――否定しても無駄よ?
貴方の動きがプロだと証明してるし――。
まあこの私を狙ったのは最悪の判断だったわね?」
男はついに顔を歪ませて手を振りほどこうとする。しかし、その女性の手はがっちりと万力のようにつかんで離さない。
仕方なしに、男はもう片手で懐から拳銃を取り出した。――が、
「はい――、大正解みたいね?」
そのまま、片手で男を投げてその場に抑え込む女性。男は銃を取り落としてうめき声をあげた。
「くそ――、ハッタリか?
大西 龍生――」
「そうよ、おバカさん――。
動きがプロだってのは感じたままの事を言っただけだけどね?
あたしを狙ってくるなら、当然RONの関係者だろうって確信はあったし――」
その得意げな言葉に男は心底蔑んだ顔で睨みつける。
「――ち、オカマ風情が調子に乗りやがって」
その言葉に龍生は笑顔を消して言った。
「何? ゲイを馬鹿にしてるの? RONの手先風情が――。
あたしを馬鹿にできるのは唯一あたし自身だけよ――」
――そう、彼女(彼)は正確には女性ではなかった。
そうするうちに騒ぎを聞きつけた警官が走り寄ってくる。
その姿を見た龍生はそれらの警官に手を振ってこたえた。
「来なくていいわ――。こいつの処理はこっちの領分だから」
「しかし――」
警官のその返事に、満面の笑顔を向けて龍生は言う。
「私は日本陸上国防軍・太平洋方面隊・第六師団長、大西《おおにし》 龍生《たつき》・陸将――。
貴方の所属は?」
その笑顔の奥の恐ろしい威圧に、警官は冷や汗をかきつつその場を去っていった。
「――さて」
満面の笑顔をたたえつつ、全く欠片も笑っていない目で、男を見下ろす龍生は冷酷非情に宣告を下す。
「私ってば――、拷問が得意なのよ?
貴方の背後を色々しゃべってもらうわ――」
「ひ――」
その、奥の見えない闇をたたえた瞳に、男はついに後悔の満ちた悲鳴を上げた。
それを傍から眺める湊音は、頭を掻きつつ苦笑いをしたのである。
◆◇◆
西暦2091年の年末から始まった、RONによる東南アジアの小国マニス共和国への侵攻は、RONへのテロを行ったテロ組織を匿うマニス共和国への報復が理由であった。
無論、マニス共和国はテロ組織との関係を否定したが、RONはそれを一蹴し強引に軍事侵攻へと踏み切っていた。
マニス共和国が所属する”アジア・オセアニア諸国連合”は、その連合防衛軍をマニス共和国へと派遣しRONに対抗、事態は急速に世界大戦の様相を表し始めていた。
――それは、後のRONの立ち位置を決定づけた、大きな時代のうねりの始まりを表す世界的大事件であった。
その時、新宿繁華街を周囲の視線を集めながら堂々と歩く大柄の女性がいた。
その女性は、年齢は二十代後半に見えるであろうか?
モデルのように背が高く、その国防軍制服を身に着けていても分かる肉感的なプロポーションは周囲の男たちの視線を釘付けにするほどである。
髪は美しいブロンドで瞳は綺麗なブルーであり、どこから見ても外国の芸能人やモデルに見える。
しかし、そんな見た目に反して流暢な日本語で、側に控えている女性に声を掛けた。
「ねえ、湊音――、いい街だと思わない?」
「そうっすか?」
湊音と呼ばれたその女性はつまらなそうにそう答えた。
「まあ、貴方にとっては嫌な思い出しかないでしょうからね、この国は――。
でも、私にとっては最高の国よ?」
「それは良かったっすね――」
「――フフ、この国は多くが腐っているわ――。
でも、それでも多くの人は純粋で、私にとっては守るべき大切な存在なのよ」
「一部が腐ってたら、そのうちみんな腐るでしょうよ――」
その湊音の言葉に微笑みを強くして女性は答える。
「辛辣だけど事実かもしれないわね――、でもだからこそ、私たちが守るべきなのよ」
その言葉に湊音は顔を歪ませて言う。
「日本人にその価値があるんですかね?」
その嫌悪感を隠さない物言いに、女性は微笑みをさらに強くして返した。
「どんな人間にも価値はあるわよ?
その価値が自分にとってどうでもいいか、或いは大切なものかという違いがあるだけ。
私にとっての外国人と同じよ――」
「あなたは本当に日本人が好きなんですね」
湊音はため息をついてそう言った。それに対し――、
「当然じゃない――。日本人は卑屈だし、騙されやすいし、くだらない性善説を固持しているし、強いものに巻かれる性格をしているし、悪いところをあげればきりがないけど。
それでも、冷静に物事を見ている人間は多いわ。――それを表に出すことが日本人の性格上難しいだけで」
――女性はそう言った。
「――そうなんですかね? 私にはわかりかねますが」
「――まあ、貴方は悪い日本人をあまりにたくさん見てきたから理解できないんでしょうね。
出会い運がなかったのは本当にかわいそうだわ」
それを聞いて湊音は――「運が悪かった――ですか」と不満そうにつぶやいた。
――と、不意にその女性が隣をすれ違う形で歩いていた男の手をつかんだ。
「?!!」
その男は驚いた表情で女性を眺める。
「お仕事ご苦労さんね?」
女性はその男性に対して優し気に微笑みながら呟く。その言葉に男性は顔を青ざめさせた。
それもそのはず、その男性はその手にナイフを持っていたのである。
つい今しがた、すれ違いざまに女性にそのナイフを振るおうとしたところだったのである。
「――こんなところで遊んでいていいのかしら? あなた方は――。
まさか、うちとの二面作戦をするつもりじゃないでしょ?」
女性のその言葉に、男性は訳が分からないという顔をする。それでも女性は話を続ける。
「いくら超大国のRONとはいえ、マニス共和国に侵攻中の現状で日本にまで手を出せばどうなるか理解しているでしょ?
それとも、一部わかっていないおバカさんの手の者かしら?」
「俺は――」
ついに男は首を横に振ってそう言葉を発した。
「ああ――否定しても無駄よ?
貴方の動きがプロだと証明してるし――。
まあこの私を狙ったのは最悪の判断だったわね?」
男はついに顔を歪ませて手を振りほどこうとする。しかし、その女性の手はがっちりと万力のようにつかんで離さない。
仕方なしに、男はもう片手で懐から拳銃を取り出した。――が、
「はい――、大正解みたいね?」
そのまま、片手で男を投げてその場に抑え込む女性。男は銃を取り落としてうめき声をあげた。
「くそ――、ハッタリか?
大西 龍生――」
「そうよ、おバカさん――。
動きがプロだってのは感じたままの事を言っただけだけどね?
あたしを狙ってくるなら、当然RONの関係者だろうって確信はあったし――」
その得意げな言葉に男は心底蔑んだ顔で睨みつける。
「――ち、オカマ風情が調子に乗りやがって」
その言葉に龍生は笑顔を消して言った。
「何? ゲイを馬鹿にしてるの? RONの手先風情が――。
あたしを馬鹿にできるのは唯一あたし自身だけよ――」
――そう、彼女(彼)は正確には女性ではなかった。
そうするうちに騒ぎを聞きつけた警官が走り寄ってくる。
その姿を見た龍生はそれらの警官に手を振ってこたえた。
「来なくていいわ――。こいつの処理はこっちの領分だから」
「しかし――」
警官のその返事に、満面の笑顔を向けて龍生は言う。
「私は日本陸上国防軍・太平洋方面隊・第六師団長、大西《おおにし》 龍生《たつき》・陸将――。
貴方の所属は?」
その笑顔の奥の恐ろしい威圧に、警官は冷や汗をかきつつその場を去っていった。
「――さて」
満面の笑顔をたたえつつ、全く欠片も笑っていない目で、男を見下ろす龍生は冷酷非情に宣告を下す。
「私ってば――、拷問が得意なのよ?
貴方の背後を色々しゃべってもらうわ――」
「ひ――」
その、奥の見えない闇をたたえた瞳に、男はついに後悔の満ちた悲鳴を上げた。
それを傍から眺める湊音は、頭を掻きつつ苦笑いをしたのである。
◆◇◆
西暦2091年の年末から始まった、RONによる東南アジアの小国マニス共和国への侵攻は、RONへのテロを行ったテロ組織を匿うマニス共和国への報復が理由であった。
無論、マニス共和国はテロ組織との関係を否定したが、RONはそれを一蹴し強引に軍事侵攻へと踏み切っていた。
マニス共和国が所属する”アジア・オセアニア諸国連合”は、その連合防衛軍をマニス共和国へと派遣しRONに対抗、事態は急速に世界大戦の様相を表し始めていた。
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