呪法奇伝ZERO~蘆屋道満と夢幻の化生~

武無由乃

文字の大きさ
2 / 5

第二話 華の村へ

しおりを挟む
 さあさあ――、彩花なる土蜘蛛に、助けを乞われた道摩少年。
 その導きに従い、華の村への道を急ぎ歩む。
 果たしてその先にあるものとは――。

 様々な準備を手早く行った道摩は、華の村へと彩花の導きに従い急ぐ。
 しかし、その道は本来なら一日もかからぬはずが、なぜか華の村の入り口にすら到達できなかった。
 さすが彩花も、何事かとその顔を青くし始めたころ、道摩は一息ため息をついて言ったのである。

「――うむ、当然そうなるとは思ってはいたが……、やはりな」
「道摩さま? それはどういう……」

 いまいち事態が飲み込めていない彩花が、心底困った顔で道摩に問う。
 道摩は、いたって涼しい顔で答えた。

「これは――、華の村へと向かっても、そこに至れぬのはまさしく、華の村にかけられた結界による迷い呪によるものだ」
「それは……、このままでは華の村の入り口にすら、到達できぬという事なのですか?」
「……そうだな。このままであれば」

 あまりの事態に彩花は顔を青くするばかり。そんな彩花を特に気にした様子もなく、道摩は少し鼻を鳴らして言った。

「――まあ、この程度の結界は、壊せずともどうにかなろう」
「――え」

 道摩のその言葉に彩花は驚いた顔を見せる。道摩は少々得意げに彼女に語って聞かせる。

「このような迷い結界は、たいていが人の心に作用するもの。ようは迷いに心を乱されねばいいのだ」

 その言葉に彩花は安堵を得る。彼がそう言うならこの結界を乗り越えることもできよう――と。
 道摩は懐より糸を編んで作った輪を取り出す。それを彩花に手渡し腕にはめるよう促した。

「道摩さま? これは?」
「まあ……お守りのようなものと思え」

 道摩はそれだけを彩花に答えて、自らも同じものを腕にはめた。
 そうして、改めて華の村への道を二人は進んでいったのであった。
 すると――、それまでとは違う風景が、道摩達の周囲に起こり始める。

「これは――」

 道摩は立ち止まって、その足元に眠る狐を見た。

「皆、眠っておるのか――」

 それは、まさしく異様なる光景であった。
 その場に存在しているあらゆる動物が、その場に横になって眠り続けているではないか。
 道摩達がその身をゆすろうとも、動物たちは眠るばかりで起きる気配も無し。
 さすがの道摩も、この事態に対して険しい顔をするばかりであった。

「これは――少々まずい事態かもしれん」

 そのように呟く道摩に答えを返さず、彩花はその近くの樹木に身を預けている。
 その様子を不審に思った道摩が、その顔に手をやると――、彩花は目をつぶって眠りこけている様子。
 それをみた道摩は小さく頷き――、そして、何やら呪を唱えたのであった。

「く――……」

 そして、とうの道摩自身に対しても、圧倒的な睡魔が襲い掛かってきた。
 心の中で「やはり……」と呟く道摩は、そのまま彩花の隣で座り込み、彩花と同じように寝息を立て始めたのであった。


◆◇◆


 さて――、二人が目覚めると、そこは先ほどとは全く違う風景があった。

「ぬ?」

 道摩が周囲を見回すと、そこに明らかに人の手によるものと思われる木でできた柵と、その向こうに木の板の壁の家々が見えた。
 その光景を黙って見つめる道摩に、同じように目を覚ました彩花が言った。

「ああ……これこそは華の村。道摩さまの言うとおりに着きました」
「ふむ――、そうか」

 彩花の言葉に少しも喜びもせず、道摩はただ村を見つめていた。
 そんな二人に駆け寄ってくる姿があった。

「彩花!!」
「え?」

 彩花は駆け寄る姿に首をかしげる。それは、彩花と同じような着物を身に着けた、白い髪をした少女であった。

「彩花!! よかった!!」
「――?」

 その少女の呼びかけに、何やら首をかしげる彩花。それを道摩は黙って見つめる。

「彩花!! すでに三月――、もう帰ってこないかと心配したのよ!!」
「え?! 三月?!」

 その驚きの顔に少女が答える。

「そうよ――、私たちが彩花を術で送り出して、すでに三月――。もはや帰ってはこないとあきらめかけていたの」
「待って――、三月も? それに、貴方は?」
「え?」

 彩花は困った様子で少女に問う。それをみて少女は少し怒りの表情を浮かべて答えた。

「――三月も外で遊びまわって。私を忘れてしまったの?! 幼馴染の一葉を――」
「え……、あ!」

 その段になってやっと少女の名を思い出した彩花は、慌てた様子で一葉に頭を下げた。

「ごめん一葉……、何か頭がぼーっとして。幼馴染の名前を忘れるなんて」
「そうだよ……。まさか本当に三月の間、外で遊んでいたわけじゃ……」
「そんなことはない! あれから、急いで助けを――、このように道摩さまを呼んで、急いで帰ってきたのに……。三月?」

 彩花はうろたえた表情で一葉に答える。
 道摩は顎に手をやって目の前の一葉に問うた。

「三月――か。確かにこの彩花を俺が見つけてから、三日と経ってはいないはずだが。この結界内ではそのようになっていたのか?」

 その言葉に、やっと道摩の存在を認めた一葉は答える。

「貴方が――、道摩さま? その通りですよ。彩花を送り出してから、すでに三月が経ち――、我々は備蓄の食糧すら食べつくしてしまい……」
「それは……、今はどうしておるのだ?」
「それが――、食べつくしてしまってからわかったのですが。この村の中にいる限り、特にお腹が減ることもなく――、難なく生きていく事は可能で……」
「それは、今は食事をしてはいないと?」

 その道摩の言葉に一葉は頷く。どうやら、彼女ら――、村の者たちはすでに食事をとることをせず、それからも一月あまり村に閉じ込めらているようで――。

「そうか――」

 道摩はただそれだけを呟いて思考に入る。その姿を見た一葉は、彩花に耳打ちをした。

「この道摩さまは――。この人に任せてもいいのかしら?」
「それは――大丈夫だと。この村への道中も、助けていただきましたから」
「そう――」

 一葉の不審そうな目を受けても、道摩はただ考え事をするだけであった。
 
 ――果たして、道摩はこの事態を――、華の村を救うことはできるのか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

日露戦争の真実

蔵屋
歴史・時代
 私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。 日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。  日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。  帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。  日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。 ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。  ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。  深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。  この物語の始まりです。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』 この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。 作家 蔵屋日唱

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

 【最新版】  日月神示

蔵屋
歴史・時代
 最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。  何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」 「今に生きよ!」  「善一筋で生きよ!」  「身魂磨きをせよ!」  「人間の正しい生き方」  「人間の正しい食生活」  「人間の正しい夫婦のあり方」  「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」  たったのこれだけを守れば良いということだ。  根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。  日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。  これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」 という言葉に注目して欲しい。  今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。  どうか、最後までお読み下さい。  日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。    

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

焔と華 ―信長と帰蝶の恋―

歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。 政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。 冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。 戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。 ※全編チャットGPTにて生成しています 加筆修正しています

【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助

蔵屋
歴史・時代
 わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。  何故、甲斐国なのか?  それは、日本を象徴する富士山があるからだ。     さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。  そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。  なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。  それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。  読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。  

処理中です...