コアラの歩み

三条 よもぎ

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プロローグ

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今日は娘、正確には姪である瞳の結婚式が行われる。
朋花は花嫁の母親として参加していた。
そのため両親への手紙が読まれる時、朋花が瞳の前に立つこととなる。

娘の花嫁姿を見ることが出来て幸せだなあ。

そう思うと人前に出たことへの緊張が解けて顔が綻び、そんな朋花の笑顔を見て瞳も笑みを浮かべながら手紙を読み始めた。

「お母さん、今まで育ててくれてありがとう。お母さんは突然、私のお母さんになって大変なことも多かったと思います。反抗期にはわがままを言って困らせてごめんなさい。それでもお母さんがずっと私のお母さんでいてくれたから今の私があります」

その言葉を聞いて今までの日々が朋花の頭を駆け抜け、涙が溢れてくる。

最初は気楽な気持ちでお母さんを始めたけど、実際は何もかもが初めてで失敗もいっぱいしたなあ。
むしろ瞳に助けられてばかりでお礼を伝えたいのは私の方だよ。

そんな朋花につられて瞳も貰い泣きしそうだったが、何とか涙を堪えながら手紙を読み進めていく。

「天国のパパ、ママ。私は今、新しい家族も出来てとても幸せです。パパとママのように仲の良い家族になれるように頑張ります」

瞳の言葉を聞いて朋花の頭には瞳の母、朋花からすれば姉である梨花の顔が浮かんできた。

あのね、お姉ちゃん。
私、頑張ったよ。

心の中で天国の姉へと語り掛ける。
緊張と感動の結婚式はあっという間に終わり、全てを終えた朋花はようやく肩の荷が下りた気がした。

あの頃はまさか自分の結婚式は挙げたことないのに娘の結婚式に出ることになるなんて思ってもいなかったなあ。

朋花は1人きりの自宅のベッドに寝転びながら、瞳の母となった日のことを思い出していた。
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