転 神 ~ 人類の系譜・日本神話 編 ~

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第 弐十弐 話 一 心 専 念

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 俺達九人は蜘蛛神の神皇が現れた、詠華さんが言うその場所の上空へと到着していた。その地とは島根県。その巨大さに驚愕してしまう。大きさの尺度が異常だ!その地方の約三分の二をその巨体で埋めていた。
 そして、その姿は絵に描いたように・・・、山脈のように巨大な胴体に爬虫類の蜥蜴?それとも蛇?そんな様な頭と尾が八つ、首とその尾の長さは・・・・・・、河川の上流から下流までの様に長かった。それらの太さは奈良の大仏の胴回りよりも大きい。だけど足はなかった。
 太古の昔、素盞鳴尊率いる軍勢と鬼神族の者達が闘い幾日もかけてやっと倒すのではなく封印したと言うその相手にたったの九人九神で俺達は挑もうとしている。天津の中では絶対神と崇められていた天照大御神である詠華さんが居たとしても俺達に本当に勝機はあるのだろうか?
 だけど・・・、俺の命が尽きたとしても絶対に勝たなきゃならない相手。
 上空で眼下に居るそれを眺めていると俺達の存在を感じ取ったのか、その巨大な尾を地面に打ち鳴らしながら八つある首すべてをこちらに向けていた。蟒蛇の取った行動で上空から見える範囲すべての地域が大きく揺れ動くのを確認できた。
 そんなヤツと戦っていたらいつか日本が沈んでしまいそうだ・・・。
『来たか・・・、態々殺られに。我等が皇の力の真髄、その穢れきった身を持って知れ』
「・・・?!その声は陽久っ!手前、生きてやがったのかっ!どこに居やがる、姿を見せろ!」
「姿を見せろだと?其方よ、どこを見ているのだ?武甕槌の後継者よ、我はここだ。そして、我があの程度で死ぬと思うてかっ!」
 俺は声が聞えた方を見たけど、其奴の姿は見えなかった。目に映るのは兇悪な面の蟒蛇の頭部だけ。・・・しかし、ほんの少しの時間が経つとその頭部の額、紅色の鋼玉の様なものが埋め込まれている場所の中に陽久のその姿が現れた。良く見るとすべての頭の同じ部分に別々の色、赤、橙、黄色、碧、青、藍、紫、無色の鋼玉が埋まっていた。
「このたびは前のようには行かんぞ、武甕槌!我の口に食われ、奈落の中へと堕ちろ」
「そう簡単に行くかよ!俺だってあの時とは違うんだ。武甕槌、お前の本当の十握剣を俺にみせてっくれ!」
〈我のしんの力の真髄、今ここに!天照、よいな?我と共に汝、武の為、我の力のすべてを!〉
「武甕槌、その力を振るう事を許します。どうか武さんをお守りください」
〈天照の許可は下りたぞ、武!いいかッ!〉
「俺が人間にも、人なんかにも戻れなくて良いぜ、だからその力!」
『一神一致、一心専念。我は天津国の雷神皇、武甕槌!うヲォオォーーーーーーーーーーッ』
 俺が手に持っていた刀身が無い剣は徐々にその長さを変えていた。大きさは十倍にも膨れ上がり、そこから神々しい確りした形の両刃が姿を見せていた。その刀身の長さ優に五丈、そして俺の体の大きさも巨大化した十握剣を扱えるような体躯に成っていたんだ。
「おっ、オイ、児屋根?俺達変身できないんじゃなかったのか?あの姿、ずっとまえ一度だけ見た武甕槌って神の姿だぞっ!」
〈大地様もあんな風になって見たいですか?〉
「でっ、出来るのか、児屋根ッチ!出来るんだったら・・・・・・、俺もコンナちっこい体であんな化け物相手できっかよ!」
〈そうですか・・・、分かりました。僕達も成りましょう。ですが分かってらっしゃいますね?〉
「児屋根、今まで俺様と一緒に居てくれて有難うな。そして絶対勝とうぜ」
〈はい、それでは謳いましょう。ボクの第二の故郷のために、この日本のために〉
『我乃辞波総手乃形、言葉有里手須部手形成須、我願宇波心神合致。我尓眠里志詞乃力今其礼放都時、天神天成・・・・・・、我天児屋根成!』
 内に秘める天児屋根と共に大地が神気を込めた声で自分の向けて祝詞を謳う。そして、其れを終えたとき彼の姿は武とまでは行かないが巨大化していた。その姿形は大地が人の時とは全く違う容姿。大地自身は見ることが出来ない天児屋根本来の姿。
「経津主、これが最後の戦いだ俺達の力の総てを揮うぞ、良いなっ!」
〈私の願いは主の願い。経司殿、これで総てが終わるように・・・〉
 経司は全神気を丹田に集中させ、最高点まで凝縮された其れを体全身に放つ。そうすると両手に握り締めた日本刀と共に経司の体が大きくなっていた。そして、その巨大化が止まったときの彼の姿はまさに闘う神、刀神の如く、その様な出立ちに変貌していた。
「さてさて、今回はボクに何が取り憑いて来てくれるんですかねぇ~~~、どんな化け物のような姿に変わっても良い、だからみんなの力になれるような其れを・・・・龍神?驪刃威荒りばいあ、って言うんだね?属性はボクと同じ海神わだつみなんだね?その偉大な神の力僕に貸して!この国を救うためにボクに貸してよっ!ウオヲォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
 勇輔は今回もまた天国津神にとって異質なチカラを持つ黄泉で眠る神の魂をその身に取り憑かせていた。淒流刀や巍巌鎚須の時のように体は巨大化させていた。しかし、その姿は人型とかけ離れているようだった。その姿形、蟒蛇の一頭一尾に大きな翼が三対、色は海洋の色と一緒。そして、その大きさは八岐蟒蛇には及ばない物の、全長十二にもなっていた。
 今でも八幡七星の体を借り続ける天津甕星、その神は宿り主のそれを借りて局限の力を発揮させその身を大きく見せていた。
 神の力を持つ女四人、詠華も照神も美姫も那波も神気を体全体にまといそれらの本来あるべき姿えと還らせる。
*一里は三・九二七キロメートル。
「その様な姿を変えたところでボク達に勝てるはずが無いよ。その無能さ、僕等に噛み砕かれて知ってください!」
 別の頭から確か幹久って言っていたヤツの言葉が聞えてくる。それが俺達にとって会戦の合図だった。俺は先陣を切って陽久の蟒蛇の首に斬りかかって行く。そして、経司も大地も、皆、皆自分の目標を定め攻撃を開始していた。
 本当の俺の十握剣から放たれる神技は島根の大地を簡単に裂き、消えない力の迸りはそのまま海上へと続きその海を数秒断ち切っていた。大国主の神の力なんだろうけど大自然修復の力が及んでいるみたいで、どんなに広大な範囲の地形を変化させていても瞬間的とは行かないが元通りになっていた。
 しかし、それだけ凄い力を放っていても蟒蛇には掠り傷程度しか付けられない。更にその傷だって直ぐに回復しやがる・・・。俺達・・・、勝てないかもしれない。
「どうしたのだ、武甕槌よ?我の力に恐怖したか?われら蜘蛛の偉大さが分かったか?」
「そんな化け物の力借りやがってなに粋がってんだっ!そんなクソッたれな言葉、やられ役が口にする言葉だぜっ」
「其方よ、フッそれは弱者の戯言だな。フフフッ、この様な言葉を其方は知っておるか?〝弱者が強者に屈する。これは全ての国の理〟と言う事をな・・・」
「そんな言葉、俺が知るかよっ!そんな力で押さえつけるようなコト許してたまるかっ!」
「クククッ、そうか、知らないと申すのか。それではその言葉どのような輩が口にしたか教えて進ぜよう・・・・・・。そなた等天津が国津に言った事なのだぞ!・・・・・・、しかし、その言葉は事実でもある。我等が神皇、蟒蛇様とわれわれの力を持ってそれを示して進ぜようぞ」
「そんなの嘘だぁーーーーーーーーーッ、コぅヲォのぉやろぉおおぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉッ」
 今、武甕槌と一神一体になっている俺にそれを確かめる事は出来ないんだ。だけど、そんなコト信じたくなかった。だから、湧き上がる怒りを力に換えて爆発させていた。
「クハァハッハッハッハハッその程度の力、きかぬ、効かぬぞっ。力の差と言う物を見せてやろう」
「ウガぁーーーーーーーーあぁぁぁあっぁあぁあーーーーぁぁぁーーーーーーーぁぁあッ」
 陽久の意志で動きを見せる巨大な尾に捕らえられ向こうにとってはほんの少しの力を入れた程度なんだろうけど全身がバラバラになるような痛みを感じていた。そして、捕らえられたままの俺は明後日の方向へと飛ばされてしまう。その飛ばされた距離も信じがたかった。
 俺は島根県の真ん中辺りから東京湾沖まで投げつけられていた。更に海面にぶつけられ途方も無い痛みに数十分海に沈んだままだった。
 体の激痛から開放されると直ぐに瞬転して蟒蛇陽久の首の所まで戻っていた。一瞬だけ周りの状況を確認する。皆、苦戦しているようだった。詠華さんや照神先輩、那波ちゃんや他の皆に助太刀してやりたかった。でも、そんなことが出来る状態じゃない。
「フンッ、まだ性懲りもなく寄ってきおったな。そのまま海の藻くずとなれば、それ以上の苦しみを味わあずにすむというのに・・・、矢張り天津も国津も愚かなり」
「俺達との共存を拒んだ貴様らが何を言ってんだ!愚かな馬鹿者はそっちだぜ」
「其方よ、言葉を慎め。そなた等がわが国に勝手に侵攻してきて奪ったくせに何を言うか!虫唾が走るはっ!死に逝ぅけぇーーーーーーっ」
 再び陽久は尾で攻撃を仕掛けてきた。しかし、今回はその動きを見切り神技で斬り伏せてやる。更に斬ったそれは地面に落ち直ぐに消滅した。・・・だけど、斬られた部分からまた新しいそれが再生し始めた。
 一体全体どういう構造をしているんだ?これだけの巨体のそういった部分を回復させるにはそれ相応、相当のエネルギーを使うはずなのに・・・。何故、その様な回復力を持っているのか理解できないのは俺達が蟒蛇の本当の存在理由を知らなかったからだ。
 元々、蟒蛇は生命の負の念から生まれる気を、その病原体の元を喰らい浄化させる事を司っていた聖なる存在。そして、その負の念こそ蟒蛇の生命維持の源だった。
 だけど、それを知らなかった天国津は自然に生きる生命体を喰らう斯くも恐ろしき化け物だと思い退治してしまったのだ。
 八州神乃邑智がいなくなった時代から俺達人間がこれまで生きてきた過程の中で膿みだし、溜まりに溜まった膨大な量の瘴気が蟒蛇を過去の彼よりも強大に成長させてしまっていたのだ。
 攻撃を仕掛けるたびにボロボロになるのは俺達の方。勝てないかも知れないじゃなくて・・・、勝てない。強いとかそんな次元の問題じゃなかった。無謀だった、たった九人で勝てるはずなかった。俺が悔しそうな顔を作ると陽久がいやらしく笑う。それと一緒に蟒蛇の頭も・・・・・・。そして、その大きな頭の口から焼け付く様な灼熱波動が放たれていた。その息に取り込まれる俺。
「駄目だ・・・強すぎる。勝てネエゼ、コンナヤツに・・・」
「己の弱さを悟ったか、武甕槌よ?だがもう遅いぞ。苦痛にゆがめる其方の顔、くっくっく。丹念にその命を奪ってやろう」
「だけど・・・、だけどっ!勝てねえって分かっていても絶対負けるわけにわいかないんだっ!」
 その言葉通り、勝てないって悟っちまったけど・・・、それでも俺は負ける気はさらさらなかった。命尽きるまで戦い抜いてみせる。そんな志しと共に気合と一緒に神技を乱舞する。
 俺達の戦いは一体どのくらい続くのだろうか?俺達が勝つのか、負けるのか分からないけど戦い続けるしか無いんだ。今の俺達にはそれしか出来ないんだ。
 俺達が今こうして戦っている間に琢磨さんたちは俺達の守るべき人と人間を守護してくれているんだ。その期待を裏切りたくない。だから・・・。

~ 千葉県夷隅郡荒木根山付近 ~

 その場所に六王と呼ばれる蟒蛇の分身の一体が姿を出現させ暴れまわっていた。そして、それに戦いを挑む十二人の戦士達がいた。
「クッ、鹿嶋君たちは来てくれないのかなぁ~~~」
「将徳君、ソン顔してちゃ駄目ですよ。神様の皆さんは私達が相手している化け物よりもっと強大悪に戦いを挑んでいるんですよ・・・。あの向こう側に見えるあれと・・・」
「・・・、そうだったね。これくらい僕たちで何とかしないと鹿嶋君、神様たちに笑われちゃうね。みんなっ!本当に死んじゃ困るけど、死ぬ気で頑張って!」
 平将徳、彼のその鼓舞でサイキッカー江戸川生徒会組はその士気と力を上昇させていた。
「僕のご先祖様、将門様。皆を護りたいんだ!どうか、どうかこのボクにその力の加護を・・・、そして、この地にご先祖様が望んだ安息を・・・」
 武達とは違う場所で戦う江戸川高校の生徒たち。みな決死の覚悟で挑んでいた。果たして、蟒蛇の分身の六王と呼ばれる程の相手に打勝つ事が出来るのだろうか?しかし、それは武たちの勝敗と同じようなくらい不可能に近い物でしかなかった。

~ 北海道根日高、十勝平野 ~

 雄大な日高山と広大な十勝平野に一体ずつ六王がその力の猛威を揮う。
「フッ、コンナ化け物が俺達の太祖より産み出てきたとは八岐蟒蛇とは余程の化け物のようだな」
「何を言ってんの、アンタ?あたし達だって十分化け物よ。清志狼、アタシ達の肉体が消滅しても魂だけになっても戦い続けるわよ。それすら消えるまでね」
「そうだにゃぁ~~~、絶対勝つにゃァ~~~、そして人様にいっぱい敬われて、とっても可愛がってもらうにゃぁ~~~」
「我は自然と共に人と生きられればそれでよい」
「ボクは僕の肉を食らい喜んでくれる人々、人間をずっと見守って生きたい。だから、このような化け物をのさばらしてはいけないんだ」
「私もそう、私が与える乳で人の子が大きくなり、私の肉で人々が育つそれが自然のあり方、それが私の種族が持って生まれた定め。それを変え様とする蟒蛇は私達の倒すべき敵」
「そうだな、人と人間と共に生きて行くのは中々どうして面白い事が多い。俺達から見れば脆弱な種だ。だから護ってやらねばな。・・・、それに蟒蛇を倒さなければ、あれに逆らった俺達は食い殺されその血肉にされるだろう。それが自然の摂理なら仕方が無いが・・・・・・・・・、逆らってみるのも面白いか・・・。九条、三条、熊谷、猪狩、野茂。狩るぞ、あの化け物を!天抜戸よ、これが最後だ。その力を俺に、里美清志狼に貸してくれ」
〈いいか、御主が生き続ける限り、いいもの作るのじゃぞ〉
「心得た」
 人の姿のままだった獣神たちはその姿を野性の赴くままの猟獣りょうじゅうへと変容させていた。
 清志狼の中に降りた天抜戸の神と犬神、狐神、猫神、熊神、猪神、牛神の六獣神は三神に分かれ山岳と平野で暴れる蟒蛇の分身に戦いを挑み始める。
 九尾の狐、二千年も生き続け膨大な神通力を蓄えた妖狐。三又の猫、千五百年もの間、ずっと妖力と言う物を研究し続けた妖猫。獣神の中では最高神で天津神を下ろした犬神の銀狼。強大な力を持ち一時は大山神と恐れられた熊神の熊襲くまそ。西方の国では邪神と恐れられている猪神の閼伽鐘あかがね。そして、異国の神の力を取り込んだ牛神の枅生やぎゅう。それらの神が揮う本来の力は小自然を揺るがすほどの物であった。しかし、それでも蟒蛇の分身との力の差は歴然としている。その様な相手に死に物狂いで襲い掛かってゆく獣神達。
 他の地域でも鬼族や他の天国津達が蟒蛇の分身たちと戦っている様だった。その結末は一体どのようになるのだろうか?それを知っているのは戦いに身を投じている者達だけだろう。
*   *   *

 俺達が八岐蟒蛇と戦ってもう十六夜いざよいの日にもなる。始めて戦闘を交えてから三日目の夜に卜部賢治さん率いる鬼神の集団が助っ人に来てくれた。卜部さんは温羅王と呼ばれる鬼神の中の鬼神でその力を見ていると素盞鳴尊の化身である八坂さんと匹敵するんじゃないかって感じだった。それに嵐山の戦いのときに助けてくれた酒門紘治さんと神奈愛美さん、その二人も以前一緒に共闘していた時よりも強くなっていた。
 隠忍族の人達が来てくれたから本来護りの力で真価を発揮する詠華さんと照神先輩、それと大地、その三人は後ろの下がり後方援護にその位置を替えていた。
 しかし、そんな心強い仲間が来てくれて後方支援が万全となった俺達だけど、その劣勢はなんら変わらなかった。そのくらい、今俺達が戦いを挑んでいる過去より復活した蟒蛇は強かった。
 こちら側、ボロボロになりながらも未だに誰もその命を散らす者はいなかった。ただ、それだけが唯一の精神的な支えだった。
「愚かな天国津らよ。そなた等はいつまでこのような無益な戦いの宴を続ける積りだ?もう諦めて我等が蟒蛇様の血肉となってしまえばよかろうに」
「宴は酒が尽きるまでって決まってんだぜっ!それが無くなるまで闘い続けてやるっ!」
「その様なものどこにある?たわごとを。・・・まあよかろう、貴様らが絶望するまで付き合ってやろうではないか。そなた等が悔やむ顔それが我等にとっては美酒となろうぞ、クックック」
「言ってくれやがってぇっ!デリャぁーーーーーーーーーッ」
 攻撃を仕掛け、俺が傷付くたびに陽久は嬉しそうな顔を見せてくれやがる。俺を甚振いたぶって遊んでいるような感じだった。でも、俺はどんなに痛めつけられても挑み戦う事しか出来なかった。

*   *   *

 あれからもう二十七日、今日を過ぎてしまえば八月が終わってしまう。その間に各地で六王と戦い、それに打ち勝った仲間が駆け付けてくれていた。
 島根の上空と地上その両方にて八岐蟒蛇に猛攻を仕掛けていた。ほんの僅かだけど蜘蛛神の神皇は怯み始める。空の上からその蟒蛇を確認すると極微妙に小さくなっているような感じだった。だけど、それでもこちらが不利なのは依然変わらない。
 治癒の御光を放ちながら聖歌を唄い続ける詠華さん、守護結界を張り祈り続ける照神先輩、俺達天国津の力を上昇させる祝詞を謳い続ける大地、その力がだいぶ弱まってきた。そのせいで後方支援を享けられない者達が出てきてしまった。それを享けられない仲間達が次々と瀕死の状態で地に伏せてゆく。だけど、命までついる事はなかった。それはせめてもの幸い。
 俺の方も皆と同じように後方支援の影響が弱まっていた。しかし、それでも他の仲間たちよりはまし。それは経司や力ある仲間たちにも言える。だけどその支援が費えた時、俺達は多分・・・。
「しぶといな天国津らよ。そなた等のその命のしぶとさ都乃牟之つのむしなみだな。だがもう十分、生きたであろう?はよう死に至れよ、自然の流れに逆らう者よ」
 今はただ防戦する事しかできない俺、好機を見て反撃しないといつまで経っても無駄に時間を使ってしまう一方だ。
 陽久の意志で動かされる部分から放たれる力、焼け付く息、巨大で強靭な牙、剛と軟を備えた尾の攻撃を避けながら機会を窺い逃げ回っている時だった。
「クッ、やっと、やっと戻ってきたぞ・・・?た・・・、けみかづち・・・、一体お前たちは何と戦っているのだ?」
 声のする方を振り向くとそこにはだらけた腕を一方の腕で押さえ、隻眼になっていてボロボロ満身創痍の八坂さん、素盞鳴尊が辛そうな表情を浮かべながらそんな事を言ってきた。
「八坂さん、一体何って?俺達が戦っているのは蟒蛇って奴だろう?」
「そんな莫迦な・・・・・・、俺が数千年も前の昔、大国主の頼み願いで戦った邑智はこれほどまでに・・・・・・、でかいと言っても高々富士の山程度であったはず。これ程までに肥大化するほどこの国を覆っていた瘴気の量が・・・」
 かなり距離を置いていたはずなのに陽久の声が聞えてくる。その向けられた言葉は俺にじゃなくて八坂さんにだった。
「小角の術より脱する事が出来たか・・・、久遠の時を経てその肉体うつわも其方の荒ぶる魂も次元の狭間で朽ち果てればよいものを・・・・・・、化け物目が」
「化け物で結構だ。あんなクソ爺と一緒に心中する気はさらさら無い、例え絶世の女でもな。どれほど力を憑けていようが俺が来たからには八州神、貴様の最後だ!」
「その傷付いた体で我に戦いを挑もうというのか誠に持って天国津とは愚か者の集まりのようだ。天孫降臨とやらのときの天津の方がよっぽど我々に近いわっ」
「姉上、姉うえはどこの御座すか?俺の傷を癒してくれ!」
 素盞鳴尊が天照である詠華さんを咆哮のような大声で叫び呼ぶと彼女は俺達の前に瞬転して現れた。
「八坂さん、やっと来てくれたのですね。・・・妾が弟に妾が陽の御光りを・・・」
 暖かな光りが詠華さんの中心から発せられてた。その光りを浴びた八坂さんは見る見ると傷だらけの身体が正常な状態に戻ってゆく。更に近くに居た俺の怪我していた場所も一緒に回復していた。
 遠方からと接近では詠華さんの治癒の力は全然違うようだった。本当は前線に居て欲しいけど彼女を護りながら闘うなんて事は今の俺達には出来ない。
 それに詠華さんがその光を与えているのは何も戦っている俺達だけじゃない。いまだ島根に残っている人々にもその加護を与えている。だから傍に居て欲しい何って我侭は言っていられない。それは仕方が無いんだ。
「武甕槌・・・、いいえ、武君。私達はどんな事をしてでもこの自分を神皇などと名乗る化け物を倒す事は出来なくとも封印しなければいけないのです。ですから・・・、私達の命を惜しんではいけません。武君が仲間達の事を思うなら、人々と人間たちの平和を神に願うなら死ぬ気で倒すのではなく。死んでも道連れにする気持ちで。・・・いいですね?」
 八坂さんの声を久しぶりに聞いたような気がする。素盞鳴尊の時の様な顰めっ面とは違う、優しい彼の時の柔和な笑みで俺にそう告げてきた。
「俺がそうすれば絶対勝てるかっ、八坂さん?」
「世の理に絶対と言う摂理はありません。ですけど、私達が勝機の道を作ればそれに続いてくれる可能性はあります。勝てる可能性は有ります。それを信じるしかありません」
「ウンだったら、神様の神頼みって言うのでもしてみるっすよ!やさ・・・、素盞鳴尊、奴を討つぞ!武甕槌である俺より強いその力貸してくれ!」
「承知!いいか武甕槌っ、八州神は世界の瘴気を食らってその力をつける。神技は瘴気を祓う厳霊を使え。みなの者達にもそう伝えるのだ」
「道理で俺達の攻撃が今まで殆ど通じなかった分かったぜ!ヨォ~~~しっ!祓ってやるぞ。覚悟しろ陽久っ」
 俺はその事を皆に伝えるためにそれを出来る詠華さんの所に向かう。そして、素盞鳴尊から教えられた事を彼女に伝えるとそれは戦える仲間全員に伝わっていた。これで一気に形勢逆転できると俺は思っていた。しかし、そんなに世の中は甘くないようでそれを直ぐに痛感する。

*   *  *

 素盞鳴尊が助けに来てくれて丸六日の日々が過ぎている。善戦して蟒蛇の力を瘴気を削ぎ今まで見ていた巨体の三分の一位まで小さくしてやっていた。だけどまだまだ、向こうはその猛威を揮い続ける。その度に仲間達が戦う力を失っていた。日を追うごとに戦士たちは一人神ひとり、また一神ひとりと倒れていった。そして到頭、美姫姉ちゃんも那波ちゃんも大地も経司も照神先輩もみんな、みんな地に堕ちてしまった。命は落としていないけど虫の息、瀕死の状態には変わり無い。
 今上空に残っているのは俺と素盞鳴尊、天津甕星、驪刃威荒になっている事代主、人々の救済対策を終えてから駆けつけた大国主、それと天照。
 地上には温羅王、酒顛闘士しゅてんどうじ茨木刀子いばらぎどうじ、それとなんと平将門に成っている将徳だった。
 そして、蟒蛇の首と尾は今までの奮闘で八つから三つにまでしてやっていた。しかしそれでもまだ優勢に成ったとは言えなかった。
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