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第 弐十参 話 命の炎、その輝きの力
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壱 三つの御心
「詠華よ・・・、いや天照大御上よ。これが天津が、汝等が天孫降臨などを行ったが故、それを最後までなし得なかった故、歴史の中の多くの人と我等が子々孫々その者達による闘争が、自然とのあり方を誤り、進んできた文明が、虐げられる怒り、悲しみ、妬みや恨み、負の念。それより出《いずる》瘴気がこの国に蔓延したが故の結果だ」
「いまさら何を申すのですか甕星・・・」
「最後まで聴け、天照。・・・我は我が宿主であるこの七星少年に降り立った時、この国の有様を知った時に汝等に酷く憤りを感じた。だがしかし、今の汝等は違う。今の天照、汝は違う。我の悔恨の念など意味は無かった。これからのこの国に汝と父殿は必要不可欠。我願うは共存を望む者達の共存。天照よ、汝にこの国の将来。来るべき・・・、を任せたぞ」
「甕星さん・・・」
「我はこの少年の器を拘束することで七星の望みを何一つかなえてやれなかった。安寧を取り戻した時・・・、一つくらいこの少年の願いを叶えてやってはくれまいか?」
「妾、天照とわたくし、伊勢野詠華に出来る事でしたら・・・」
「そうか・・・、それではこの器、人の手に返すとしようか・・・護ってくれ」
成人の姿になっていた八幡七星の姿が徐々に逆行し元の少年の姿に戻って行く。
空中にだらけるように浮くその身体を詠華が抱きとめるとその中心から淡い球体が飛び出てきた。その淡い光りの球体は詠華ではなく別の者の心の中に投げかける。
〈我を討ちし、我が宿敵、武甕槌。あの時汝に討たれた時は途方もなく口惜しかったぞ。だがそれも大昔の事か・・・、我が力のすべて今の世のために使う。我が第二の故郷のために使うとしよう。少しばかり力を貸していただきたく思う・・・〉
遠くに離れていて怪我を癒していた武はその声に導かれて痛みを堪え甕星の前まで瞬転していた。
「俺に何をさせようって言うんだ?無駄死にはさせないぜ!」
〈我がその様な愚行をするとでも思うか?武甕槌よ!我等が天国津の勝機を掴むための道を切り開く、我が合図にて我を汝の力で蟒蛇の中心に放て〉
天津甕星が武にそう言葉をかけたときに素盞鳴尊までがその場に現れる。
「甕星・・・、矢張りそこまでしないと勝てない相手。俺もそうするか・・・姉上、先に高天原帰って領域を外世界の神々から護って待ってるからよ、帰ってくるときは確りこの国の事を終えてからにしろ。そうでないと・・・、またあの頃の様に悪さするぞ・・・フッ」
「素盞鳴尊!天津甕星っ!二人して一体何をしようって言うんだ!」
「なに心配した面してやがんだ武甕槌!おれの本当の力を見せてやるだけだ。櫛名田姫の宿り主、汝の姉を確り護れよ・・・。美姫さんを大切にしてあげてください・・・」
「八坂さん?まさかそれって?・・・・・・」
「そんな顔しないでください、武君。私が口にした言葉、私自身がそれを示すだけです」
「そんなのはダメダッ!俺の道場にはまだ八坂さんが必要なんだ。俺には徹さんは兄ちゃんと同じくらい大切なんだっ!・・・それに、経司には悪いけど姉ちゃんは・・・、だから・・・」
「有難う、武君。私の事をそんな風に思ってくれて・・・、私がキミの道場と双樹さんに色々な事でお世話になってもう十八年、武君と同じ歳。それまでとても楽しい日々を送らせて貰ったよ。だけど、私は素盞鳴。成し遂げなければならない事がある。それは・・・、分かっているね?」
〈素盞鳴よ、お喋りはそのくらいにしたらどうだ?時間を無駄に費やすわけには行かぬのだぞ!〉
「そうだったな、甕星。武甕槌、後は貴様らしだいだ!見せてくれよう我が荒ぶる魂の力」
八坂徹と素盞鳴尊の両面を出しながらその場に居る者達と会話をしていたその神は武が返そうとした言葉も聞かず、その場から姿を消した。
天津甕星、武甕槌、天照の三神より離れた場所に、海中深くでその身を癒している居る事代主の勇輔。彼は神眼で素盞鳴と甕星が何をしようとするのか知ってしまったようだった。
「そこまでしないと・・・、それだけでも僕たちは勝てないんだね。だったらぼくも・・・。武君、ボクもそうするよ。だから勝ってちょうだい。そして・・・、その勝利の祝いに那波をもらってくれると僕は兄としてとってもうれしいかな。クックック、武君が僕の義妹・・・、弟になるのかそれも良いかもね。だけど、ボクが二人を祝福してやれる場所は・・・」
勇輔は独り武の女装姿を思い出し変な想像をしていた。そして、彼の独り言が武に聞えるはずも無い。
〈武甕槌、それでは我の力の儀式を行う。機を間違うでないぞ〉
「えぇえぇ、うるさい蝿共めっ!さっさと堕ちぬか!小賢しい、いまさら何をしようと無駄であろう事にまだ気付かぬか。愚かにも程がある。この様な輩に我々蜘蛛が数千年もの昔、負けたとは怨恨などと言う言葉では足らぬぞ!」
〈その負の念、我と共に消えようぞ。我が名は天津甕星、その名の真の意、今ここに示して見せよう。・・・・・・、天に遍く星々よ、その始まりは一つの点、天の大きな甕に蓄えれられし多くの光り、零れるほど蓄えられしその光り、やがて自ら放ち恒星と成らん。我、天津甕星、星の輝き最後の意、我はすべての光を食らう闇黒天・・・。今ダッ!放たれよ、武甕槌〉
「をリャァーーーァァアァッァァァァーーーーーーーーーぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁッ」
いまだ健在の蟒蛇の頭や尾の攻撃を武甕槌である武は神速移動で避けながら手に持っていた天津甕星の魂を相手の背中中央に埋め込むように押し付けていた。
〈直ぐに我から、この地域一帯から離れろ、武甕槌!瞬転で〉
武は今残っている神気をすべて瞬転の力に換えて広島の方まで退避していた。倒れている他の仲間たちは総て何をするか知っていた天照と動く者達の手によって遠くの地に送られていた。
〈父殿、どうか我々が望んだ治政を・・・、この星に。・・・・・・どれだけの瘴気を飲み込む事が出来ようか・・・、神滅昇霊!〉
「やっ、止めろぉーーーッ!ハッ、離れ、のわぁあぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁあぁああぁぁああっ」
蟒蛇の中心から超新星爆発のような煌きが周囲に放たれたと思いきやその光りはすぐに一点に収束し闇色の黒点を作る。天上には太陽が見えるというのにその周囲一帯は真夜中以上な暗闇となっていた。天津甕星は魂の力を解き放ち、自己爆発後に出来る超重力場により多くの瘴気を蟒蛇の本体から吸い込んでいた。
その行動を起した事によりその神の魂は完全に消滅してしまい高天原に還る事も黄泉の国の棺の中で眠る事も出来ずその存在を消し去っていた。
「我が名は素盞鳴尊、我があらぶる魂のその真髄を見よ、我が力の総て!」
甕星が放った力が消えるか消えないかのその刹那な時の間にその神は最高点まで高めていた神気を身に纏いながらその神だけが持つ事を許されている天十握剣で神技を放つ。それは嘗て八州神乃邑智を討ち倒した時に見せた麁正と言う技だった。その一撃は島根全体を揺るがす程の力を持つ神技。だが、その力の反射衝撃は今の八坂徹と言う器では耐え切れずにその肉体を消滅させていた。更にそれを見計らったように日本海から中国地方の海岸の長さと同じくらいの幅、大津波が徐々に狭まり、押し寄せていた。
「海は総ての命の源、我が偉大なる大波に揉まれ、その淀んだ瘴気を禊祓うっ、神海灘!」
事代主である勇輔もまたその命を代償に大きな力を蟒蛇に向けていた。
大きな波が蟒蛇を襲い多くの瘴気を流し祓いその神海水が瀬戸内海に流れ行った頃、偶然にも彼の体は武の近くに流れ着いていた。そして、それを発見する彼。
「???勇輔、オイッ、ユウスケっ!何こんな所でビショビショになってネッコロがってんだ?風邪引いちまうぜ。まったくどうしようもない那波ちゃんの兄貴・・・?また俺を騙くらかそうとしてやがんな。チッ、狸してねえでサッさっと起きてくれ。ゆうすけ、ゆうすけ・・・」
勇輔を抱き起こしながら声を出さないで空笑いする。勇輔の中から魂の波のような物を感じられない事に気付く武。
「何で勇輔がこんな事しなくちゃ成らないんだ?何で八坂さんがあそこまでしなくちゃいけないんだよ。どうして仲良くなった甕星まで・・・、ちくしょぉーーーーーーっ!」
怒りの表情で武は蟒蛇の方を向いたが・・・・・・、今までその巨体ゆえに北海道の地からでも望めたそれが今の彼がいる位置からでは確認できなかった。
武は勇輔を見晴らしの良い場所に寝かし今まで蟒蛇が放っていた魂の鼓動の波を感じ取りその場へと向かう。
弐 我の魂は親友の為に
我が命は総てのために
我が使命は真の友情が故に・・・
― 島根県・八雲村付近 ―
俺がその場に到着すると完全に傷を癒していた経司と那波ちゃんが既に来ていた。いまだ厳しい表情で警戒な姿勢を崩さない経司と那波ちゃん。二人の姿は人間姿に戻っているようだった。それは俺も同じで、それでも胸中に武甕槌の存在をちゃんと感じる。
今まで一神胴体になって武甕槌の存在を感じ取れて居なかったから今みたいな方がどうしてなのか安心する。
状況を確認するため八岐蟒蛇を眺めやる。今までと打って変わっていた。その姿は始めて戦いを挑んだ時の十万分の一まで縮んでいた。天津甕星、素盞鳴、それと事代主だった勇輔。その三神の放ったその力、魂の力の凄さというのを知る。だけど・・・・・・、もうその三人が現世界の戻ってくる事は多分ないんだ。
よく見なくても確認できるけど姿形がかなり変わっている八岐蟒蛇。緒戦の頃は八つの頭と尾それを繋げていた巨大な胴体、手も足もなかった。だけど今、俺の目に映るの蟒蛇の姿は長い首に頭一つとやっぱり一本の長い尾。胴体には両手と両足があり、足二本だけで立って俺達を見下ろしていた。そして、その背中には巨大な禍々しい羽が三対。
「那波ちゃん・・・」
「武さん、それ以上言わないでください。私と勇輔お兄様は普通とは違う兄妹なのです。言葉にしなくても・・・、それを目にしなくても・・・」
「武、俺達が感傷に浸っている暇は無い。悔いるならあいつを倒してからだ」
冷静な顔してそんな事を俺の幼馴染みは言うけどその瞳の中の輝きは怒りに燃えていた。
『脆弱なる、吾の土地の上で抗う者達よ。汝等の使命など忘れ、摂理がままに生き、そして眠れ。それを拒むのであれは静かに、そして安らかに吾の中に還れ』
「誰ダッ?!お前、陽久じゃないな?そのほかの俺の知っている蜘蛛神でもない。誰だ、貴様は」
『分からぬのか?愚かなこと。・・・外世界から来た存在よ、吾こそがこの国の神皇、太古の日本に息衝く総ての生命の産み親、八州神乃邑智である。吾が命が定着したゆえこうして具現して見せたのだ。然るに汝等がこの地の覇権をかけて吾と戦いを望むのなら吾が真の力の前に恐怖しろ。そして吾に変わり冥府に堕ちるがよい!』
「戻ってきてばっかでわりぃ~~~んだがそっちに逝くのは俺様たちじゃなくてお前さんの方だ」
「大地っ!」
「へぇえぇ~~~ン、遅れて悪かったなアイボっ!那波ッチも香取も元気そうで何よりだ。さっさとコンナ奴片付けて東京に帰ろうぜ。流石の俺も飽きてきた」
「言ってくれやがって!よぉっしっ、これが多分ラストバトルだ!絶対勝つぞ」
俺は武甕槌に何も問いかけない。だって俺の意志は其奴の意志なんだから。刀身が消えていた真・十握剣の柄に神気を込め形作る。物語の最後を決めるにはピッタリの型になってくれた。
那波ちゃんは咎滅と言う神霊剣を両手で握り、経司は二刀流で似非布都御魂を二本作っていた。そして、大地は今回は完全に護り役となって攻守一体の祝詞を謳い上げる。
初めに動き出したのは那波ちゃんだった。それに続く俺と経司、絶妙な間合いで連続に切りかかる。それとほぼ同時に別の場所から姿を見せた美姫姉ちゃんが切りかかっていた。さらに詠華さんと照神先輩の力の加護も感じだ。
次第に姿を見せてくれる闘う事の出来る仲間達。だけど、俺達は安易に考えすぎていたようだ。体が小さくなっているからってその強さまでもが小さくなっている訳じゃなかったんだ。その一点に凝縮された本当の蟒蛇の力は直ぐに駆け付けてくれていた温羅王やその下につく二人の鬼神を軽くあしらう物だった。
再び朝と昼と夜を何度も繰り返す戦闘が続き、俺達は体中怪我だらけで次の一撃を食らえば死んでしまうような瀕死の状態にあった。
今近くに蟒蛇の攻撃からかばってあげる事のできた詠華さんが俺と一緒に倒れている。俺も怪我だらけだけど彼女も見るのが痛々しいくらい酷い傷を負っていた。
「ゴメン、詠華さん。いつも口では護って見せるなんって言ってるけど・・・、このざま」
「た・・・け・・・るさん・・・・・・」
彼女の言葉はそれ以上なかった。どうしてか俺に微笑をくれる。そして、詠華さんは瞳を閉じてぐったりとしてしまった・・・。だけどまだ大丈夫のようだ。命の息づかいは感じる。
こんな状況の中まだ何とか二本足で立っている連中がいた。その連中の一番上の奴が今どんな顔を作っているのか俺は知る事は出来ない。
温羅王である卜部賢治の現在の表情、普段は穏やかで女のようにおっとりとしているその男の顔は勝つ事の出来ない苛立ちのせいか、それとも己の力の足りなさに憤りを感じているためなのか不動明王の様な憤怒の形相をしているようだ。だが、彼の口から出る声は至って平常のような感じでもある。
「これが本当の蟒蛇の力と言うものなのですか・・・、私の鬼力が通用しないとは酒顛、茨木、しばらくその命私に預け貸してください」
「餓鬼魂創ろうって言うのか?そんなんで大丈夫か」
「文句いわないの、酒顛。王の命令は絶対ですよ」
「ヘイ、へいそうでしたね・・・」
「私の鬼眼で見えたのですが他の人の目には捉えられない速さで現世と常世を逝ったり来たりしているみたいです。ですから多分、蟒蛇の命だった天叢雲がまだ完全にあの体に定着していないのでしょう。餓鬼魂でそれを食い潰せば後は天国津の皆さんが何とかしてくれるはずです」
「まだ戦える方々の命がついえる前に・・・」
温羅王は同族二人から送られる鬼力を己の鬼力と練り混ぜ野球の球くらいの大きさの黒い光を放つ光弾を作っていた。
温羅王は蟒蛇の隙をうかがい襲い来る攻めを躱しながら好機を見計らっていた。
『賢しい、隠忍族よ。汝等に吾が地で息衝くことはもう許さぬ。奈落の底、その地で同族と共に争いながら暮らせ。堕ちよ・・・、堕ちるのだ』
「嫌ですよ、せっかく人様と仲良く暮らさせてくれると天津国の皆さんが保障してくれたのに。貴方こそもうお呼びではないのです。ですから潔く、その穢れと共に冥府へとお帰りください」
餓鬼魂と呼ぶ光弾を食らわす隙を見た温羅王は蟒蛇の心臓がある辺りにそれを食らわした。
『吾に何かしたのか鬼神の王よ?痛みなどか・・・・・・、どうしたという事だ?こっ、これは吾が肉体が・・・』
「無駄ですよ、いくら貴方が強くてもやはり完全体ではない今・・・、餓鬼魂よ、現世と常世を繋ぐその鍵を食らいつくしなさい。・・・・・・これで私の役目も終わりです。・・・、しばらくやすませて・・・」
温羅王はその場に倒れ鬼神本来の姿から人の姿、卜部賢治に変わって行く。
『幹久、陽久・・・、どこにおる?今一度吾の憑代となれ・・・』
しかし、その二人の返事は返って来ない。なぜなら素盞鳴尊と天津甕星、事代主により魂ごと消滅させられてしまったからだ。そして、その二人に二度と復活はない。
「武甕槌・・・、そうか。そんなコトが出来るのか。・・・良いのか?そんなコトしたらお前も一緒にだぜ?」
〈何度も言わせるな武。私の意思と汝の意志は同じ物。汝がそれを求めれば、私もそれを望む〉
「ソンじゃァ、最後の蹴りをつけようか。・・・、詠華さん・・・、天照大神・・・・・・、絶対、絶対勝って見せるからもう間違いを起こしちゃ嫌だぜ。皆が楽しく暮らせる日本を作ってくれなくちゃ恨むぜ・・・」
「駄目・・・、それだけは絶対やっては駄目。これは天照としての命令と私詠華としてのお願い。武さんが好き。好きなんです失いたくないです・・・・・・・・・、だから・・・」
「えい・・・か・さん・・・、詠華さんのその願い、天照のその命令、拒否する・・・・・・。その想いに対する俺の気持ちは・・・。詠華さんの事、好きかも知れないけど・・・でも・・・」
尽きる命を使い切るために十握剣の形を維持しているそれを杖に立ち上がる。俺が何をしようとしたのか気付いた詠華さんは哀しそうな表情をしながら俺の脚を掴む。それを優しく払い除けると空中へ飛び上がった。
〈聞えるか経司、俺だ、武だ。お前の命預けろじゃなくて俺に呉れっ!〉
〈フッ、しょうがないな。まあ、幼馴染みのお前と一緒なら向こうの世界も楽しいかもな・・・、経津主お前の本当の持ち主の手に還るぞ〉
(私も経司殿と一緒なら、武殿、武甕槌殿と一緒なら・・・)
俺のやる事を理解してくれる理解ある親友で幼馴染みの経司。奴は俺の傍まで飛んでくるとその肉体を媒体に経津主と混ざり合った炎魂の形となって俺の十握剣の刀身に乗った。俺の手にする剣の刀身が一度消え、本当の布都御魂の剣がそこに宿る。
「蟒蛇、俺と経司、それと武甕槌と経津主の神命をくれてやる。だから一緒に俺達と奈落に堕ちようぜ。それくらい払ってやればよっ、片道切符を十分買える金額だろう。でも往復の分は買ってやれねぜっ、逝くぞぉーーーっ!」
武甕槌は教えてくれた。憑代を必要とする者が死に逝く魂の肉体を取り込めば、その憑代を必要とした者の命も一緒に奪う事が出来ると。
蟒蛇が必要としていた鍵、天叢雲剣が餓鬼魂によって食らわれた事によりそれと似た物が必要だった。そして、それと同じ性質を持つ布都御魂剣。
「お願い・・・です・・・、その・・・、様なことは・・・、止めて・・・武さん。お兄様だけじゃなく。そんなのは・・・・・・、嫌です。武さんまでうしな・・・いたく・・・ない。経司さん、おねがい・・・です武さんに・・・・・・、チカラを・・・か・さ・・・ない・・・で」
「武、経君そんなコトをしては駄目です。これじゃ・・・、今までわたしが何のために・・・・・・、闘ってきたのか・・・わからないじゃない。お姉さんを置いて逝かないで私を独りに・・・しないで。嫌よ、こんな結末・・・」
別の場所に居る那波ちゃんと美姫姉ちゃんがその場所で怪我した体、傷だらけの体で無理して口を動かし神気を乗せた声を俺と経司に伝えてくる。だけど、剣となった経司にそれは届くはずも無いし、最後の一撃を決めるための体勢に入って集中していた俺の耳がそれを捉えることはないんだ。
そして・・・、
「ヲォオォオおおオォーーーーーーーーー、くらいやがれぇエェェェェェエェッェエエェエェッェェェッ」
俺は世が震撼するのではと言うくらいの特大怒号と共に天を翔け、八岐蟒蛇に特攻を駆けていた。布都御魂を蟒蛇の心臓に、天叢雲の代わりに突きつけてやる。憑代を必要とする者の性が死に逝く俺までも取り込もうとその触手を伸ばしてきた。してやったりって奴。
〈ダイ・・・ぢ・・・、最後の・・・・・・、仕上げ・・・は・・・、おまえにく・・・れて・・・る。しっ、し・・・・・・っかりと・・・きめてく・・・れだぜ〉
まだ少し残っている神気に声を乗せて大地にそう伝えていた。
「チッ、最後の最後に嫌な役回しやがって・・・、だけどそのパス、きっちり決めてやるよ。先に奈落で待ってろ必ず迎えに逝ってやる。良いな児屋根?」
〈・・・・・・・・・〉
「返事をしやがれ、これが俺の最後の締め、使命ってやつさ。お前も分かってんだろ。それと・・・、今まで楽しかったぜぇ。あんがとサンクス」
〈謳います、天神地祇の祝詞を・・・、封印しますあの者を。大地様、僕も大地様に・・・、アリガトサンクスです〉
「ダイちゃん、止めてっそんなコトしたらタケちゃんが・・・、ケイちゃんだって」
「うっせぇ~~~よ、集中できねえだろうがっ!黙っててくれ伊勢野先輩・・・、俺だって本当は嫌なんだっつぅ~~~の、俺様の手で大事な親友達に引導をくれてやるなんってよっ」
「だったら止めてよ!違う方法で勝つ事を考えましょうよ」
「いったい先輩の神眼には何が見えてんだ!俺達の勝利か!それとも・・・、知ってたんだろう?こうなっちまう事ぐらい・・・」
「でも、でもこんな未来、私は知りたくなかった・・・、見たくなかった・・・」
「だったらその先は・・・・・・・・・、ああ、もういい。これ以上時間喰ったら武と香取の行動が無駄になる」
『八百万、八百万、森羅万象総手乃成里立知、天乃恩恵生乎産美、地乃豊穣、育牟命。生死乃理、時賀知里、時乃理、生死乎作留。生波天上予里降里手地尓住麻伊、死波地上予里降里手底尓帰須。汝生乎迎依多奈良婆此地尓降里、汝死乎迎依志奈良婆底尓向可依、下里、降里、下里麻世』
「天神天上地祇天下封鎖冥逝。蟒蛇、堕ちやがれぇーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
『やっと、ついに六千年もの時を経て吾は甦えりをしたというのにぃーーーーーーッ。再び汝等に、貴様らによそ者に吾が地を奪われるというのかぁッ!吾が自然の摂理に何故逆らう?何故おのが欲望のままに生きぬ。何故理性に囚われる。何故、正直に生きぬ。強いものが弱いものを支配するが真の理。なぜっ、なぜだぁああああっぁぁぁあっ!グヲワァーーーーーーーーーッ』
大地が謳った天神地祇の祝詞って奴で死に掛けの俺と経司が憑代になた蟒蛇の周りに大きな円方陣が出来上がる。それと同じ紋様が頭上にもで来ていた。その二つの大円は陰と陽の光を放ちながら上下から挟むように移動していた。
「オイ、経司、冥土って言うのは俺達が知る絵空事のような世界なのか?」
「そんなもの知るか。逝って確かめればいいじゃないか。それよりも、死に逝く俺達を迎えに来るのはラッパを吹いた天使の筈なんだが・・・嘘みたいだな。まあ、いいそんなこと」
「なんだ、経司はそんな迎えが良かったのか?とりあえずこの化け物に羽が六枚も付いてんだからそれで我慢しろよ」
「仕方が無いそれで我慢してやる。・・・、武」
「経司となら・・・」
(逝こうか・・・、逝こうぜ。この化け物と一緒に・・・・・・)
『汝等・・・、奈落の都、根柢・・・・・・、吾が神殿で吾が願いを邪魔した恨み、その器とその魂の痛みを持って味わえ・・・・・・』
上下にあった大きな円は一つになり中心に向かって急速に閉じて行く。
大地が生み出した円陣が綺麗さっぱり消失したときその場所に居たはずの神皇なんて名乗っていたそれは消え去っていた。
武達が消えた跡地に、その場所に残されたものは武が握っていた十握剣の柄の部分と経司の二振りの今までの戦いで大分、使い込まれた日本刀。
それらが戦いの跡の荒涼とした大地の上に静かに佇んでいた。そして、終結の寂しさを煽るように、大切な者達を喪って心に深い傷を負った者等のその心を嘲るように一陣の突風がその地を駆け奔った。
「詠華よ・・・、いや天照大御上よ。これが天津が、汝等が天孫降臨などを行ったが故、それを最後までなし得なかった故、歴史の中の多くの人と我等が子々孫々その者達による闘争が、自然とのあり方を誤り、進んできた文明が、虐げられる怒り、悲しみ、妬みや恨み、負の念。それより出《いずる》瘴気がこの国に蔓延したが故の結果だ」
「いまさら何を申すのですか甕星・・・」
「最後まで聴け、天照。・・・我は我が宿主であるこの七星少年に降り立った時、この国の有様を知った時に汝等に酷く憤りを感じた。だがしかし、今の汝等は違う。今の天照、汝は違う。我の悔恨の念など意味は無かった。これからのこの国に汝と父殿は必要不可欠。我願うは共存を望む者達の共存。天照よ、汝にこの国の将来。来るべき・・・、を任せたぞ」
「甕星さん・・・」
「我はこの少年の器を拘束することで七星の望みを何一つかなえてやれなかった。安寧を取り戻した時・・・、一つくらいこの少年の願いを叶えてやってはくれまいか?」
「妾、天照とわたくし、伊勢野詠華に出来る事でしたら・・・」
「そうか・・・、それではこの器、人の手に返すとしようか・・・護ってくれ」
成人の姿になっていた八幡七星の姿が徐々に逆行し元の少年の姿に戻って行く。
空中にだらけるように浮くその身体を詠華が抱きとめるとその中心から淡い球体が飛び出てきた。その淡い光りの球体は詠華ではなく別の者の心の中に投げかける。
〈我を討ちし、我が宿敵、武甕槌。あの時汝に討たれた時は途方もなく口惜しかったぞ。だがそれも大昔の事か・・・、我が力のすべて今の世のために使う。我が第二の故郷のために使うとしよう。少しばかり力を貸していただきたく思う・・・〉
遠くに離れていて怪我を癒していた武はその声に導かれて痛みを堪え甕星の前まで瞬転していた。
「俺に何をさせようって言うんだ?無駄死にはさせないぜ!」
〈我がその様な愚行をするとでも思うか?武甕槌よ!我等が天国津の勝機を掴むための道を切り開く、我が合図にて我を汝の力で蟒蛇の中心に放て〉
天津甕星が武にそう言葉をかけたときに素盞鳴尊までがその場に現れる。
「甕星・・・、矢張りそこまでしないと勝てない相手。俺もそうするか・・・姉上、先に高天原帰って領域を外世界の神々から護って待ってるからよ、帰ってくるときは確りこの国の事を終えてからにしろ。そうでないと・・・、またあの頃の様に悪さするぞ・・・フッ」
「素盞鳴尊!天津甕星っ!二人して一体何をしようって言うんだ!」
「なに心配した面してやがんだ武甕槌!おれの本当の力を見せてやるだけだ。櫛名田姫の宿り主、汝の姉を確り護れよ・・・。美姫さんを大切にしてあげてください・・・」
「八坂さん?まさかそれって?・・・・・・」
「そんな顔しないでください、武君。私が口にした言葉、私自身がそれを示すだけです」
「そんなのはダメダッ!俺の道場にはまだ八坂さんが必要なんだ。俺には徹さんは兄ちゃんと同じくらい大切なんだっ!・・・それに、経司には悪いけど姉ちゃんは・・・、だから・・・」
「有難う、武君。私の事をそんな風に思ってくれて・・・、私がキミの道場と双樹さんに色々な事でお世話になってもう十八年、武君と同じ歳。それまでとても楽しい日々を送らせて貰ったよ。だけど、私は素盞鳴。成し遂げなければならない事がある。それは・・・、分かっているね?」
〈素盞鳴よ、お喋りはそのくらいにしたらどうだ?時間を無駄に費やすわけには行かぬのだぞ!〉
「そうだったな、甕星。武甕槌、後は貴様らしだいだ!見せてくれよう我が荒ぶる魂の力」
八坂徹と素盞鳴尊の両面を出しながらその場に居る者達と会話をしていたその神は武が返そうとした言葉も聞かず、その場から姿を消した。
天津甕星、武甕槌、天照の三神より離れた場所に、海中深くでその身を癒している居る事代主の勇輔。彼は神眼で素盞鳴と甕星が何をしようとするのか知ってしまったようだった。
「そこまでしないと・・・、それだけでも僕たちは勝てないんだね。だったらぼくも・・・。武君、ボクもそうするよ。だから勝ってちょうだい。そして・・・、その勝利の祝いに那波をもらってくれると僕は兄としてとってもうれしいかな。クックック、武君が僕の義妹・・・、弟になるのかそれも良いかもね。だけど、ボクが二人を祝福してやれる場所は・・・」
勇輔は独り武の女装姿を思い出し変な想像をしていた。そして、彼の独り言が武に聞えるはずも無い。
〈武甕槌、それでは我の力の儀式を行う。機を間違うでないぞ〉
「えぇえぇ、うるさい蝿共めっ!さっさと堕ちぬか!小賢しい、いまさら何をしようと無駄であろう事にまだ気付かぬか。愚かにも程がある。この様な輩に我々蜘蛛が数千年もの昔、負けたとは怨恨などと言う言葉では足らぬぞ!」
〈その負の念、我と共に消えようぞ。我が名は天津甕星、その名の真の意、今ここに示して見せよう。・・・・・・、天に遍く星々よ、その始まりは一つの点、天の大きな甕に蓄えれられし多くの光り、零れるほど蓄えられしその光り、やがて自ら放ち恒星と成らん。我、天津甕星、星の輝き最後の意、我はすべての光を食らう闇黒天・・・。今ダッ!放たれよ、武甕槌〉
「をリャァーーーァァアァッァァァァーーーーーーーーーぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁッ」
いまだ健在の蟒蛇の頭や尾の攻撃を武甕槌である武は神速移動で避けながら手に持っていた天津甕星の魂を相手の背中中央に埋め込むように押し付けていた。
〈直ぐに我から、この地域一帯から離れろ、武甕槌!瞬転で〉
武は今残っている神気をすべて瞬転の力に換えて広島の方まで退避していた。倒れている他の仲間たちは総て何をするか知っていた天照と動く者達の手によって遠くの地に送られていた。
〈父殿、どうか我々が望んだ治政を・・・、この星に。・・・・・・どれだけの瘴気を飲み込む事が出来ようか・・・、神滅昇霊!〉
「やっ、止めろぉーーーッ!ハッ、離れ、のわぁあぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁあぁああぁぁああっ」
蟒蛇の中心から超新星爆発のような煌きが周囲に放たれたと思いきやその光りはすぐに一点に収束し闇色の黒点を作る。天上には太陽が見えるというのにその周囲一帯は真夜中以上な暗闇となっていた。天津甕星は魂の力を解き放ち、自己爆発後に出来る超重力場により多くの瘴気を蟒蛇の本体から吸い込んでいた。
その行動を起した事によりその神の魂は完全に消滅してしまい高天原に還る事も黄泉の国の棺の中で眠る事も出来ずその存在を消し去っていた。
「我が名は素盞鳴尊、我があらぶる魂のその真髄を見よ、我が力の総て!」
甕星が放った力が消えるか消えないかのその刹那な時の間にその神は最高点まで高めていた神気を身に纏いながらその神だけが持つ事を許されている天十握剣で神技を放つ。それは嘗て八州神乃邑智を討ち倒した時に見せた麁正と言う技だった。その一撃は島根全体を揺るがす程の力を持つ神技。だが、その力の反射衝撃は今の八坂徹と言う器では耐え切れずにその肉体を消滅させていた。更にそれを見計らったように日本海から中国地方の海岸の長さと同じくらいの幅、大津波が徐々に狭まり、押し寄せていた。
「海は総ての命の源、我が偉大なる大波に揉まれ、その淀んだ瘴気を禊祓うっ、神海灘!」
事代主である勇輔もまたその命を代償に大きな力を蟒蛇に向けていた。
大きな波が蟒蛇を襲い多くの瘴気を流し祓いその神海水が瀬戸内海に流れ行った頃、偶然にも彼の体は武の近くに流れ着いていた。そして、それを発見する彼。
「???勇輔、オイッ、ユウスケっ!何こんな所でビショビショになってネッコロがってんだ?風邪引いちまうぜ。まったくどうしようもない那波ちゃんの兄貴・・・?また俺を騙くらかそうとしてやがんな。チッ、狸してねえでサッさっと起きてくれ。ゆうすけ、ゆうすけ・・・」
勇輔を抱き起こしながら声を出さないで空笑いする。勇輔の中から魂の波のような物を感じられない事に気付く武。
「何で勇輔がこんな事しなくちゃ成らないんだ?何で八坂さんがあそこまでしなくちゃいけないんだよ。どうして仲良くなった甕星まで・・・、ちくしょぉーーーーーーっ!」
怒りの表情で武は蟒蛇の方を向いたが・・・・・・、今までその巨体ゆえに北海道の地からでも望めたそれが今の彼がいる位置からでは確認できなかった。
武は勇輔を見晴らしの良い場所に寝かし今まで蟒蛇が放っていた魂の鼓動の波を感じ取りその場へと向かう。
弐 我の魂は親友の為に
我が命は総てのために
我が使命は真の友情が故に・・・
― 島根県・八雲村付近 ―
俺がその場に到着すると完全に傷を癒していた経司と那波ちゃんが既に来ていた。いまだ厳しい表情で警戒な姿勢を崩さない経司と那波ちゃん。二人の姿は人間姿に戻っているようだった。それは俺も同じで、それでも胸中に武甕槌の存在をちゃんと感じる。
今まで一神胴体になって武甕槌の存在を感じ取れて居なかったから今みたいな方がどうしてなのか安心する。
状況を確認するため八岐蟒蛇を眺めやる。今までと打って変わっていた。その姿は始めて戦いを挑んだ時の十万分の一まで縮んでいた。天津甕星、素盞鳴、それと事代主だった勇輔。その三神の放ったその力、魂の力の凄さというのを知る。だけど・・・・・・、もうその三人が現世界の戻ってくる事は多分ないんだ。
よく見なくても確認できるけど姿形がかなり変わっている八岐蟒蛇。緒戦の頃は八つの頭と尾それを繋げていた巨大な胴体、手も足もなかった。だけど今、俺の目に映るの蟒蛇の姿は長い首に頭一つとやっぱり一本の長い尾。胴体には両手と両足があり、足二本だけで立って俺達を見下ろしていた。そして、その背中には巨大な禍々しい羽が三対。
「那波ちゃん・・・」
「武さん、それ以上言わないでください。私と勇輔お兄様は普通とは違う兄妹なのです。言葉にしなくても・・・、それを目にしなくても・・・」
「武、俺達が感傷に浸っている暇は無い。悔いるならあいつを倒してからだ」
冷静な顔してそんな事を俺の幼馴染みは言うけどその瞳の中の輝きは怒りに燃えていた。
『脆弱なる、吾の土地の上で抗う者達よ。汝等の使命など忘れ、摂理がままに生き、そして眠れ。それを拒むのであれは静かに、そして安らかに吾の中に還れ』
「誰ダッ?!お前、陽久じゃないな?そのほかの俺の知っている蜘蛛神でもない。誰だ、貴様は」
『分からぬのか?愚かなこと。・・・外世界から来た存在よ、吾こそがこの国の神皇、太古の日本に息衝く総ての生命の産み親、八州神乃邑智である。吾が命が定着したゆえこうして具現して見せたのだ。然るに汝等がこの地の覇権をかけて吾と戦いを望むのなら吾が真の力の前に恐怖しろ。そして吾に変わり冥府に堕ちるがよい!』
「戻ってきてばっかでわりぃ~~~んだがそっちに逝くのは俺様たちじゃなくてお前さんの方だ」
「大地っ!」
「へぇえぇ~~~ン、遅れて悪かったなアイボっ!那波ッチも香取も元気そうで何よりだ。さっさとコンナ奴片付けて東京に帰ろうぜ。流石の俺も飽きてきた」
「言ってくれやがって!よぉっしっ、これが多分ラストバトルだ!絶対勝つぞ」
俺は武甕槌に何も問いかけない。だって俺の意志は其奴の意志なんだから。刀身が消えていた真・十握剣の柄に神気を込め形作る。物語の最後を決めるにはピッタリの型になってくれた。
那波ちゃんは咎滅と言う神霊剣を両手で握り、経司は二刀流で似非布都御魂を二本作っていた。そして、大地は今回は完全に護り役となって攻守一体の祝詞を謳い上げる。
初めに動き出したのは那波ちゃんだった。それに続く俺と経司、絶妙な間合いで連続に切りかかる。それとほぼ同時に別の場所から姿を見せた美姫姉ちゃんが切りかかっていた。さらに詠華さんと照神先輩の力の加護も感じだ。
次第に姿を見せてくれる闘う事の出来る仲間達。だけど、俺達は安易に考えすぎていたようだ。体が小さくなっているからってその強さまでもが小さくなっている訳じゃなかったんだ。その一点に凝縮された本当の蟒蛇の力は直ぐに駆け付けてくれていた温羅王やその下につく二人の鬼神を軽くあしらう物だった。
再び朝と昼と夜を何度も繰り返す戦闘が続き、俺達は体中怪我だらけで次の一撃を食らえば死んでしまうような瀕死の状態にあった。
今近くに蟒蛇の攻撃からかばってあげる事のできた詠華さんが俺と一緒に倒れている。俺も怪我だらけだけど彼女も見るのが痛々しいくらい酷い傷を負っていた。
「ゴメン、詠華さん。いつも口では護って見せるなんって言ってるけど・・・、このざま」
「た・・・け・・・るさん・・・・・・」
彼女の言葉はそれ以上なかった。どうしてか俺に微笑をくれる。そして、詠華さんは瞳を閉じてぐったりとしてしまった・・・。だけどまだ大丈夫のようだ。命の息づかいは感じる。
こんな状況の中まだ何とか二本足で立っている連中がいた。その連中の一番上の奴が今どんな顔を作っているのか俺は知る事は出来ない。
温羅王である卜部賢治の現在の表情、普段は穏やかで女のようにおっとりとしているその男の顔は勝つ事の出来ない苛立ちのせいか、それとも己の力の足りなさに憤りを感じているためなのか不動明王の様な憤怒の形相をしているようだ。だが、彼の口から出る声は至って平常のような感じでもある。
「これが本当の蟒蛇の力と言うものなのですか・・・、私の鬼力が通用しないとは酒顛、茨木、しばらくその命私に預け貸してください」
「餓鬼魂創ろうって言うのか?そんなんで大丈夫か」
「文句いわないの、酒顛。王の命令は絶対ですよ」
「ヘイ、へいそうでしたね・・・」
「私の鬼眼で見えたのですが他の人の目には捉えられない速さで現世と常世を逝ったり来たりしているみたいです。ですから多分、蟒蛇の命だった天叢雲がまだ完全にあの体に定着していないのでしょう。餓鬼魂でそれを食い潰せば後は天国津の皆さんが何とかしてくれるはずです」
「まだ戦える方々の命がついえる前に・・・」
温羅王は同族二人から送られる鬼力を己の鬼力と練り混ぜ野球の球くらいの大きさの黒い光を放つ光弾を作っていた。
温羅王は蟒蛇の隙をうかがい襲い来る攻めを躱しながら好機を見計らっていた。
『賢しい、隠忍族よ。汝等に吾が地で息衝くことはもう許さぬ。奈落の底、その地で同族と共に争いながら暮らせ。堕ちよ・・・、堕ちるのだ』
「嫌ですよ、せっかく人様と仲良く暮らさせてくれると天津国の皆さんが保障してくれたのに。貴方こそもうお呼びではないのです。ですから潔く、その穢れと共に冥府へとお帰りください」
餓鬼魂と呼ぶ光弾を食らわす隙を見た温羅王は蟒蛇の心臓がある辺りにそれを食らわした。
『吾に何かしたのか鬼神の王よ?痛みなどか・・・・・・、どうしたという事だ?こっ、これは吾が肉体が・・・』
「無駄ですよ、いくら貴方が強くてもやはり完全体ではない今・・・、餓鬼魂よ、現世と常世を繋ぐその鍵を食らいつくしなさい。・・・・・・これで私の役目も終わりです。・・・、しばらくやすませて・・・」
温羅王はその場に倒れ鬼神本来の姿から人の姿、卜部賢治に変わって行く。
『幹久、陽久・・・、どこにおる?今一度吾の憑代となれ・・・』
しかし、その二人の返事は返って来ない。なぜなら素盞鳴尊と天津甕星、事代主により魂ごと消滅させられてしまったからだ。そして、その二人に二度と復活はない。
「武甕槌・・・、そうか。そんなコトが出来るのか。・・・良いのか?そんなコトしたらお前も一緒にだぜ?」
〈何度も言わせるな武。私の意思と汝の意志は同じ物。汝がそれを求めれば、私もそれを望む〉
「ソンじゃァ、最後の蹴りをつけようか。・・・、詠華さん・・・、天照大神・・・・・・、絶対、絶対勝って見せるからもう間違いを起こしちゃ嫌だぜ。皆が楽しく暮らせる日本を作ってくれなくちゃ恨むぜ・・・」
「駄目・・・、それだけは絶対やっては駄目。これは天照としての命令と私詠華としてのお願い。武さんが好き。好きなんです失いたくないです・・・・・・・・・、だから・・・」
「えい・・・か・さん・・・、詠華さんのその願い、天照のその命令、拒否する・・・・・・。その想いに対する俺の気持ちは・・・。詠華さんの事、好きかも知れないけど・・・でも・・・」
尽きる命を使い切るために十握剣の形を維持しているそれを杖に立ち上がる。俺が何をしようとしたのか気付いた詠華さんは哀しそうな表情をしながら俺の脚を掴む。それを優しく払い除けると空中へ飛び上がった。
〈聞えるか経司、俺だ、武だ。お前の命預けろじゃなくて俺に呉れっ!〉
〈フッ、しょうがないな。まあ、幼馴染みのお前と一緒なら向こうの世界も楽しいかもな・・・、経津主お前の本当の持ち主の手に還るぞ〉
(私も経司殿と一緒なら、武殿、武甕槌殿と一緒なら・・・)
俺のやる事を理解してくれる理解ある親友で幼馴染みの経司。奴は俺の傍まで飛んでくるとその肉体を媒体に経津主と混ざり合った炎魂の形となって俺の十握剣の刀身に乗った。俺の手にする剣の刀身が一度消え、本当の布都御魂の剣がそこに宿る。
「蟒蛇、俺と経司、それと武甕槌と経津主の神命をくれてやる。だから一緒に俺達と奈落に堕ちようぜ。それくらい払ってやればよっ、片道切符を十分買える金額だろう。でも往復の分は買ってやれねぜっ、逝くぞぉーーーっ!」
武甕槌は教えてくれた。憑代を必要とする者が死に逝く魂の肉体を取り込めば、その憑代を必要とした者の命も一緒に奪う事が出来ると。
蟒蛇が必要としていた鍵、天叢雲剣が餓鬼魂によって食らわれた事によりそれと似た物が必要だった。そして、それと同じ性質を持つ布都御魂剣。
「お願い・・・です・・・、その・・・、様なことは・・・、止めて・・・武さん。お兄様だけじゃなく。そんなのは・・・・・・、嫌です。武さんまでうしな・・・いたく・・・ない。経司さん、おねがい・・・です武さんに・・・・・・、チカラを・・・か・さ・・・ない・・・で」
「武、経君そんなコトをしては駄目です。これじゃ・・・、今までわたしが何のために・・・・・・、闘ってきたのか・・・わからないじゃない。お姉さんを置いて逝かないで私を独りに・・・しないで。嫌よ、こんな結末・・・」
別の場所に居る那波ちゃんと美姫姉ちゃんがその場所で怪我した体、傷だらけの体で無理して口を動かし神気を乗せた声を俺と経司に伝えてくる。だけど、剣となった経司にそれは届くはずも無いし、最後の一撃を決めるための体勢に入って集中していた俺の耳がそれを捉えることはないんだ。
そして・・・、
「ヲォオォオおおオォーーーーーーーーー、くらいやがれぇエェェェェェエェッェエエェエェッェェェッ」
俺は世が震撼するのではと言うくらいの特大怒号と共に天を翔け、八岐蟒蛇に特攻を駆けていた。布都御魂を蟒蛇の心臓に、天叢雲の代わりに突きつけてやる。憑代を必要とする者の性が死に逝く俺までも取り込もうとその触手を伸ばしてきた。してやったりって奴。
〈ダイ・・・ぢ・・・、最後の・・・・・・、仕上げ・・・は・・・、おまえにく・・・れて・・・る。しっ、し・・・・・・っかりと・・・きめてく・・・れだぜ〉
まだ少し残っている神気に声を乗せて大地にそう伝えていた。
「チッ、最後の最後に嫌な役回しやがって・・・、だけどそのパス、きっちり決めてやるよ。先に奈落で待ってろ必ず迎えに逝ってやる。良いな児屋根?」
〈・・・・・・・・・〉
「返事をしやがれ、これが俺の最後の締め、使命ってやつさ。お前も分かってんだろ。それと・・・、今まで楽しかったぜぇ。あんがとサンクス」
〈謳います、天神地祇の祝詞を・・・、封印しますあの者を。大地様、僕も大地様に・・・、アリガトサンクスです〉
「ダイちゃん、止めてっそんなコトしたらタケちゃんが・・・、ケイちゃんだって」
「うっせぇ~~~よ、集中できねえだろうがっ!黙っててくれ伊勢野先輩・・・、俺だって本当は嫌なんだっつぅ~~~の、俺様の手で大事な親友達に引導をくれてやるなんってよっ」
「だったら止めてよ!違う方法で勝つ事を考えましょうよ」
「いったい先輩の神眼には何が見えてんだ!俺達の勝利か!それとも・・・、知ってたんだろう?こうなっちまう事ぐらい・・・」
「でも、でもこんな未来、私は知りたくなかった・・・、見たくなかった・・・」
「だったらその先は・・・・・・・・・、ああ、もういい。これ以上時間喰ったら武と香取の行動が無駄になる」
『八百万、八百万、森羅万象総手乃成里立知、天乃恩恵生乎産美、地乃豊穣、育牟命。生死乃理、時賀知里、時乃理、生死乎作留。生波天上予里降里手地尓住麻伊、死波地上予里降里手底尓帰須。汝生乎迎依多奈良婆此地尓降里、汝死乎迎依志奈良婆底尓向可依、下里、降里、下里麻世』
「天神天上地祇天下封鎖冥逝。蟒蛇、堕ちやがれぇーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
『やっと、ついに六千年もの時を経て吾は甦えりをしたというのにぃーーーーーーッ。再び汝等に、貴様らによそ者に吾が地を奪われるというのかぁッ!吾が自然の摂理に何故逆らう?何故おのが欲望のままに生きぬ。何故理性に囚われる。何故、正直に生きぬ。強いものが弱いものを支配するが真の理。なぜっ、なぜだぁああああっぁぁぁあっ!グヲワァーーーーーーーーーッ』
大地が謳った天神地祇の祝詞って奴で死に掛けの俺と経司が憑代になた蟒蛇の周りに大きな円方陣が出来上がる。それと同じ紋様が頭上にもで来ていた。その二つの大円は陰と陽の光を放ちながら上下から挟むように移動していた。
「オイ、経司、冥土って言うのは俺達が知る絵空事のような世界なのか?」
「そんなもの知るか。逝って確かめればいいじゃないか。それよりも、死に逝く俺達を迎えに来るのはラッパを吹いた天使の筈なんだが・・・嘘みたいだな。まあ、いいそんなこと」
「なんだ、経司はそんな迎えが良かったのか?とりあえずこの化け物に羽が六枚も付いてんだからそれで我慢しろよ」
「仕方が無いそれで我慢してやる。・・・、武」
「経司となら・・・」
(逝こうか・・・、逝こうぜ。この化け物と一緒に・・・・・・)
『汝等・・・、奈落の都、根柢・・・・・・、吾が神殿で吾が願いを邪魔した恨み、その器とその魂の痛みを持って味わえ・・・・・・』
上下にあった大きな円は一つになり中心に向かって急速に閉じて行く。
大地が生み出した円陣が綺麗さっぱり消失したときその場所に居たはずの神皇なんて名乗っていたそれは消え去っていた。
武達が消えた跡地に、その場所に残されたものは武が握っていた十握剣の柄の部分と経司の二振りの今までの戦いで大分、使い込まれた日本刀。
それらが戦いの跡の荒涼とした大地の上に静かに佇んでいた。そして、終結の寂しさを煽るように、大切な者達を喪って心に深い傷を負った者等のその心を嘲るように一陣の突風がその地を駆け奔った。
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