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第 二 章 変わり行く何か

第九話 遊びに行こう!

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 それはこの俺が住んでいる所で冬の寒さが最も厳しくなる頃だった。

2003年2月12日、水曜日

「ネェ、ヒロユキィ~~~、来週の水曜日私やっと暇とれたんだぁ。どっか、遊び行こうよぉ~~~!」
「えぇ、俺その日バイトだぜ」
「嘘おっしゃい!アンタその日バイト入っていないでしょ!」
「チッ、香澄、知ってたか」
「当然!」
 いつの頃からか自分の元彼女、凉崎春香は忘却の彼方へ追いやられ、隼瀬香澄が俺の恋人になっていたんだ。
 香澄と一緒に共有する時間は多かったんだけど二人一緒にどっかに遊びに行くってのは少なかった。
 それに俺のバイトも香澄の仕事も休みが不定期で二人一緒に休みがとれる事は稀だ。
「わぁ~~~ったよ、その日は一緒にどっか行こうな」
「アリガト、宏之。チュッ」
 香澄はそう言うと頬に優しくキスをくれた。
 悪い気はしない。彼女のそんな行為にとりたて照れる事はなく素で言葉を返す。
「行く場所は俺に決めさせてくれ」
「宏之とだったらどこ行っても楽しいと思うからそれでいいわよ」
「ホントか?だったらホラー映画やホラー関係のアトラクションでもいいのか?クククッ」
 そう口にしてから香澄を小馬鹿にする表情を作って見せた。
「わぁ~~~ん、酷いヨ宏之、アタシがそう言うの嫌いだって知っているくせにぃ」
 彼女は可愛らしく半泣きの状態でそう訴えてきた。
 香澄の表面上の性格は一見きつそうで突っぱねている様に見えるんだけどそんな事はなかった。
 凄く女らしい事を彼女と付き合い始めて良く知った。
 どこに行くかの話の後、香澄の作ってくれる夕食を食べる。
 彼女の作る料理は俺の味の好みを知っているのか今まで一度も不味いと思った事ない。
 それにたまに彼女は手作りで甘いお菓子とかも作ってくれる。
 甘党の俺にとってそれは凄く嬉しかった。
 でもたまに香澄は彼女が作った料理と彼女の幼馴染み、藤宮詩織との物を比較して溜息を吐く事があったんだよな。
 香澄の料理だってかなりイケてるのにそんな事を言う彼女がとても愛しくてたまらなかった。
 夕食後は二人して恥ずかしげもなく風呂に入って、お互いに体を流しあう。
 それが終わるとベッドに入り夜の営みをした。
 週に二、三回、香澄はこの家に泊まって次の朝を向かえていた。
 こんな感じで香澄と半同棲生活をしていたんだ。

2003年2月19日、水曜日

 香澄と遊びに行く約束をして一週間が経つ、そして、それが今日だった。彼女と行く場所を既に決定していた。
 テーマパークに行く事にしていたんだ。
 テーマパークって休日はどうしても混雑するからこういった平日の方がより多く楽しめるだろうとおもって。

電車でその目的地に移動中

「ネェ、宏之今からどこへ行くの」
「ホラーハウス」
『ゲシッ☆』
「冗談言わないでどこ行くかちゃんと教えてよ!」
 香澄は俺の胸に裏拳を入れながらそんな言葉を口にしてくれる。
「痛ってぇなぁ、手加減って物を知らないのか?」
「う・る・さ・い、アンタが笑えない冗談言うからでしょ?」
「チッ、仕方ネェな、教えてやるよネオ・ジム・シティーってところ。香澄も知っているだろ?」
「えっ、ホントに今からそこに行くの?」
 彼女は本当に嬉しそうにそう聞き返して来た。
「行って確認してみりゃ嘘か本当か直ぐ分かるぜ」
 俺と香澄はそんな会話をしながら約一時間掛けてそのテーマパークに向かった。

*   *   *
 暫くして、その目的地に到着、
「どうだ、俺の言った事、嘘じゃなかっただろ?」
「やったぁ~~~、宏之、ぶっ倒れるまでとことん付き合ってもらうわよ」
「ヘイ、ヘイ」
 今、俺達が来ているネオ・ジム・シティーってテーマパークは近未来やファンタジーな世界のスポーツを想定したアトラクション・テーマパークだ。
 香澄が体を動かす事を好きなのを知っていた。
 ここへ連れてこればきっと喜ぶだろうと思ってここへ来る事に決めたんだ。彼女の顔を覗く、マジで嬉しそうだ。
「・・・?どうしたの宏之」
「楽しそうだなって思っただけだ」
「ニャハッハッハッ、だってすっごく、嬉しいんだもん」
 彼女は元気に笑いながらそう言ってきた。
「こんな所に突っ立ってても仕方がない中に入ろうぜ」
「うん!」
 香澄の頷く顔を見てからチケットブースで一日フリーパスを二枚買い、彼女と一緒にその中へと入って行った。

*   *   *

「香澄、よそ見してっとぶつかるぞ、あらヨット」
「アンタに言われたくないわ。それっ」
 俺達は四方八方から飛来してくる色々な物を避けながら足を先に進めていた。
 いま、俺達がプレイしているアトラクションはグラヴィティー・ギアと言うもので地球より重力が低い惑星の中、色んな障害を飛んだり跳ねたりして避けながら決められた目的地にどれだけ早くそして、どれだけ障害を避け辿り着けるかを競うゲームで最大12人が同時に参加できる。
 香澄は障害を軽やかに避けていく。それに対して俺は既に何回か障害に激突していた。
 更に、どんどん彼女は俺を置いて先に進んで行く。俺は迫り来る障害をギリギリでかわしながらなんとゴールに辿り着いた。
「ハァ、ハァ、ハァ、しんど」
「宏之、やっとついたのね・・・?若しかして、もうばてたの?だらしないわネェ~~~ククッ」
「うっせぇ、だまれ!」
「ニャハハハハハッ」
 彼女はそんな俺を見て笑っていた。
 俺が到着後、同時に参加した残りの連中が到着し、最後の奴がゴールに足を踏み入れるとイベンターが登場しこのゲームの順位を発表してくれた。
 なんと香澄が一着を取っていたのである。さすがスポーツ娘。
「さすがだな香澄!」
「エヘヘ、凄いでしょ」
「すげぇ、すげぇ、俺はあいつか、そいつあたりが一着だと思ってたんだが」
 そう口にすると同時にその他の参加者の方に目を向けた。
「あの二人ね、アタシが到着すると殆ど同じぐらいここへ来たわ。僅差って奴ね。宏之の順位、アンタにしては上出来なんじゃない、アハハハッ」
 香澄の奴はそう言ってから最後に可愛く笑っていた。その俺の順位とは良くも悪くもなく真ん中の6位だった。
 次に俺達が向かったアトラクションはスペース・ボールと言う球形上フィールド内の重力サッカーだった。
 女の子がサッカーをやるってのはそれ程多くないと思うけどヤッパリ香澄は凄かった。
 2チームに分かれ彼女とは敵同士。
 男VS女の対決。
 チームは七人構成。アタッカー三人、ディフェンダー三人とキーパー一人。
 俺はキーパーをする事になった。
 こちらに集まった連中結構上手そうに見えた。実際上手かったんだけどな。
 向こうの女どももかなりの熟練者だった。
 若しかして香澄以外の彼女たちはどっかの女子サッカーチーム、若しくはフットサルの連中かと思わせるほどだった。
 そんな中にいても香澄、彼女は全然見劣りしない。
「これでどう」
「あまいぜぇ!」
 全天球フィールドだったからどこからシュートが来るのか予想が難しかった。しかし昔、剣道で鍛えた反射神経は伊達じゃない。少し重めのボールを両手でしっかり受け止める。
「ナイスキャッチ!」
 チームメイトが俺にそう言ってくれると壁を蹴って、上手い具合にそのボールを投げてパスをする。
 このゲームは前半後半合わせて一時間一〇分にも及ぶ、途中二〇分休憩を入れ、試合は終局へと近づいていた。しかし、互いに一歩も譲らず0対0のままだった。
 彼女達のシュート回数が少なかったわけじゃない。ディフェンダーの連中が上手くカットしていた。
 若し抜かれたとしても俺の上手い守護でそのシュートを止めていた。
 こちらの攻撃は相手に対して多いとは言えなかった。
 なぜなら向こうはアタッカーも良いタイミングでディフェンスに入るからシュートの機会を潰されてしまっていた。
『プップゥーーーン』と終了を告げる電子音がフィールド内に響きわたる。
 試合の結果は?・・・、1対0で俺達男チームの勝ち!
「やったぜぇ!おれ達の勝ちだぁーーーーーーッ」とみんなガッツポーズを決めながら笑顔を浮かべていた。もちろん俺もそうしていた。
「あぁ~~~ん、悔しい、何よぉー最後のあれはぁ~~~~」と悔しがるようにそう俺達に相手の女たちは言って返してきた。
 最後の得点は奇策に近かった。
 相手が最後のシュートを放ってきた時、殆ど時間は残されていなかった。だから俺はキャッチと同時にそれを味方中央に投げ、賭けで俺も攻撃に参加した。
 それの意が分かったのかディフェンダー陣も俺に続き怒涛のように女チームへと雪崩れ込んだ。
 最後は俺がパスしたボールに味方が上手く無重力オーバーヘッド?を決め時間ギリギリに点を取る事に成功したんだ。
 試合後はみんなと握手し、このフィールドを後にした。
 丁度このアトラクションを終えた時昼を向かえていたので香澄と一緒にパーク内のレストランで昼食を食った。
 昼食後三〇分ぐらい食後の休憩を取り次の場所へと向かっていた。
 辿り着いた場所にはホバー・ホッケーと大きく書かれた看板が立ててあった。
 この中に入っても香澄と敵対する事になった。
 ホバー・ホッケーとは超伝導技術を利用したシューズを履きホバー移動しながらホッケーをするというものだった。
 なかなかどうしてホバー移動が難しく俺は上手くいかないんだ。それの所為で何回転んだ事か?そんな俺を見て香澄は遠くから笑っていたような気がした。
 彼女は、というと既に慣れたか我がモノ顔でフィールドを移動して巧みにパス、ガードそれとショットをしていた。
 両チームの激しい攻防も決着がつきゲームを終えていた。
 結果は惨敗ではなかったが俺がいた方のチームが負けた。・・・、原因は俺にあるような気がしたけど気にしないことにする。しかし、
「ニャハッ、宏之のチーム負けたのアンタのせぇね」
 そんな事をいいながら猫のような笑いをして俺を馬鹿にして来た。
「いてぇとこつくなぁ~~~でも良いさ、さっきのスペボーで大活躍だったから」
「ナハッ、さっきと今ではえらい違いね」
 そんな会話を交えながら休憩も入れず次々とパーク内のアトラクションを楽しんで行った。
 メテオ・クラッシュ。バーチャル空間に飛来してくる隕石をパンチ、キック、ボディーアタック、何でもありって感じで破壊して、決められたライフゲージが尽きるまで点数を稼いで行くアトラクション。
 ランダム・ラケット。テニスのようでテニスでないゲーム。打ち返すとまるで生きているかのようにどこに飛び跳ねるか分からないボールを使ったテニス。
 オーバー・ザ・ギャラクシー。一種のホームラン競争。合計三〇球放たれるその球をどれだけ遠くの銀河に打ち飛ばせるかを競うバーチャルゲーム。
 ハイパー・ダンク。ジャンプシューズと言う普通の三、四倍も高くジャンプできる靴を履き3on3でやるバスケットボール。もちろんリングの高さも異常に高かった。
 ギガ・スパイク。地底から現れる怪物をバレーボールのスパイクショットで次々と薙ぎ倒して行くゲーム。この時の香澄は非常に怖かった。出てくる奇怪な化け物を毛嫌いするように恐ろしいほどの力を入れたスパイクショットで倒すのではなく破壊していた。彼女がどれほどそういった類の物か嫌いなのが分かった。
 彼女に怪談話でもしようモノなら殺されちまうかもな。
 剣術バーチャル・シュミレーション・・・、いや違ったシミュレーションで二人一組になって複数の対戦相手と同時に戦うゲーム、その会場前に立っていた。
 俺は香澄の顔を窺いながら、如何しようか、決めかねていたが、
「よぉ~っし、そんじゃぁ、とらいしてみますかねぇ」
 左肩が思わしくないのを忘れて、そんな風に香澄に言葉を向けると、彼女を中へと促した。
 建物の中に入ると、ゲームに使用する専用の道具が並べられていた。
 剣術体感ゲームだけど、武器は剣だけじゃなく他にも用意されていたが俺は迷わず剣を選んだ。
 香澄はと言うと・・・、俺の予想を裏切ることなく両手に棘付き手甲と蹴られたら穴でも開きそうなブーツを履いていた。だけど、今俺達が見えているものは全てバーチャル。

 対戦相手も直接打撃を与えるんじゃなくてコンピューターグラフィクに変換されたそれに向かって攻撃する。
 本当に凄い技術だ。世の中の進歩ってすげぜ。
「香澄、俺の足を引っ張るなよ」
「アンタこそ、へましないでね」
 俺達は既に攻撃態勢に入っていた。
 ゲーム開始を知らせる音が聞こえると俺も彼女も迷わず同じ敵ペアに攻撃を開始した。別に彼女に合図を送ったわけじゃない。
「ハァーーーっ、面、面、突き、小手、小手、胴ぉーーー」
 相手に一瞬に隙を見せることなく、連続攻撃を仕掛けていたんだ。
「エィ、エィ、ヤァ、トウ、ハッ」
 俺が相手にしている敵のパートナーに対してそいつの防御をはじく様に彼女も小刻み良い気合とともに拳と蹴りを繰り出していた。
 相手のライフゲージが急減して行くのが表示されているライフゲージで確認できた。
 俺達はノーダメージのまま一組のペアを倒していた。
 其れを見た他の対戦相手がペアを組んで俺と香澄に挑んできた。
 2対4、しかし、怯むことをしないで斬り付ける。
 戦いの最中に香澄が隙を見せて攻撃を喰らいそうになった。だけど、俺がその攻撃相手に剣撃を加えそれを阻止。その時、俺も隙が出来ちまうが彼女が鋭い蹴りで庇ってくれていた。
 俺も彼女も息の合った攻防でそのタッグを打ち倒して行った。
 その後も俺達二人は戦神が如くの勢いで全ての相手を薙ぎ倒していた。
 俺達もライフギリギリでこのゲームの勝利を得たんだ。
 剣技を知っている俺に比べると相手は素人だった。
 左肩を上手く使えなくとも、それが丁度、相手に対するハンデとなっていたから、かなり楽しめた。
「やたねぇ宏之、あたし達が一番よ」
「おぉ、当然だぜ、香澄!」
 彼女と俺はそう言い合いながらお互いの手のひらを打ち鳴らしていた。
 このゲームを終えた時、既に午後10時を過ぎていた。
 ここのアトラクションは24時間経営だから閉園の心配をする事はなかったんだけど明日の俺のバイト、香澄の仕事を心配して帰宅する事にした。
「香澄、そろそろ帰ろうぜ」
「そうね、明日は仕事だし。これ以上体動かしたら仕事に影響出ちゃうもんね」
 俺も彼女も冷たいドリンクを飲みながらそんな事を口にしていた。
 冬だというのに体を普段以上に動かしたから汗だくだくだった。
 俺達は元着ていた服に着替えてから借りていた衣装を返却して家路へと向かった。
 国塚駅のホームで彼女と別れ、そのまま電車に乗って自分の住む立那珂市へと向かった。そして、自宅に着くと急に疲れが出てきてしまったんだ。
「グヘェ~~~、なんとなく筋肉痛っぽい。こんな事なら連休とっておけば良かった」
 そんなぼやきの言葉を口にしていた。それからは風呂に入り、良く体をストレッチしてからベッドの中へと潜り込んでいた。
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