シーラカンスと黒い翼

石谷 落果

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case0 プラント=クシー

風壊⑤

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 『風壊』が起こったその日、アマランガ海岸を沿った、天に張り付くような青空と対面しながらクシー博士は口を開いた。
「プラントは支配能力による苦しみがこれから先もずっと続くと思い込んでいるかもしれない。しかし、私の見立てでは近いうちに必ずコントロールできるようになる。その根拠に意思を持たない支配能力は一定レベルまで人間の意識下で調節が可能となっている。人類は常に人知を超えた試練と対面し、打ち勝ってきた。意思を持った支配能力にも必ず突破口がある」
 クシー博士は空と海を凝視しながら、そう言うと、プラントをアマランガの砂浜に座らせた。
 プラントは生まれてから一度も学校へ行っていない。当時、支配能力を持った子どもは皆そうだった。プラントはあまりにも普通とは異なる生活をしている。苦しみに耐え続けたプラントはもう10歳になっていた。
「仮定の話はしたくない」
 枯れてしまった水道を絞り出すような声だった。
 クシー博士はしばしの沈黙の後に「すまない」と小さく呟いた。
 すると、脇腹が急に重たくなった。プラントがぐっと体重をかけていた。
「……叶うなら、パパと一緒にこの力について研究したい」
 クシー博士を見上げるプラントの瞳が、いつの間にか妻とそっくりなコルク色になっていることに、彼はこの時初めて気がついた。
 妻は今の二人を見て何を思うのだろうか。クシー博士の脳裏には聡明だった彼女の人格が、今でも鮮明に蘇る。ただし、そんな彼女に尋ねても、ただ静かにこちらを眺めているだけで、答えてはくれない。ただ、生前によく歌っていた鼻歌が微かに聞こえたような気がした。
「ダメなの?」
 妻との対話に夢中になっていたクシー博士はプラントが心配になる程に沈黙していた。
「私がそう言うと思うかい?」
「思わないから聞いたんだ」
 クシー博士のシャツにプラントの顔が埋まった。心地よい温もりだった。
 そんなわずかな幸福を噛みしめている時だった。
 ふらりと海へ向かっていく少女の姿が二人の目に映った。
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