シーラカンスと黒い翼

石谷 落果

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case1 ウツミ・ルイ

雨と涙と金糸雀②

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 ぼくは自分が知っている限り、パールの知識をレシェルメイダへ話した。真球は養殖でしか作れないこと。柔らかくて傷つきやすいのでバッグなどに直接入れないこと。汗や酸に弱いため、身に付けた後は汚れを拭き取ること。
 まるで独り言のように続けた。
「ちなみにこの店で扱っているのはアコヤ真珠ではなく、淡水真珠です。メジウ湖の一区画を利用させてもらって養殖しています。淡水パールは決してイミテーションではないですよ。品質は海で養殖されたものと変わりません。むしろ、海水で養殖したものより劣化しにくいで、メリットの方が大きいです」
「詳しいのね」
 レシェルメイダは覗き込むような姿勢で口角をゆっくりと持ち上げた。
 ぼくは頬が熱くなった。
「ごめんなさい、久しぶりのお客さんだからつい話しすぎました」
 退屈と孤独から解き放たれた人間はどうしても饒舌になる。柔らかな笑みを崩さないレシェルメイダにただただ見つめられ、ぼくは目を逸らしながらショーケースの鍵を開けた。手袋を嵌めて、目当ての品を取り出す。
「この店で1番高価かもしれないですよ」
 布手袋の上に置かれた真球のパールは、夜のメジウ湖に浮かび上がる霧のような乳白色に輝いている。
「お幾らかしら?」
「15,000UKです。後は加工次第です」
「イヤリングがいいわ」
「それなら、25,000UKで承ります」
 レシェルメイダは肩に垂れ下がる金糸雀色の髪を優しく触った。
「……お時間かかりますか?」
 少女の3歩後ろで沈黙を保っていた青年が尋ねた。
「父がもうすぐ戻ってくるので30分ほどで……」
 ぼくはそう言ってから、青年が15分しか時間が取れないとレシェルメイダへ伝えていたことを思い出した。
 レシェルメイダが目配せすると、青年は首を横に振った。
「だったら、このままで大丈夫よ」
 ぼくは胸を撫で下ろした。これで今日の夕飯にはプリンが付くかもしれない。
 支払いを終えると、レシェルメイダは柔和な笑みを維持したまま、左掌に買ったばかりのパールを乗せた。ルイはキャッシュドロアに売上金を仕舞いながら、その様子を見ていた。
「ケースを用意しますね」
 ルイがそう言ってバックヤードへ向かおうと背を向けた。
「いいえ、必要はないわ」
 呼び止められ、振り返ったぼくは、今もまだ掌を凝視しているレシェルメイダの姿に驚いた。ぼくが正確な大きさの超純水の球を生成するときと似た仕草だったからだ。
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