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case1 ウツミ・ルイ
ミクモ・エノは空を飛ぶ①
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翌日、ぼくは普段通りにプライマリースクールへ登校した。隣町に幻子生命体が出現したくらいでは、この国の社会活動は止まらない。一部の地域に避難警告が出されるも非該当区域の住民は皆、少しの不安を抱えながら従来通りの日常を送る。通学経路の途中にあるブルーベリーパイが人気のパン屋は相変わらず、いい匂いを漂わせているし、学生で埋め尽くされた通学バスはレトロな白い煙を吐いている。石畳を早足に歩くトレンチコートを着た会社員たちは、ぼくを楽々と追い越して風を切って職場へ急ぐ。
ぼくもクラスで任されている仕事があるので、怯えて休むことはせず、確実にこなさなければいけない。
仕事というのは、教室の花瓶の水を入れ替えること。支配能力のイメージのせいで万年水やり当番に指名されている。たまたま花を愛でる感性を持ち合わせていたので、苦痛ではないが、店番同様に退屈ではあった。
ぼくは退屈なこの仕事に生きがいを見出すため、こっそりと対照実験を行なっている。教室には二つの花瓶が置かれている。どちらも同じ店舗で購入した同じ構成の花束である。ひとつにはスクールの水道水を注ぎ、もう片方に水道水と硬度、カルキ濃度を一致させた支配能力で生成した水を注いでいる。つまり、ぼくは自身が生成した水に生命を維持する能力があるのかを調査している。
教室に着くと、生徒は一人もいなかった。
父がパールの状態を確認するために、朝早くからメジウ湖へ出かけるので、ぼくもつられて登校時間が早くなった。
一番乗りの教室は等間隔で敷き詰められた机から立ち込めるフィトンチッドの香りで充満している。ぼくは大きく深呼吸をして人工的な森林浴を満喫すると、窓をすべて開ける。換気するのは衛生上必要なことで、この空間を独り占めしているわけでは決してない。
そして、自分の机にカバンを置くと、仕事に取り掛かった。
日ごとに二つの花瓶の位置を変えている。場所によって日の当たり方、風の通り方が異なるので、実験に支障が出てはいけないからだ。
ぼくは水を捨てると、片方に水道水を入れ、もう片方に自分が生成した水を入れる。指先を如雨露に見立てて、三本の指の先端からゆっくりと水を注ぐ。傍から見ると塩を摘まんでいるように見えるかもしれない。水を入れ終わると、花瓶を持って教室へ戻る。
ふと、昨日のことを思い出した。父の実家が養殖している淡水パールを購入していったプラチナを操る金糸雀色の少女。
正体は不明のままだ。
「そういえば、またテレビをまともに観ていなかったなあ」
メリアが意味深なことを言ったのに気を取られ、牛すじカレーを食べているうちに忘れてしまった。
もしかしたらエノならわかるかもしれないな。女子はテレビの話題が好きだから。
ぼくもクラスで任されている仕事があるので、怯えて休むことはせず、確実にこなさなければいけない。
仕事というのは、教室の花瓶の水を入れ替えること。支配能力のイメージのせいで万年水やり当番に指名されている。たまたま花を愛でる感性を持ち合わせていたので、苦痛ではないが、店番同様に退屈ではあった。
ぼくは退屈なこの仕事に生きがいを見出すため、こっそりと対照実験を行なっている。教室には二つの花瓶が置かれている。どちらも同じ店舗で購入した同じ構成の花束である。ひとつにはスクールの水道水を注ぎ、もう片方に水道水と硬度、カルキ濃度を一致させた支配能力で生成した水を注いでいる。つまり、ぼくは自身が生成した水に生命を維持する能力があるのかを調査している。
教室に着くと、生徒は一人もいなかった。
父がパールの状態を確認するために、朝早くからメジウ湖へ出かけるので、ぼくもつられて登校時間が早くなった。
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そして、自分の机にカバンを置くと、仕事に取り掛かった。
日ごとに二つの花瓶の位置を変えている。場所によって日の当たり方、風の通り方が異なるので、実験に支障が出てはいけないからだ。
ぼくは水を捨てると、片方に水道水を入れ、もう片方に自分が生成した水を入れる。指先を如雨露に見立てて、三本の指の先端からゆっくりと水を注ぐ。傍から見ると塩を摘まんでいるように見えるかもしれない。水を入れ終わると、花瓶を持って教室へ戻る。
ふと、昨日のことを思い出した。父の実家が養殖している淡水パールを購入していったプラチナを操る金糸雀色の少女。
正体は不明のままだ。
「そういえば、またテレビをまともに観ていなかったなあ」
メリアが意味深なことを言ったのに気を取られ、牛すじカレーを食べているうちに忘れてしまった。
もしかしたらエノならわかるかもしれないな。女子はテレビの話題が好きだから。
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