26 / 35
case1 ウツミ・ルイ
ある湖畔にて、透明度140mほど⑦
しおりを挟む
すでに視界はライト無しでは暗黒だった。水温も氷点下へ近づいているためか、水の動きに重さを感じるようになった。すでに湖底は目の前に迫っていた。
エノの息遣いがよく聞こえる。静謐な水底で、人の呼吸は似つかわない。
「着いたね」
エノが息を飲むようにそう言った。
きめ細かい泥が敷き詰められた湖底は、時が止まっていた。
「ちょっと触りたくないな」
ぼくは湖底に触れないように、ギリギリの高さを移動した。水の浄化に伴って、湖底もお掃除ロボットを走らせたように、枯れ木や生物の死骸が無くなっていた。時折湖へ飛び込む、人間の骨さえも。
ただただ湖底一面に飴色の無機物が敷き詰められている。
湖の藻屑も、もれなく無くなっていた。こんなにも綺麗になった湖底を巻き上げてしまったら、何かに祟られたとしても不思議じゃない。
ぼくたちは運良く引き込まれずに済んでいるが、やはり湖の生きている生物は一定の方角へと向かっている。笹の葉みたいな魚だけでなく、固有種のエビやナマズも同様に逆走していた。
彼らの向かう先へライトを照らしても続いているのは黒い世界だった。
なぜ、ぼくたちは例外なのか。その答えは突き止める必要がある。しかし、今回はここまでだ。
「エノ、もう酸素が尽きる。君が緊張しているから余計にね」
エノは口を膨らませている。
「あーあ、わたしのせいにしたね。今度、空から叩き落としてやるわ」
「エノは優しいからそんなことできないさ。もしも、一時の気の迷いで叩き落としてしまってもすぐに我に返って助けてくれる」
エノは鼻息も漏らした。
「わかっているじゃない。とにかく、上がったらおじいさんに報告ね」
「お母さんにも伝えないと。支配能力が関わっているかもしれないし、あの人なら何か知っているかもしれない」
ヘッドライトが点滅した。電池が切れかけていた。
「リミットだ。もう戻ろう」
エノが頷いたのを確認してから、ぼくは『潜水艦』を浮上させる。
その時、湖底に何かが浮遊しているのを発見した。滑らかな湖底の表面に張り付いているように見えるそれは、半透明の白い布に似ていた。べったりと広がっていて、30㎡ほどの面積を占有している。
白い布は『潜水艦』が浮上するときの水の流れに引き寄せられ、煙のように水中を漂った。とても軽く、柔らかい物のようで、途中で千切れ、水の中へ分解されていく。
「エノ、あれ何だろう」
「さあ。……もう、今日はわからないことばっかり」
長時間の潜水で疲れてしまったのか、エノはあまり興味を示さずに、光が差す方を見つめていた。
ぼくはヘッドライトで見える限り、その様子を観察し続けたが、千切れた布のような切れ端は、ぼくたちと同じように湖の中心へと吸い込まれていくことはなかった。
エノの息遣いがよく聞こえる。静謐な水底で、人の呼吸は似つかわない。
「着いたね」
エノが息を飲むようにそう言った。
きめ細かい泥が敷き詰められた湖底は、時が止まっていた。
「ちょっと触りたくないな」
ぼくは湖底に触れないように、ギリギリの高さを移動した。水の浄化に伴って、湖底もお掃除ロボットを走らせたように、枯れ木や生物の死骸が無くなっていた。時折湖へ飛び込む、人間の骨さえも。
ただただ湖底一面に飴色の無機物が敷き詰められている。
湖の藻屑も、もれなく無くなっていた。こんなにも綺麗になった湖底を巻き上げてしまったら、何かに祟られたとしても不思議じゃない。
ぼくたちは運良く引き込まれずに済んでいるが、やはり湖の生きている生物は一定の方角へと向かっている。笹の葉みたいな魚だけでなく、固有種のエビやナマズも同様に逆走していた。
彼らの向かう先へライトを照らしても続いているのは黒い世界だった。
なぜ、ぼくたちは例外なのか。その答えは突き止める必要がある。しかし、今回はここまでだ。
「エノ、もう酸素が尽きる。君が緊張しているから余計にね」
エノは口を膨らませている。
「あーあ、わたしのせいにしたね。今度、空から叩き落としてやるわ」
「エノは優しいからそんなことできないさ。もしも、一時の気の迷いで叩き落としてしまってもすぐに我に返って助けてくれる」
エノは鼻息も漏らした。
「わかっているじゃない。とにかく、上がったらおじいさんに報告ね」
「お母さんにも伝えないと。支配能力が関わっているかもしれないし、あの人なら何か知っているかもしれない」
ヘッドライトが点滅した。電池が切れかけていた。
「リミットだ。もう戻ろう」
エノが頷いたのを確認してから、ぼくは『潜水艦』を浮上させる。
その時、湖底に何かが浮遊しているのを発見した。滑らかな湖底の表面に張り付いているように見えるそれは、半透明の白い布に似ていた。べったりと広がっていて、30㎡ほどの面積を占有している。
白い布は『潜水艦』が浮上するときの水の流れに引き寄せられ、煙のように水中を漂った。とても軽く、柔らかい物のようで、途中で千切れ、水の中へ分解されていく。
「エノ、あれ何だろう」
「さあ。……もう、今日はわからないことばっかり」
長時間の潜水で疲れてしまったのか、エノはあまり興味を示さずに、光が差す方を見つめていた。
ぼくはヘッドライトで見える限り、その様子を観察し続けたが、千切れた布のような切れ端は、ぼくたちと同じように湖の中心へと吸い込まれていくことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった!
スキルスキル〜何かな何かな〜
ネットスーパー……?
これチートでしょ!?
当たりだよね!?
なになに……
注文できるのは、食材と調味料だけ?
完成品は?
カップ麺は?
え、私料理できないんだけど。
──詰みじゃん。
と思ったら、追放された料理人に拾われました。
素材しか買えない転移JK
追放された料理人
完成品ゼロ
便利アイテムなし
あるのは、調味料。
焼くだけなのに泣く。
塩で革命。
ソースで敗北。
そしてなぜかペンギンもいる。
今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる